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【連載】ゆっくり、だけど、確実に。 〜福盛進也 音楽半生記〜 (第10回)


2019年に創立50周年を迎えたドイツの名門ECMレーベル。そのECMから昨年デビューを飾った日本人ドラマーの福盛進也。
15歳でドラムを始め、17歳の時に単身で渡米。その後、ブルックヘブン・カレッジ、テキサス大学アーリントン校を経て、バークリー音楽大学を卒業。10年間のアメリカでの活動後、2013年に拠点をミュンヘンに移し欧州各国で研鑽を積み、遂に念願のECMデビューを飾った福盛進也が、これまでの歩みを自ら綴る連載企画。


【第十章】―500 Miles High―

バンド活動も辞め、完全な帰宅部となった僕は、残りの高校生活を何の情熱もかけずに過ごした。ドラムや音楽に努力を注ぐこともなく、ただただ悪友と毎日どうしようもない日々を送っていた。別に非行に走ったというほどでもないが、ティーンエイジャー特有の、何の理由もなく「悪ぶりたい」、という一種の病気のようなものにでもかかっていたのかもしれない。タバコを吸ったり、お酒を飲んだり、バイクに乗ったり、喧嘩をしたり、特に何かに不満があるのかと言えばそうではないし、でも全てに満足しているかといえば素直に肯定もできない。良く言えば「青春」、悪く言えばただの「バカ」。そんな毎日を過ごしていた。呆れた親には何度も「もうドラムも辞めるか?」と訊かれたこともあったが、なぜだかそれだけは避けないといけない、と心のどこかで思い、やる気は無いにせよドラムだけは続けた。また、今でも唯一高校時代から繋がっているのは、その「青春」もしくは「バカ」の日々を共に過ごし分かり合えた悪友たちだけであり、それは僕の中ではずっと大切にしたいものでもある。

そんな中、転機が訪れる。以前ニュージーランドに留学していた兄が、今度はアメリカの大学に留学することになった。場所はロサンゼルス、アメリカ有数の大都市だ。兄が日本を離れ一年が過ぎたころだったっただろうか、僕は兄を訪れた。福盛進也、高校2年生の冬のことである。LAの空港に到着し、兄にピックアップしてもらう。そして兄の住むアパートに着くや否や、「これからジャズ・クラブに行く、これは絶対観た方がいい」、とすぐさま外に連れ出された。到着したのはLAの有名なジャズ・クラブ、カタリナ・バー&グリル。そしてそこで演奏をしていたのは、当時アルバムをリリースしたばっかりのチック・コリア・ニュー・トリオであった。初めてのジャズ・クラブの雰囲気の中、どんな音楽が演奏されるのかワクワクしながら待つ。そしていよいよ演奏が始まり、僕は完全に打ちのめされた。今まで聴いたことのない、とてつもなくカッコいい音楽に衝撃を受けまくった。盛り上がりに盛り上がった後半、チック・コリアの妻のゲイル・モランがゲストでステージに上がる。ゆっくり始まるイントロ、そしてブレイクを機にトリオがグルーヴを始める。ドラムのジェフ・バラードがドラムンベースのリズムを刻み、アヴィシャイ・コーエンがそれを支えつつも自由に突っ走る、そして歌うゲイルに反応するチック。

「なんなんだこの音楽は!?」

度肝を抜かれた僕は興奮を隠しきれなかった。そしてこれが、僕が人生で初めて生でジャズに触れた瞬間であった。

次の日、LAのCD屋に向かい、兄の友人にお勧めしてもらったチック・コリア・アコースティック・バンドの『スタンダーズ&モア (原題:Chick Corea Akoustic Band)』のアルバムを購入し、しばらくの間そればっかりを聴いていた。ちなみに、このアルバムにはあの有名な「Spain」が入っているのだが、オリジナルとは全く違うアレンジメントだったので、初めてオリジナルを聴いた時は相当驚いたことを覚えている。

LAでたっぷりと刺激的な毎日を楽しみ、その後日本に帰った僕は早速ブルーノート大阪に足を運んだ。あのチック・コリア・ニュー・トリオがツアーで今度は日本にやってきていたのだ! 開場1時間以上前に到着し、既に数人並んでいた列の後ろに陣取り、入場した瞬間に前の方の席を確保した。その時に食べたエビチリがとても美味しかったのを覚えているが、そんなことよりも何よりも、やっぱり彼らの演奏はもちろん最高だった。公演が終わり、新譜の『過去、現在、未来 (原題:Past, Present & Futures)』とTシャツを購入し、サインをもらうために楽屋へと向かった。その時にサインは1つまでとスタッフに忠告されていたのだが、チックを始めメンバー一同「もっとサインしていいよ」と笑顔で応えてくれ、アルバムとTシャツのみでなく、なんと僕の財布にまでサインをしてくれた。


チック・コリアと

そして帰る前に、バー・カウンターでタバコを吸っていると、サイン会を終えたアヴィシャイとジェフがやってきた。勇気を持って話しかけてみると「タバコを1本もらえないか?」とアヴィシャイがお願いしてきたので、「もちろん」と彼に差し出した。彼がタバコを吸っている間ジェフにも拙い英語で話しかけてみた。

「この前カタリナにも行って観たよ、素晴らしかった。僕もドラムを始めたばかりで、いつかプロになりたいなと思ってる」

そうやって熱い想いを伝えた。すると、

「そうか、ドラムをやっているのか。じゃあいつかお互いプロのドラマーとしてもっと有名になった時に再会しよう」

とジェフが返し、僕らは握手をして再会を誓った。

それから15年。ウンターファートというよく自分も演奏するミュンヘンのジャズ・クラブにウォルフガング・ムースピール・トリオの一員としてジェフがやって来た。演奏後、僕は話しかけに行き、15年前の出来事を話した。もちろんそんな昔のことを彼が覚えていることはなかったのだが、その後夜中まで一緒に飲み、2人ともベロンベロンに酔っ払い、15年前の約束をちゃんと果たせたのはとても感慨深いものであった。

※記事中の写真は本人提供

(次回更新は7月14日の予定です)



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■福盛進也リリース情報
Shinya Fukumori Trio
『フォー・トゥー・アキズ』

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