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【連載】ゆっくり、だけど、確実に。 〜福盛進也 音楽半生記〜 (第11回)


2019年に創立50周年を迎えたドイツの名門ECMレーベル。そのECMから昨年デビューを飾った日本人ドラマーの福盛進也。
15歳でドラムを始め、17歳の時に単身で渡米。その後、ブルックヘブン・カレッジ、テキサス大学アーリントン校を経て、バークリー音楽大学を卒業。10年間のアメリカでの活動後、2013年に拠点をミュンヘンに移し欧州各国で研鑽を積み、遂に念願のECMデビューを飾った福盛進也が、これまでの歩みを自ら綴る連載企画。


【第十一章】―はじまりはじまり―

「あんたは日本におるより海外に行った方が絶対いい」

これは母親が10代の僕によく言った言葉だった。僕の性格や人間性を熟知した上でそう言ってくれていたんだと思うし、僕自身もいつからかそう思うようになっていた。高校に入ってから(それ以前もだが)ほとんど勉強もしてこなかったし、成績もだいぶ悪い方だった。学校の教え方も嫌いだったし、自分で見つけた数学の方程式を見せると「お前はそんなことせんでいい、ただ覚えて答えを出すだけでいい」というような教師がいたり、そんな教育環境で勉強に対する意欲など全く湧くことはなかった。ただ、英語だけはなぜかとても得意で学年でも上位に付けていた。海外に対しても全く恐怖心が無く、むしろ憧れていた。これはきっと幼少期から海外について触れる機会が多かったせいもあり、そのきっかけを作ってくれた両親にとても感謝をしている。プロのミュージシャンになりたいという夢、いや、そんなものではなかった。超一流のミュージシャンになってやろう、という強い想いがあり、いつしか海外で自分を試してみたいと思うようになっていた。


家族で国際交流

そして、兄がニュージーランドに行ったように自分もまず1年間留学してみようと決断した。というよりかは、本当にそういう流れになることが自然のように感じた。チック・コリアから生のジャズを体験させてもらったけれども、まだまだ自分はディープ・パープルに憧れたロック少年だった。ディープ・パープルだけでなくジェフ・ベックやレッド・ツェッペリンも大好きで、イギリスに留学したいなという気持ちが強かった。ところが、留学でお世話になっていた団体はイギリスと交流があまり無く、行き先の変更を余儀なくされた。でも大丈夫、そんなことは問題ない、超一流のミュージシャンになるには道筋はどうでもいい。具体的なゴールさえしっかりしていれば、計画なんて意味のないことだ。臨機応変に生きることが一番の近道だろう。ということで、僕は行き先を変更した。家では兄の影響でブルーズがよくかかっていたし、僕が好きだった70年代ハード・ロックの前身はブルーズだとよく理解していた(後にジャズからもとても影響を受けていたことも知る)。

よし、アメリカに行こう!
できれば南部で生活をし、生のブルーズやロックに触れながら武者修行をするんだ!

その後、最終面接を受け晴れて留学の許可が降りた。後はどこの都市に行くかだ。国は自分で決められたが都市に関しては団体が決めることになっていた。できるだけ日本人の少ない場所を選択し、英語だけで生活する環境を作ってあげたいという理由からであった。ただ自分が音楽好きということも考慮してくれ、最終的には素晴らしい留学先を選んでくれた。

Booker T. Washington High School for the Performing and Visual Arts(以下、Arts)。ロイ・ハーグローヴ、エリカ・バドゥ、そしてノラ・ジョーンズたちを輩出したテキサス州ダラスに位置する名門芸術高校だ。音楽だけでなく、ダンス、芸術、シアターと4つのクラスター(学部)に分かれており、そんな特別な高校を僕の留学先に選んでくれたのだ。そして僕はその高校史上初の留学生となるのであった。

高校3年生になり一学期が終わった。夏休みに入り、いよいよ留学する日が迫ってきた。アメリカでは8月半ば、もしくは9月から学年が開始するため日本では中途半端な時期になっていた。そしてニュージーランドに行った前回と同じく、「大学受験を控えたこの時期に留学するとか福盛家は頭がおかしい」と周りに思われたりもしていたが、僕には全く関係のないことだし心底どうでも良いと思った。いつも通っていた長居公園近くのカラオケで最後にもう一度盛り上がり、悪友たちに別れを告げた。いくつかのオリエンテーションを終え、飛行機が出発する東京へと行く日がやってきた。最後の最後まで両親を心配させた悪ガキも一人で旅立つ時が来たのだ。色々な寂しさと期待を胸に新幹線に乗り東京のホテルに夕方たどり着いた。僕はタバコを一箱買い、ホテルで一服をして早まる心を落ち着かせ、出発の日に備え床に就いた。

次の日、東京での最終オリエンテーションが終わり、空港に向かう。ダラス行きの飛行機に乗り、日本を後にした。

10年にも及ぶ長いアメリカ生活の、はじまりはじまり。

※記事中の写真は本人提供

(次回更新は7月29日の予定です)



第一章~第十章のまとめ読みページができました。
https://bluenote-club.com/diary/221976




■最新ライヴ情報
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■福盛進也リリース情報
Shinya Fukumori Trio
『フォー・トゥー・アキズ』

NOW ON SALE  UCCE-1171
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