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桑原あい「Blue Note Club」インタヴュー

気鋭ピアニストと、百戦錬磨のミュージシャンが織りなす“音の語らい”。

2019 年3 月20 日にリリースされる桑原あいの新作『Live at BLUE NOTE TOKYO』は、2018 年9 月にスティーヴ・ガッド(ds)、ウィル・リー(b)という世界最高峰のミュージシャンを迎えて開催したブルーノート東京公演最終日の模様を収録したライヴ・アルバムだ。

このトリオは2016年にニューヨークでレコーディングを行ない(2017 年リリース作品『Somehow,Someday,Somewhere』)、初の全国ツアーを開催。そして2018 年、約1 年ぶりに再びツアーに出て、本アルバムを完成させた。「このタイミングで、ぜひライヴ・レコーディングしたかった」と語る桑原あいに話をきいた。



ウィルもスティーヴも、音がとてもピュアなんです。ものすごく確信をもって一音一音を出している。この場所にはこれしかない!という感じのトーンとサウンドです。そんなふたりと共演するには、こちらにも迷いがあってはいけない。

最初にふたりと演奏したのは、『Somehow, Someday, Somewhere』の時です(2016年録音、2017年リリース)。数えきれないほどいろんなCDを聴いて親しんできた憧れのミュージシャンとの共演に、めちゃくちゃ緊張しました。前乗りでニューヨークに行ったんですが、私で大丈夫だろうかという不安ばかりが先立って。スタジオでも最初にその緊張が伝わったんでしょうね、スティーヴは「同じ地点に立って演奏してほしい。君が僕らをリスペクトしているように、僕らも君をリスペクトしているんだよ」と、ウィルは「僕のことを決してヒーローと呼ばないで。ただのウィル・ボーイなんだから」と言ってくれた。これはメンタルを完全に切り替えなければ良い演奏はできない、ふたりに対しても失礼だと思って、演奏に取り組みましたね。


2017年には初めてツアーを行ない大好評。2018年9月に再会し、前回をしのぐ緻密なコンビネーションで満場のオーディエンスを熱狂させた。新レパートリーもたっぷり披露されたが、なかでも書き下ろし曲「SAW」は手に汗を握らせる。

ウィルにしても24丁目バンド、スティーヴにしてもガッド・ギャング等でめっちゃファンキーな音楽に取り組んできた。彼らのことを一番生かしたグルーヴの曲を書きたいけれど、誰かが書いたような曲を真似しても意味がない。私と彼らのグルーヴが一体となって、なおかつピアノ・トリオとして光る曲。それを考えているうちに「SAW」の構想が浮かびました。タイトルはスティーヴのS、あいのA、ウィルのWの頭文字で、“目撃した”という意味になります。前作にはファンクっぽい曲が入っていなかったんですよ。なので今回、この曲をぜひ収録したかったんです。と同時に、私自身のプレイはすごく引き算しました。ああいう曲だと、つい多めに弾きたくなるんです。ピアノ・ソロの箇所に限らず、イントロとかテーマ・メロディの中とか、コンピング(コード・バッキング)でリズミカルに埋め尽くしたり。だけど私が弾きすぎたら彼らのグルーヴを壊すだろうと思った。ふたりの演奏はポケットがとても深いので、確信が持てないところで音を出したら邪魔になるんです。彼らの生み出すグルーヴだけは絶対邪魔したくなかったので、とにかく音を厳選しました。
 

  

ウィルのポルトガル語ヴォーカルも楽しめる「黒いオルフェ・メドレー」、デイヴ・ブルーベックの変拍子曲「ブルー・ロンド・ア・ラ・ターク」など、カヴァー曲にも独特のテイストを持つものが揃う。そして、ミシェル・ルグラン作曲の「ハウ・ドゥ・ユー・キープ・ザ・ミュージック・プレイング?」では絶品のバラード・プレイを披露する。

昨年7月に「ブルーノート東京」で行なわれたルグランの来日公演を見に行ったんです。「ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング」の自作自演も聴くことができて、最高の気分でした。私はずっとルグランをリスペクトしていて、ライヴでもよくソロ・ピアノで彼の楽曲を弾いてきました。亡くなったのは本当に残念です(1月26日、パリで死去)。

「ハウ・ドゥ・ユー・キープ・ザ・ミュージック・プレイング?」という曲を知ったのは、私が小学校高学年の時です。フランク・シナトラの『L.A.イズ・マイ・レディ』というCDで聴いて、なんていい曲なんだと思って、この曲の入ったアルバムを集めるようになりました。どんなことを歌ってるんだろうと、歌詞も調べて。いつまで音楽を続けていられるんだろうか・・・この気持ちはミュージシャンになってみると本当によくわかります。音楽は数式のようにキッチリとした答えの出ない世界で、自分自身の気持ちを維持しておくことが本当に大切なんです。ツアー(2018年9月)でこの曲を弾いた頃、ルグランはまだお元気だったのですが、今、同じ曲を弾いたら、やっぱり「この作曲者は亡くなってしまったんだ」という気持ちが盛り込まれてしまいますね。そういう意味では、もう二度とこの日のような「ハウ・ドゥ・ユー・キープ・ザ・ミュージック・プレイング?」は演奏できない。伊藤潔プロデューサーから「弾いておいてよかったね」というLINEが来たんですが、私もそう思います。

私にとって初のライヴ・アルバムが、ウィルとスティーヴとの共演で出せるのはとても嬉しいことです。スタジオ録音で演奏したことのある曲も全然違ったものになっていますし、ぜひライヴの場に立ち会っているような気持ちで聴いてもらいたいですね。そしてぜひ、実際のライヴにも足を運んでもらえたらと思います。


インタビュー 原田和典


ブルーノート東京にてスティーヴ・ガッド(ds)、ウィル・リー(b)という世界最高峰のミュージシャンとの共演の模様を収録したライヴ・アルバム『Live at Blue Note Tokyo』、2018年9月録音。



■リリース情報
『Live at Blue Note Tokyo』
発売日:2019年3月20日
品番:UCCJ-2164
価格:¥3,000(税抜) ¥3,240(税込)

▼CD予約はこちら
https://store.universal-music.co.jp/product/uccj2164/

[収録曲]
1. Somehow It’s Been A Rough Day (Ai Kuwabara)
2. How Do You Keep The Music Playing? (M.Legrand-A.& M.Bergman)
3. Black Orfeus Medley
・A Felicidade -A.C.Jobim (V.de Moraes)
・Manha De Carnaval (L.Bonfa-A.Maria)
・ Samba De Orfe (Luiz Bonfa)
4. Whereabouts (Ai Kuwabara)
5. SAW (Ai Kuwabara)
6. March Comes in Like a Lion (Ai Kuwabara)
7. All life will end someday, only the sea will remain (Ai Kuwabara)
8. Blue Rondo A La Turk (Dave Brubeck)
9. The Back (Ai Kuwabara)