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「ブルーノート80ガイドブック」刊行記念トーク・イベント完全レポート ~第5回~

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斉藤:最後にブルーノートの最新作品から2曲、お届けしたいと思います。最初はキーボード奏者のジェイムズ・フランシーズです。ポスト・ロバート・グラスパーの最右翼的な存在で、まだ20代半ばの新鋭です。パット・メセニーと共演して、なおかつコモンやナズやローリン・ヒルのバックも務めるという、ジャズとヒップホップを自由に行き来する今どきのアーティストです。ジェイムズ・フランシーズは1月にメセニーのバンドで来日しますが、本日は彼のブルーノートからのデビュー・アルバム『フライト』からクリス・ポッターのサックスをフィーチャーした「レシプロカル」を聴いていただきます。


♪ジェイムズ・フランシーズ「レシプロカル」



原田:聴いていて嬉しくなってきますね。フランシーズのピアノも鋭いですし、今の僕はヴィブラフォンのジョエル・ロスの参加作を全部集めたくなるぐらい惚れ込んでいるんですよ。

斉藤:アコースティックなセッションですけど、ドラムやベースは明らかにこれまでのジャズとは違う音像です。

後藤:面白いですよね。最近はアメリカに限らずレベルの高いミュージシャンがどんどん出てきていますね。

斉藤:ルーツがジャズだけじゃないということが当たり前になっています。そのあたりをいかにジャズに昇華させるか。

後藤:それが今すごくいい形で出てきていると思うんです。90年代もミュージシャンはジャズだけ聴いていたわけではないだろうけど、木に竹を接ぐみたいな感じがなきにしもあらずだった。それがここに来て完全にこなれている。出てくるサウンドはかなり昔のジャズとは違うんだけど、昔からずっとジャズを聴いていたらこれはやはりジャズだなと思えるテイストは出てきています。そういう意味では完全にジャズが新しいディメンションに入ったという気がしますね。

斉藤:今やロバート・グラスパーが一時代を築いて巨匠のような存在になってしまった。それを受けて、その下の世代がより自由に自分たちの音楽を発表し始める時代になってきました。

後藤:でもベテランのファンが新しいジャズに偏見を持っていることがあるんですよ。先日「ジャズ批評」の松坂妃呂子さんのお別れ会に参加したんですけど、お歴々のひとりが「後藤ちゃん、最近何聴いてるの?」というのでゴーゴー・ペンギン、スナーキー・パピー、カマシ・ワシントン等について説明したんです。でも「フーン」という感じで、あんまりノリが良くない。ライヴに行ってみたらわかるということもあると思います。最近のジャズの持つ表面的な新しさの裏というのかな、そこには過去のジャズのグルーヴ感であるとか個性であるとか個々のミュージシャンの持ち味がちゃんとある。マイルスとかコルトレーンとか聴いてきたひとは最初オヤッと思うかもしれないけど、聴くポイントを掴めばちゃんと乗れると思います。

斉藤:ジェイムズ・フランシーズのライヴもぜひ皆さんに観ていただきたいです。1月16日から20日までパット・メセニーのバンドでブルーノート東京に出演し、翌日の21日は同じブルーノート東京で開催されるブルーノート80周年記念ライヴ・イベント「Blue Note Plays Blue Note」にもゲストで参加します。この日は黒田卓也、西口明宏、井上銘、桑原あい、宮川純、角田隆太(ものんくる)、石若駿による日本人若手オールスター・バンドとの共演です。さらに翌22日には、ジェイムズにかわって、アフロビート・ドラムの巨匠トニー・アレンがゲスト参加してアート・ブレイキー・トリビュートも披露しますので、そちらもぜひご覧いただければと思います。

原田:トニー・アレンはブレイキーとマックス・ローチがアイドルなんですよ。モダン・ジャズとアフロビートの接点を探りに、聴きに行きたいですね。

斉藤:最後にお届けするのが今年85歳、ブルーノート最年長アーティストのウェイン・ショーターです。最新作『エマノン』には、グラフィック・ブックがついています。ショーターは子供の頃から漫画を描くのが好きだったそうですが、今回のグラフィック・ブックではストーリーを考案しています。危機的な状況にある地球を、エマノンというスーパーヒーローが救う物語です。その漫画とCD3枚が一緒になったのが、この最新作です。CDはスタジオ録音とライヴに分かれていまして、ディスク1がダニーロ・ペレス、ジョン・パティトゥッチ、ブライアン・ブレイドとの不動のカルテットにオルフェウス室内管弦楽団が加わった組曲。ディスク2と3は同カルテットのロンドンでのライヴ録音です。通して聴くとお腹いっぱいになる、ショーター・ミュージック満載の作品です。


♪ウェイン・ショーター「プロメテウス・アンバウンド」



原田:そんなにサックスの出番はないですが、吹いてなくてもショーターの匂いがします。それぞれの楽器のパートに彼の刻印がある感じですね。

斉藤:オーケストレーションもすべてショーターが書いていますからね。

後藤:こういうのを聴くと思い浮かぶのはオーネット・コールマンの『スカイズ・オブ・アメリカ』です。好きな作品ですが、はっきり言ってクラシックのパートとオーネットのソロの絡みがそんなにうまくいっているわけではないんですよ。でもここに来てクラシック的なサウンドとジャズのソロの絡みが非常にこなれてきたというか、ショーターが曲を書いているから当然と言えば当然ですけど、クラシカルな部分とソロの絡みがすごくうまくいっている。最近、楽曲が非常に重視されているでしょう。カマシ・ワシントンの『ヘヴン・アンド・アース』もサウンドは全然違うけど発想としては近いですよね。そういう意味ではこれは現代ジャズのトレンドといえなくもない。

斉藤:残念ながら終了の時間になってしまいましたので、最後にお二方にもう一度ブルーノートの魅力をうかがいたいと思います。

原田:いまもバリバリの現役として営業を続け、しかも面白い作品をどんどん発表していることですね。ブルーノートが80年を迎える来年、プレスティッジは70周年を迎えます。でもブルーノートほどの盛り上がりは望めないでしょう、活動を停止して久しいから。やっぱり活動を続けてシーンに刺激を与えているからこそ、こちらも熱くなれるんですよ。それにブルーノートという名前にはブランドの輝きがあるし、ディストリビューションの力も並はずれている。ブルーノートから出た作品は店頭にもしっかり並び、配信もされる。ロバート・グラスパーもマーカス・ストリックランドもブルーノートから作品を出すようになって、一気に支持層が広がったのではないでしょうか。ジャズ・ミュージシャンにとってブルーノートと契約するということは、世界へのファースト・クラスの搭乗券を手にしたのと同義語だと思います。来年50周年を迎えるECMにしてもそうですが、時代の空気を吸って転がり続けるレーベルの作品というのは、購入する時も聴いている時も何かわくわくさせられるものですよ。

後藤:ECMとブルーノートは表面的なテイストは全然違いますが、要するに「ちゃんと作っている」ってことですよね。でも、たとえば昔のプレスティッジはそうじゃない。ちゃんと作らなくてもいい時代だったんですよ、ネタがいいから。職人が雑に握ってもおいしかったのがプレスティッジの時代。その点ブルーノートは昔からネタがよければ職人もよかった。もう少し具体的に言うと、商業主義とミュージシャンの創造性の折り合いをどこでつけるかということを非常によく考えていると思う。ジャズには芸術音楽と大衆音楽という側面があって、時代によってそのバランスは変わるけれどその辺をよく考えないとレコードやCDは流通しないんだから、聴き手にも届かないわけですよ。そのバランスみたいなものをブルーノートは常に考えて、非常に誠実に作品を作っているという気がします。

斉藤:ドン・ウォズがもともとミュージシャンであるということも、アーティストの大きな信頼につながっているようです。

後藤:彼はロック畑のひとですし、いかに売るかを考えているんでしょうね。「これは芸術なんだ、わからないお前がだめなんだ」ということでは通らないわけですから。

斉藤:そのブルーノート入門への一助となるガイドブックが『ブルーノート80ガイドブック』です。なかにシリアルコードが印刷されたカードが入っています。かつて東芝EMIがブルーノートを販売していた時代、「BLUE NOTE CLUB」という会報誌がありました。今回それをウェブサイトで復活させました。カードに印刷されたシリアルコードを入力すると、ライヴ映像やイベント招待といった特典をお楽しみいただけます。そういう意味でも、『ブルーノート80ガイドブック』は1冊で2回おいしい内容になっていますので、ぜひ手に取っていただけたらと思います。本日は長い時間おつきあいいただきましてありがとうございました。

(了)