COLUMN/INTERVIEW

特別寄稿:黒田卓也 追悼ロイ・ハーグローヴ 「ロイのスピリットは次元が違った」

2018年11月2日に49歳の若さで急逝したジャズ・トランペッター、ロイ・ハーグローヴ。ジャズの伝統を受け継ぐ正統派プレイで、トランペット奏者/バンド・リーダーとして絶対的な人気を獲得する一方で、RHファクター名義でジャズとR&B~ヒップホップを本格的に繋ぐ先駆者となった。
その若すぎる訃報はシーンに大きな衝撃をもたらしたが、彼が残した功績はロバート・グラスパーをはじめとする多くの後進アーティストに着実に受け継がれている。その中の一人であり、同じトランペット奏者としてロイを敬愛するニューヨーク在住の黒田卓也に、ロイ・ハーグローヴとの思い出を綴ってもらった。



2003年にニューヨークに移り住んで、最初の数年間まるで取り憑かれたようにライヴを聴きに行っていた目的がロイ・ハーグローヴだった。僕だけではなく、我々の世代は全員と言ってもいんじゃないかと思うくらい彼に夢中だった。スニーカー、アディダスのジャージ、耳ピアス、ドレッドヘアー、ほとんど開いてない目。ミキちゃん(広瀬未来)と僕は少年のように憧れまくって彼のライヴに足繁く通ったものだった。通っておいてよかったと今更ながらに思う。あの頃は彼がこんなに早く逝ってしまうとは夢にも思わなかったから。



僕はロイの親友ではなかった、もちろん仲良くなりたかったけど、気難しく思える彼はいつ話しかけても結構な冷たさだったのを覚えている。とても残念に思ったけど、彼のトランペットはいつでもとにかく最高だったから、やっぱり好きだった。

ニュースクール(大学)で3年生になった時、ロイが学校に教えに来た。廊下にまで人が溢れていた。ロイはごちゃごちゃ言わない、学生バンドをステージに呼んでいきなりセッション。学生はこれでもかというくらい張り切る。僕は客席でトランペット抱えて静かに何故か緊張していた。ロイが演奏を途中で止めて抜群のアドバイス。「ドラマーの皆さん、1を叩いていいんだよ。ホーン・プレイヤーの皆さん、プリティなメロディを吹いていいんだよ」。とにかく高度な技術、表現を誇示したいと張り切る学生にズドンと響く、少なくとも僕には ドカンときた。授業の最後に「トランペッター全員ステージに来て! 一緒にやろう」とロイ。緊張しまくってモジモジしていた僕に、隣の友達が「ここにも一人いるぞ」と大きな声で。それは人生トップ3の緊張経験だった。ここでもロイは「スロー・ブルースやろう」、とごまかしの利かない曲を選んでくる。何を演奏したかは覚えてないけど、終了後「sounds good man」と言われたときは泣きそうになった、と今も思い出して泣きそうである。




ロイを聴くのをわざとやめた時があった。聴けば聴くほどロイになってしまうからだった。それくらいかっこいいと思っていたし、学校の友達なんかも当時みんなそんな感じだった。ホセ・ジェイムズにワールド・ツアーに連れて行ってもらった最初のライヴがジャワ・ジャズ・フェスティバル。巨大なフェス、みんないる、有名な人みんないる。平静を装い自分の演奏をしようと言い聞かせながらステージ袖で出番を待っていたら僕らの前に、そのステージに立っていたのはロイである。ロイのスタイルを追いかけていた当時の僕はもう何もできなかった、本物の後に偽物が出てきてしまってはどうしようも無い。自分を深く掘り下げようと努力しだしたのはこのあたりからだった。

その2年後にまたジャワ・ジャズ・フェスティバルにホセと出演した。またロイがいた。その時は違う会場でやっていたので楽しみに観に行ったら、ロイのトランペットの調子がすごく悪かった。体調が悪いのは知っていたけど、辛そうに演奏するロイを最後まで観ることができず、胸を詰まらせながら会場を去ったのを覚えている。その頃から調子の悪そうなロイを目にするたびにとてもとても寂しい気持ちになった。体が元気だった頃のようなブリッとした音は出てないけど、心にまっすぐに切なく届く音はもう人間業とは思えなかった。僕はあまり行く機会はなかったけど、老舗のスモールズにロイは毎晩顔を出しては最も説得力のある短いソロをとる、絶対に体はきついはずなのに。音楽が人生で人生が音楽なんだ、と僕も言いたいし、そうだと謳う人は沢山いる。でも彼の後に誰にその資格があるだろうかと思えるくらい、ロイのスピリットは次元が違った。ロイが逝ってしまったあの日、世界中が泣いているんじゃないかと思った。しばらく経っても立ち直れない人がまだ沢山いる。そんなひとだった、ロイ・ハーグローヴは。




一度だけ道端で彼にバッタリあったことがあった。2006年ニュースクールでの卒業ライヴの時だ。学校で演奏するのが苦手だった僕は、相変わらず極度の不安で緊張しながら学校に向かい歩いていた。すると、なぜかロイが正面から歩いてくる。お昼にロイというだけで少し可笑しかったのだが、すでに緊張しているせいか、何故か自然に「ヘイ、ロイ!」と話しかけることができた。以前の授業から覚えてくれていたのか、単に機嫌が良かったのか、とにかく初めてロイとちゃんと話せた。今から学生生活集大成のライヴなんだと言うと、「スタンダードはやるのか?」とロイ。残念ながら全編オリジナル曲だと答えると少しだけ寂しそうだったけど、不安な僕に「Play Your Shit!」と励ましてくれた。ありがとうロイ。これからも自分らしく生きたいと思っています。
 

2019年4月 黒田卓也




■リリース情報
追悼ベスト・アルバム
『ロイズ・ハード・グルーヴ~ベスト・オブ・ロイ・ハーグローヴ』

NOW ON SALE  UCCU-1699

1. ストラスブール/サン・ドニ
2. クレイジー・レース (RHファクター)
3. ロイ・アラン
4. ナッシング・シリアス
5. ヴァルス・ホット feat. ブランフォード・マルサリス
6. ザ・ソーサラー (ディレクションズ・イン・ミュージック)
7. ラ・プエルタ feat. ロバータ・ガンバリーニ
8. アフロディジア
9. オールウェイズ・アンド・フォーエヴァー
10. ポエトリー feat. Qティップ&エリカ・バドゥ (RHファクター)
11. スピーク・ロウ
12. リッチ・マンズ・ウェルフェア (RHファクター)

CDアルバムのご購入はこちら 
https://store.universal-music.co.jp/product/uccu1699/

iTunes
https://itunes.apple.com/jp/album/roys-hard-groove/1457940372?app=itunes