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挾間美帆「Blue Note Club」独占インタビュー。 NYの若手ビッグバンドの状況と、そのシーンの中で彼女がどんな役割を果たしているかを音楽評論家、柳樂光隆がインタビュー。

 

2018年の12/31にNYタイムスに「‘They’re Doing It Out of Love’: The Big Band Rises Again」( https://www.nytimes.com/2018/12/31/arts/music/jazz-big-band-revival.html)という記事がアップされた。若い作曲家たちが自身のビッグバンドをたちあげて、自身の表現を追い求めながら、新しい音楽を作っている状況が書かれていた。その中で挾間美帆は写真付きで大きく取り上げられていた。その理由は、彼女自身のジャズ作曲家としての目覚ましい活動はいうまでもないが、NYのビッグバンドのシーンの中で大きな役割を果たしているジャズ・コンポーザーズ・ショーケースというイベントのキュレーターとしての活動もあるようだ。ここでは挾間美帆にNYの若手ビッグバンドの状況と、そのシーンの中で彼女がどんな役割を果たしているかを聞いた。




 


――NYタイムスでNYのビッグバンドをとりあげた記事がアップされて、そこでは挾間美帆さんも大きく取り上げられていました。NYタイムスが取り上げるくらいビッグバンドが盛り上がってきているということだと思いますが、今のビッグバンドの状況を教えてもらえますか?

こういう感じでNYタイムスにビッグバンドが取り上げられることが4年に一度くらいあるみたいなんですよ。4年前はライアン・トゥルースデルで、その前はダーシー・ジェームス・アーギューだったみたいで「今回は美帆だったんだね」と記事を見たライアンが言ってました(笑。でも、4年前はライアンがやっていたギル・エヴァンス・プロジェクトがグラミーをとって、それがきっかけでギル・エヴァンスにまた脚光があたったことから、「ギル・エヴァンスってやっぱりすごかったよね、思い出そうか、みんな」っていうような流れがあったから、NYタイムスが取り上げたと思うんです。だから、その当時は同時代のビッグバンドがにわかに盛り上がっていると言うことではなくて、ギル・エヴァンスとかスタン・ケントンとかの過去にビッグバンドに貢献した作曲家がいるから再確認しようねって時期だったと思うんですよ。

――つまり今のビッグバンドのシーンの話と言うよりは、昔のジャズの話だったと。

でも、今のこの記事は「若い子たちが商業目的ではなく、なぜこんなにビッグバンドをやりたがっているのか。しかも、レーベルが制作費を払うのではなくて、完全オリジナルのアルバムを割とみんな自費で作っちゃっているのはなぜなのか」ということが書いてあるんですね。その流れはダーシー・ジェームス・アーギューの成功以降、この3,4年で急激に増えたと思うので、そこに注目したのがNYタイムスの記者のジョヴァンニ・ルッソネオ(Giovanni Russonello)だったんじゃないかなと思います。しかも、この記者のジョヴァンニ自体がすごく若い人で、この前、私も会ったんですけど、NYタイムスに書いてる人だから怖い人なのかなと思ったら、普通に今っぽいファッションの方だったんです。「君たちが今、何をやっているかを知りたくて追いつこうとしているんだよね」みたいに言ってくれたので、こっちが拍子抜けしたくらいです。

――若い人たちが面白いことをやっていて、それに若いジャーナリストが興味を持ったっていうことなんですね

興味を持ってもらおうと思っている人たちの年齢も下がっているのかなって印象がありますね。これをプロモーションしてくれている私が雇っているパブリシストたちも若いし、これを書いた記者も若いし。彼らはレジェンドが作ったものは素晴らしいという知識はもちろんもっているんだけど、この記事で取り上げられているような若い人たちにも興味を持とうとしてくれているというか、いいものはいいと発信しようとしてくれている印象を受けましたね。そういう意味では、メディアの視野が広くなった感じがするんです。この記事の中にはCDデビューしていない人がたくさんいることに私はびっくりしました。でも、そういう人たちを載てくれて、プレイリストを作ってくれているのを見て、面白いと思ったらNYタイムスのようなところに載せられる時代になったんだなって思いました。例えば、Jihey Leeはアメリカではまだあまりディストリビューションされてないし、Terraza Big BandもこれからデビューCDが発売されるところです。一番最初に出てくるErica Seguine & Shannon Baker Jazz Orchestraは、ローカルシーンでは有名ですがCDデビューすらしていません。

 


――
 


 

私がNYのジャズ・ギャラリー(https://jazzgallery.nyc)でやっているジャズ・コンポーザーズ・ショーケース(http://www.jazzspeaks.org/the-jazz-gallery-presents-jazz-composers-showcase-vol-11/)で最初に考えていたのは、既にCDを出していて、今後のコンサートの予定とかも既にあって、ファンベースを作っていけるような作曲家に出てもらうってイメージがあったので、NYタイムズに載せるなら最低限CDとか出てないとダメかなって思っていたけど、サブスクリプションとプレイリストの時代って全然違うんだなってこの記事を見て思いましたね。

――なるほど。SpotifyやApple Musicなどが主流になってきたことで、ジャズのシーンでも活動のしかたや評価のされ方が変わってきているんですね。ちなみに記事に出てる作曲家は、挾間さんがやってるジャズ・コンポーザーズ・ショーケースに出たことがある人が多いんですよね?

 


ほぼ出てますね。

――つまり、今まで挾間さんのイベントで紹介してきた作曲家が記事のベースになっているってことですね。

ジョヴァンニが、ダーシー・ジェームス・アーギューと私とブライアン・クロックに他にどういう人たちを取材したらいいかあらかじめヒアリングしていたんですよ。たぶんダーシーがエリカを紹介したのかな。ちっちゃいブルックリンの小屋で、CDも出してないエリカとシャノンがこんな大編成のライブをやっているというErica Seguine & Shannon Baker Jazz Orchestraのストーリーがこの記事のスタートですね。あと、Terraza7っていうクイーンズにあるラテン系のヴェニューがあるんですけど、中二階にある金網の上で演奏するみたいな不思議な場所なんです。そこに吊るされてるのか、置いてあるのかわからないグランドピアノがあって、超怖いんだけど、そこで箱バンやっているのがTerraza Big Band。そのストーリーも取り上げられてます。

――ここに紹介されてる人って、ジャズ・コンポーザーズ・ショーケースで紹介してるくらいだから挾間さんはもともと知ってたわけですよね。こういう新しい人たちってどうやって見つけてきたんですか?

ジャズ・コンポーザーズ・ショーケースは2014年からやっているんですけど、Terraza Big Bandの作曲家たちにはそこで演奏してもらったことがあります。実はCoリーダーのEdward Perezが私のバンドのm-unitでよく演奏してくれるベーシストなんですよ。ある時に「実は僕にも自分のビッグバンドがあってね、ジャズ・ギャラリーでライブやりたいんだよね」って言われて。それでジャズ・コンポーザーズ・ショーケースへ誘いました。Terraza Big Bandはもう少ししたらアルバムが出るんですけど、私はそれの指揮をしています。ニック・フィンツァーってトロンボーン奏者のIn’n’outってレーベルから出ると思います。

あと、ジャズ・ギャラリーへ直接「ライブをやりたい」ってメールを送るジャズ作曲家がたくさんいて、それらのメールを転送してもらっているので、その都度音源を聴いていいなと思ったら連絡をするようにしているんですね。「ジャズギャラリーで自身のオーケストラライブをやる前に、是非このイベントに出てほしい」って感じでジャズ・コンポーザーズ・ショーケースのことを説明して、意義に賛同してもらえたら出演していただくシステムになっています。その中で出会ったのが、韓国出身のジヘイ・リーですね。エリカとシャノンは私がBMI(※アメリカのNPO。ジャズ・コンポーザーのためのワークショップなども開催している。挾間美帆はここが主宰するコンペティションでBMIチャーリー・パーカー・ジャズ作曲賞を受賞している。 (https://bmifoundation.org/)とかMSM(NYにある音楽大学 Manhattan School of Music)に通っていた時点で既にライブもしていて、すごく長く地道に活動しているアーティストです。その頃からすごく才能がある人たちだったので、ジャズ・コンポーザーズ・ショーケースを立ち上げた時の一回目に呼んでいます。一回目は私とクリス・ズアーとエリカだったんですね。(http://www.jazzspeaks.org/the-jazz-composers-showcase-miho-hazama-erica-seguine-chris-zuar/


――ちなみにジャズ・コンポーザーズ・ショーケースってどんなイベントか簡単に説明してもらえますか?

ジャズ・コンポーザーズ・ショーケースでは、毎コンサートひとつのビッグバンド・あるいは大編成バンドを3人の作曲家でシェアするんです。それぞれの作曲家に均一なリハーサル時間が割り当てられます。ワンセット60分ある中で一人だいたい2曲づつ、それぞれの作曲家がかわりばんこに演奏ししてもらうので、ABCABCって感じでプログラムを組みます。そうすると同じビッグバンドのなのに曲ごとに全く違う音がするのがわかるんです。作曲家ごとに全然違う音がするのを聴くのがこのショーケースの醍醐味ですね。

――ところで、そういう作曲たちは普段はどういうところで活動しているんでしょうか?

あまり演奏していないんじゃないかな。ビッグバンドはそんなにライブをできるわけじゃないと思うんです。Terraza7みたいにその箱の専属だったら別ですけど。スーパー・マリオの音楽をビッグバンドでやっている人知ってますか?もともとミュージカルのオーケストレイターとして有名なチャーリー・ローゼンが、マリオの音楽とかをビッグバンドで演奏する8ビット・ビッグバンド(https://www.the8bitbigband.com)というのを始めたりしてます。彼はブロードウェイ界隈で定期的にビッグバンドのライブもやっているんですけど、そこではマリオはやらずにスウィングばっかりやっているんですね。そういうコマーシャルなビッグバンドはありますけど、前衛的なオリジナル曲をやっているビッグバンドがレギュラーでライブ演奏しているっていうのは全然聞かないのがNYの現状ですね。

CDリリースのライブをブリュワリー(ビール工場)でやってた人もいましたね。私もNYでは年に1、2回できればいいかなと思っているんだけど、みんなビッグバンドがライブできる場所はなかなかないから相当苦労していると思う。ジム・マクニーリーがNYタイムスの記事でも言っていたけど、「Out of Love = 愛があるからやっているだけだよ」みたいな感じですね。なにかの機関からのサポートがあるわけでもないのに、その音楽に対する愛情があって…やる気がなければこんなことは続かないはずだと言ってますけど、その通りなんじゃないかな。


――だからこそジャズ・ギャラリーみたいな場所が重要だし、挾間さんがやっているジャズ・コンポーザーズ・ショーケースはNYのビッグバンドのシーンのハブみたいになっているののも意義があるわけですね。

そこに出演すればジャズ・ギャラリーでのライブに繋がるってうわさは広がっている気がしますね。現にその中でもアナ・ウェバーやジヘイ・リーはイベントに出てもらったら、ジャズ・ギャラリーのリオ・サカイリさんが気に入ってくれて、その後、ジャズ・ギャラリーに出演してました。なので、私の名前かはわからないけど、そこに入っておくと、可能性が広がるよって思えてもらえてるといいなとは思ってますね。

――クラブのパーティーにおけるDJみたいですね、出演者が多いイベントにブッキングされて、そこでクラブのブッキング担当者に聴いてもらえて気にいられたら次があるって感じが。

そうですね。若くて誰も知らない作曲家のビッグバンドに一晩任せるっていうのはヴェニューにとってはリスキーですよね。さすがにいきなり一晩任せることは難しいけど、そこに繋がるためのものをやりたいと思ってくれているジャズ・ギャラリーは神様ですよ。ジャズ・ギャラリーはNPOでもあるので、ジャズ・コンポーザーズ・ショーケースをシリーズ化にすると助成金も取りやすくなったりするみたいなんです。だから今はわざわざそのための助成金を毎年ゲットしてくれていて、その助成金があるからイベントを続けられているんだと思います。

――なるほど。では、そもそもそのジャズ・コンポーザーズ・ショーケースを立ち上げたきっかけはどのようなことだったんですか。

最初はジャズ・ギャラリーのリオ・サカイリさんが、若いビッグバンドのライブをやりたいけど、予算的に難しいと。もし一度に3人とか呼べて、予算の範囲内でできるやり方があるのではあれば、やってみないかって話をくれたんです。最初は私に作曲家として参加してほしいって話だったんですけど、私はいつも作曲家として参加するんじゃなくて、イベントのプロデューサーとしてコーディネートする立場のほうがいいと思ったので、今のような形になりました。だから今、私の立場はキュレーターですね。最初はメールの返信のしかたも慣れてなかったので、反発買ったり、怒られたりもしたんだけど、リオさんが温かく見守ってくれたのでここまで続いたんです。感謝ですね。

――リオ・サカイリさんはなぜやろうと思ったんでしょうか。

ジャズ・ギャラリーはNYの若手ジャズミュージシャンにとって登竜門というイメージがある場所なんです。だから、若いミュージシャンにとってはジャズ・ギャラリーに出演するのは夢なんですよ。でも、トリオやカルテットで活動している子たちにはそういう夢は叶えさせてあげることができるのに、ビッグバンドをやっている子たちには、たとえいい音楽だったとしてもそういう夢を叶えさせてあげにくい状況がある。リオさんはそれをアンフェアだと感じていたんじゃないかなと思います。

あと、たぶんですけど、2012、2013年くらいから「ジャズ・ギャラリーでライブをやらせてほしい」みたいなビッグバンドをやってる若いミュージシャンからのメールをかなりの頻度で受け取るようになったんだと思うんです。ダーシー・ジェームス・アーギューやペドロ・ギラウドくらい(実力も知名度もある作曲家)だったらいいけど、それに次ぐ、私やら、クリストファー・ズアーもやりたがってて、みたいな感じで、ビッグバンドの希望者が増えてきてオファーでパンクしていたのもあるのかもしれないですね。


――ビッグバンドをやっている才能ある作曲家が増えてきた状況があったわけですね。その状況をサポートするためのものをジャズ・ギャラリーが立ち上げたというのはシーンが求めるものを適切に迅速に提供したってことかもしれないし、それがシーンを育ててきて、NYタイムスが記事にするほどになったとも言えるかもしれないですね。

ジャズ・コンポーザーズ・ショーケースは長く続けてシリーズ化したいとは思っていましたけど、NYタイムズに取り上げられたり、こういういい形で繋がるとは思わなかったですね。実は、始めた直後にBMIのジャズ・コンポーザーズ・ワークショップがつぶれるかもしれないって話があったんです。ジャズ・コンポーザー向けじゃなくて、ミュージカルの音楽のワークショップに一本化されるって話があったんですね。そんなタイミングで「ジャズ・コンポーザーを集めて、ジャズ・ギャラリーでビッグバンドで音楽をやろう」みたいなのを始めたので、「BMIのワークショップが無くなってもこれは無くさないでね」みたいなことを言ってもらえたので続いたのもあります。結局、BMIのワークショップは無くならなかったんですけど、ジム・マクニーリーやマイク・ホロバーはワークショップから撤退しちゃったんですよ。だから、ジャズ・コンポーザーズ・ショーケースがジムやマイクの系統を継ぐイベントって感じで面白い人が集まる場所であってほしいなと思ってやっています。

テキスト 柳樂光隆





■リリース情報
挾間美帆 『ダンサー・イン・ノーホエア』
発売日:発売中(2018年11月21日)
品番:UCCJ-2162
価格:¥3,000(税抜) ¥3,240(税込)

■CD情報詳細はこちら
https://www.universal-music.co.jp/hazama-miho/products/uccj-2162/