COLUMN/INTERVIEW

ノラ・ジョーンズ『ビギン・アゲイン』収録楽曲解説

4月12日(金)発売、ノラ・ジョーンズ の新譜『ビギン・アゲイン』収録楽曲解説(テキスト内本順一)

 



「マイ・ハート・イズ・フル」(1曲目収録)
2018年6月に先行配信された、ノラのダークサイド曲。テレビの粋を超えて先進的な作品を送り出している米テレビ局「HBO」のイメージキャンペーンに使用された。細波のような始まりの音とプログラミングされたドラムの音が不穏なムードを伝えてくる。ひとりで砂漠に立っているような、なんともいえない不安感。ジャズでもブルーズでもロックでもソウルでもない、現在のアメリカを反映したサウンドだ。プロデュースとエンジニアリングを手掛けているのはトーマス・バートレット。アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズのメンバーで、自身のソロ・プロジェクトであるダヴマンでも活動。スフィアン・スティーヴンス、デイヴィッド・バーンらのサポートや、ニコ・マーリーとの共作、クリス・シーリ、マーサ・ウェインライトのプロデュースなどでも知られる鍵盤奏者で、この曲では鍵盤とドラム・プログラミングも手掛けている。初めは抑制されているが、途中で抑えきれずに爆発するようなノラのヴォーカルが凄い。

 

 




 




「イット・ワズ・ユー」(3曲目収録)
2018年6月に配信した「マイ・ハー ト・イズ・フル」に続いて、7月13日に配信開始された曲。ブライアン・ブレイド(ドラムス)、クリストファー・トーマス(ベース)、ピート・レム(ハモンドB-3オルガン)という前作『デイ・ブレイクス』の数曲から引き続いてのミュージシャン仲間に加え、トランペットのデイヴ・ガイとテナーサックスのレオン・ミッチェルズも参加。ノラのピアノはもちろんのこと、オルガンとホーンの入りが味わいの深さに結びついてもいるソウル・バラードだ。プロデュースはノラ自身。言葉数の極めて少ない、けれどそれだけに確信をついた歌詞。倍音の活かされた、ふくよかなヴォーカル。こういったスローソングを聴くと、かつてとは比較にならないほどノラの表現力が格段にアップしていることを実感させられる。

 




「ア・ソング・ウィズ・ノー・ネーム」(4曲目収録)
“songofthemoment”シリーズの第3弾として、2018年9月に配信された曲。ノラとジェフ・トゥイーディが組んで制作した。ジェフ・トゥイーディは、イリノイ州シカゴを拠点に活動するオルタナティブ・ロックのカリスマ的存在であるバンド、ウィルコのフロントマン。この曲でジェフはノラと共作し、アコースティック・ギターとエレクトリック・ギターを弾き、プロデュースも担当している。ノスタルジックなムードと枯れた味わいのある、オルタナティブ・カントリー的な仕上がりだ。これもやはり言葉数の少ない歌詞ではあるが、聴き手につきつけてくるものが大きく、いろいろと考えさせられる。

 

 

  

 

 

「ウインタータイム」(6曲目収録)
昨年11月に“#songofthemoment”シリーズの第4弾として配信され、ホリデー・ソングとして親しまれた。ウィルコのジェフ・トゥイーディーとノラの共作曲だ。プロデュースをジェフが担当。彼がギターとベースを弾き、ジェフの息子であるスペンサー・トゥイーディーがドラムを叩いている(ふたりは親子バンド、トゥイーディーでも活動)。大ヒットしたデビュー・アルバムの楽曲に近い雰囲気を持った柔らかなピアノ・バラードで、「これぞノラ・ジョーンズ」、「こういう曲を聴きたかった」と喜んだ人も多かったに違いない。まさに冬のスケッチのような曲。ライヴで聴いてみたい。

 




「ジャスト・ア・リトル・ビット」(7曲目収録)
新作『ビギン・アゲイン』の発売がアナウンスされると同時に先行配信されたのがこの曲(“#songofthemoment”シリーズ、5曲目の配信曲)。ノラ・ジョーンズ、サラ・オダ、ブライアン・ブレイド、クリストファー・トーマスという『デイ・ブレイクス』チームの共作曲で、プロデュースをノラが担当。ブライアン・ブレイド、クリストファー・トーマス、それにトランペットのデイヴ・ガイ、テナーサックスのレオン・ミッチェルズがノラと共に演奏している(「イット・ワズ・ユー」からピート・レムを除いた編成だ)。淡々としたビート、独特の感触を持ったデイヴ・ガイのトランペット、抑制されたノラの歌声と軽やかなピアノ音などが合わさって徐々に温度が上がっていくが、上がりきらずに不思議な余韻を残したまま終わる感じがユニークだ。こういう抑えたムードでもこうして最後まで惹きつけてしまうあたりがノラの凄さと言えようか。こんなシンガー、ほかにいない。

 




「アッ・オゥ」(5曲目収録)
「マイ・ハート・イズ・フル」を共作したトーマス・バーレットと組んで録音されたもう1曲。プロデュースとエンジニアリング、ピアノ、キーボード、OP-1、ドラムプログラミングをトーマスが手掛け、ノラはピアノとローズに加えて、ドラムも担当。感触としてはデンジャー・マウスがプロデュースした『リトル・ブロークン・ハーツ』のサウンドやムードに近いところがある。『リトル・ブロークン・ハーツ』は、1stアルバムのジャジーな感じが好きだったファンから「ついていけなくなった」と言われるなど賛否が分かれたが、これはどうだろうか。個人的にはこういう曲にノラの毒気と特有のユーモアを感じるし、ノラ自身が楽しんでいる様子も伝わってくるのがいい。聴くほどにクセになる1曲。