COLUMN/INTERVIEW

「ブルーノート80ガイドブック」刊行記念トーク・イベント 完全レポート ~第2回~

斉藤:つづいては、本の「BN MASTERS (ジャズ・ジャイアンツ12選)」パートからお届けしたいと思います。ここではアルフレッド・ライオンが率いていた時代のブルーノートの歴史に欠かすことのできない12人をとりあげています(アート・ブレイキー、ルー・ドナルドソン、ホレス・シルヴァー、ハンク・モブレー、ジミー・スミス、リー・モーガン、ジャッキー・マクリーン、グラント・グリーン、フレディ・ハバ―ド、ハービー・ハンコック、ウェイン・ショーター、ボビー・ハッチャーソン)。

原田:斉藤さんから最初に提案されたのは10人だったんですが、ジミー・スミスとハービー・ハンコックを追加していただきました。スミスはその後に延々と続くブルーノートのソウル・ジャズ~オルガン・グルーヴ路線の元祖と言える存在ですし、ハービーは今も健在で、専属契約は60年代で終わっていますが、近年もブルーノート・オールスターズの『アワー・ポイント・オブ・ヴュー』にゲスト参加するなどブルーノートとの関係が続いていますから。

斉藤:では、このパートで紹介したミュージシャンの中から、お二人におすすめの1曲をご紹介いただきたいと思います。

原田:ハンク・モブレーの『ア・スライス・オブ・ザ・トップ』を持ってきました。彼は1973年に行われたインタビューで、このアルバムを最高傑作のひとつにあげています。しかも「どうしてあれをリリースしないんだ、オレが死んだ後にでも出すつもりなのか」と怒り気味で語っている。マイルス・デイヴィスの『クールの誕生』に倣って、チューバとかユーフォニアムとかブラスをたっぷり入れた意欲作なんだと。僕にはジョン・コルトレーンの『アフリカ/ブラス』を意識しているようにも感じられますが、それに関してはモブレーは何も語っていない。けっきょくリリースされたのは79年だったので、彼の亡くなる前には出たのですが、録音当時にしっかりリリースされていたらもっと評価された作品になっていたかもしれません。


♪ハンク・モブレー「ハンクス・アザー・バッグ」



原田:ブラスの響きが厚くて、「響け!ユーフォニアム」という感じです。

後藤:楽しげで好きなアルバムですよ。

原田:先ほど、これを聴きながら、後藤さんと「ジェームス・スポールディングがいい」と話をしていました。

後藤:ジェームス・スポールディングは結構好きなんです。僕は勝手に「アルトのウェイン・ショーター」と呼んでいるんですよ。ソロの展開が読めないでしょ。

斉藤:ウェイン・ショーターとかフレディ・ハバードのアルバムにサイドマンとして参加していますよね。なのに、リーダー作がブルーノートにはありません。

後藤:ないんです。不思議ですよね。

斉藤:つづいて後藤さん、お願いします。

後藤:さっき言ったことのつづきになりますが、名盤には「目から入る名盤」と「耳から入る名盤」の2種類があるんです。「目から入る名盤」というのは、大体ジャズは難しい音楽だと思われているから、初心者はなかなかアルバムを買いづらいでしょ。だから早い話がガイドブックなどで、どの作品が名盤と呼ばれているかを知って買って聴くわけです。最初は文字から入っていく。それに対して「耳から入る名盤」というのは、ジャズ喫茶に行って覚えた名盤。自分がリクエストしたものではなく、他の人がリクエストしたものや店主がかけたものを、なんとなくわからないけれどいいじゃないかと思う。これが耳で知る名盤だと思うんです。 次におかけするのは、まさにそれで私が耳で知った名盤なんです。私はジャズ喫茶を勢いで始めたところがあるので、ずいぶん長い間、他のジャズ喫茶に偵察に行っていました。「DIG」や「ファンキー」にも行きましたが、いちばんよく行ったのは「ジニアス」なんです。いま中野新橋にありますが、その昔は道玄坂の脇の路地の地下にありました。渋谷のヤマハで新譜レコードを買って、その帰りに寄って、必ずレコードがかかるところに背中を向けて座るんです。

斉藤・原田:背中?

後藤:つまりジャケットを見ないで聴くんですよ、そうでないと先入観が入っちゃうから。背中で聴いて好きか嫌いか、良いか悪いか。ジニアスの鈴木彰一さんがかけるアルバムを背中で聴いて、良いと思ったらメモして。その中の一枚がこれなんですよ。

原田:ジャッキー・マクリーンの『ジャッキーズ・バッグ』。

後藤:「すごいかっこいい」と思って後ろを振り返ってジャケットを見たら、うち(「いーぐる」)にあるじゃないかと。どうして気づかなかったんだろうと思ったら、A面しか聴いていなかった。

斉藤:なるほど。

後藤:このアルバムはA面とB面は別のセッションなんです。かっこいいのはB面。まさに耳から「すごい」と思った演奏です。僕にとってブルーノートというのはやっぱりマクリーンなんですよ。フレディやショーターもいいけど、60年代70年代のジャズ喫茶でいちばんよくかかったのはマクリーンなんです。プレスティッジ時代からブルーノートにかけて。ソニー・クラークの『クール・ストラッティン』にもマクリーンに負っているところが大きい。そのマクリーンの「アポイントメント・イン・ガーナ」です。


♪ジャッキー・マクリーン「アポイントメント・イン・ガーナ」



後藤:先ほどのキャノンボールとマイルスの共演とはメンバーも違うんだけど、同じテイストがあるでしょ。

斉藤:そうですね。

後藤:これがハード・バップなんです。ジャズを好きになるとハード・バップから抜けられなくなるわけですよ。ブルーノート、プレスティッジにはこの手の傑作、聴いて飽きないアルバムが山のようにあります。でもちょっとしたハード・バップの名盤って、なかなかガイド本には載ってないわけです。ガイド本はマイルス、コルトレーン、ビル・エヴァンスになるから。もっとディープな世界を知っていただくとジャズから足が抜けられなくなるというのかな。それにはジャズ喫茶に通ってくださいと言いたいですね。

原田:ジャズ喫茶で覚えたアルバム、山のようにありますよ。

後藤:私が絶対言いたいのは、自分の好みだけで聴いちゃダメ。なぜかというと好みのものだけを聴いても堂々巡りになるんですよ、絶対広がらないわけ。トートロジーになる。だけどジャズ喫茶に行ってボーッと聴いていると、いやでもわけのわからないものが入ってくるわけでしょ。拒絶反応もあるかもしれないけど、出会いもある。自分の選んだものではないから。あれ、これなんだろうという。ジェームス・スポールディングの名前はガイド本を読んでもなかなか出てこない。でも、ウェイン・ショーターの『スキッツォフリーニア』、実はあそこでけっこうおいしいフレーズを吹いたりするのはスポールディングだったりするんです。1曲目のテーマ・メロディも彼が吹いている。

 斉藤:そうですね、「トム・サム」とか。

原田:言われてみればそうでした。


(次回更新につづく)