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音楽評論家・柳樂光隆による、フィリップ・ベイリー17年振りの新作『ラヴ・ウィル・ファインド・ア・ウェイ』考察


フィリップ・ベイリーと言えば、アース・ウィンド&ファイア(以下EW&F)のヴォーカリストで、名曲「Fantasy」での美しいファルセットが印象的だが、新作『Love Will Find a Way』ではロバート・グラスパーに、カマシ・ワシントン、クリスチャン・スコット、デリック・ホッジ、ケンドリック・スコットと現代ジャズシーンの最重要人物たちとコラボレーションしていて、前情報の時点で驚いてしまった人も多いだろう。ただ、これにはそれなりの理由があり、このコラボレーションが驚きを伴うものでありつつも、自然なコラボレーションだった。

そもそもEW&Fはジャズと関係が深く、リーダーのモーリス・ホワイトがジャズ・ドラマーでソウルジャズの名ピアニストとして知られるラムゼイ・ルイス・トリオのメンバーとして傑作の多くで演奏している。また他にもジャズとの関わりがあるメンバーは少なくなく、特に初期からその音楽性を見ていくと、ジャズからの影響の大きさが見えてくる。

そんなEW&Fに起用されるフィリップ・ベイリーもまたEW&F並みにハイブリッドな音楽性を持っている。まず彼はゴスペル・シンガーでもある。彼は度々ゴスペルアルバムをリリースしていて、『Triumph』ではグラミーのBest Male Gospel Performanceを受賞している。またジャズミュージシャンとの接点も多い人で、特に彼のキャリアにおいてジョージ・デュークの存在は書くことができない。そんなフィリップは1999年の『Dreams』と2002年の『Soul On Jazz』をジャズやフュージョン・レーベルのHeads Up Internationalからリリースしていて、サウンドはフュージョン~スムースジャズ。ジャズミュージシャンを起用し、モンクやハンコックの曲をカヴァーしている。

というキャリアを見ると、『Love Will Find a Way』がなぜ、こんなアルバムになったのかは、フィリップ・ベイリーのこれまでの活動とすべて繋がっていて、その2019年版であり、その集大成的な作品とも言えることがわかる。

ロバート・グラスパーやデリック・ホッジに関してはゴスペル出身で、ゴスペルのサウンドを現代のジャズの中に持ち込んでいるミュージシャンの筆頭だ。その2人とドラマーのケンドリック・スコットのトリオがこのアルバムの売りになっている。つまり、『Love Will Find a Way』はフィリップがこれまで行ってきたジャズとソウルとゴスペルなどのサウンドを現代のトップランナーたちと作り上げようとしたもの、ということになる。

ちなみにドラマーだけゴスペル系ではなく、ゴリゴリにジャズ系譜のケンドリック・スコットを起用したのがこのアルバムの面白さ。フィリップはヒップホップでもネオソウルでもなく、あくまで新しい感覚のジャズのサウンドの中で歌うことを志向したことがわかる。冒頭の「Billy Jack」もスタイルとしてはアフロビートだが、クリス・デイヴやネイト・スミスがやるファンク寄りのネオソウル系アフロビートとは違い、跳ねるスネアの軽さが印象的なで、ジャズ・ドラマーがジャズのセッティングのドラムのままアフロビートを叩いているような独特の質感がある。それらをディアンジェロ『VooDoo』やコモン『Like Water For Chocolate』、ロイ・ハーグローヴ『Hard Groove』、近年だとディアンジェロ『Black Messiah』やカマシ・ワシントン『Heaven and Earth』を手掛けたラッセル・エレヴァードがミックスしていることで現代的な響きを得ている。

他にはチック・コリアのリターン・トゥ・フォエヴァー「You’re Everything」のカヴァーをチック・コリア、スティーブ・ガッドらによるバンドでのフュージョンサウンドでやったり、ヒップホップ畑からブラック・アイド・ピーズのウィル・アイアムを起用して、ウィル・アイアムによるアフリカンなビートとクリスチャン・スコットがスピリチュアルなソロを組み合わせた「Stairway To The Stars」、トーキングヘッズがフェラ・クティのアフロビートにインスパイアされて作った「Once in a Lifetime」のカヴァー、アビー・リンカーンの名唱で知られ、マックス・ローチもカヴァーしている「Long As You’re Living」のアフリカン・テイストのビッグバンドのようなアレンジをケニー・バロンやアダム・ロジャース、クリスチャン・マクブライドでやったり、ファラオ・サンダースが1977年にアフロアメリカンによるハードコアなインディペンデント・レーベルのインディア・ナビゲーターからリリースした『Pharoah』に収録されている「Love Will Find A Way」をケイシー・ベンジャミンのヴォコーダーを入れてやったりと、実に多彩。それらがラッセル・エレヴァードの手で、そして、フィリップ・ベイリーのファルセットを駆使したヴォーカルで統一感を持たせて、ひとつの作品として聴かせているのだ。

フィリップ・ベイリーはこれまでに素晴らしい作品は残してきたが、その中でも本作は特別な一枚だ。しかも、このアルバムは普遍性と同時代性を兼ね備えている。それはロバート・グラスパーをはじめとした現代のミュージシャンたちが作り上げるサウンドが、ジャズでもソウルでもファンクでもなく、もはや汎アフロ・アメリカン・ミュージックとして機能できるまでに進化し、洗練されたことは理由として挙げられるかもしれない。そして、そんなサウンドの中で自在に歌を乗せることができ、ビラルのような脂の乗ったテクニカルなシンガーと並んでも自身の声を主張できるフィリップ・ベイリーのその歌の確かさがあるからこそそれが可能になるのだろう。

フィリップ・ベイリーはボストンのバークリー音大から名誉博士号を授与されている。

テキスト:柳樂光隆


<商品情報>

『ラヴ・ウィル・ファインド・ア・ウェイ』
UCCV-1177【SHM-CD】
2019年7月3日発売

▼予約はこちら
https://jazz.lnk.to/pb_lwfwPR

▼ストリーミングはこちら
https://open.spotify.com/album/58ZQBOe0sMe9ZpPKgjDR9p

▼超豪華フィーチャリング・アーティスト一覧
ロバート・グラスパー
カマシ・ワシントン
チック・コリア
クリスチャン・スコット
ビラル
クリスチャン・マクブライド
スティーヴ・ガッド
デリック・ホッジ
ケンドリック・スコット
リオーネル・ルエケ
テディ・キャンベル
ケニー・バロン
ケイシー・べンジャミン
ウィル・アイ・アム
などジャズ界からヒップホップ界までの重鎮らが集結。