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【連載】ゆっくり、だけど、確実に。 〜福盛進也 音楽半生記〜 (第12回)


2019年に創立50周年を迎えたドイツの名門ECMレーベル。そのECMから昨年デビューを飾った日本人ドラマーの福盛進也。
15歳でドラムを始め、17歳の時に単身で渡米。その後、ブルックヘブン・カレッジ、テキサス大学アーリントン校を経て、バークリー音楽大学を卒業。10年間のアメリカでの活動後、2013年に拠点をミュンヘンに移し欧州各国で研鑽を積み、遂に念願のECMデビューを飾った福盛進也が、これまでの歩みを自ら綴る連載企画。


【第十二章】―ペガサス (前編)―

2001年8月7日。

時刻は夜の8時ぐらいだっただろうか。空が異様に明るく広かったのを覚えている。遂にやってきたのだ、アメリカ合衆国テキサス州ダラス。これから1年間のホームステイ生活。一体どんなことが待っているのか、期待で胸がいっぱいだった。

ダラスの空港に到着し、車でピックアップされ周りに何もないド田舎のキャンプ場のような施設に連れて行かれた。ホームステイが始まる前に現地でのオリエンテーションが2泊3日ほどあったのだ。留学生が数十人集まり、内容はどうやって英語で他人とコミュニケーションを取るか、ゲームや色々な企画を交えて行われた。だがやっているうちに僕は面倒臭くなり、「さっさとホームステイ先に連れてけ」と心の中で愚痴っていた。留学生同士で仲良くするつもりもさらさら無かったし、一刻でも早く自分がこれから住む環境に慣れたかったのだ。


留学サポート団体のスタッフと

やっとこさ退屈なオリエンテーションも終わり、いよいよホスト・ファミリーとご対面の時がやってきた。ホスト・ファーザーのジョンとホスト・ブラザーのスティーヴが迎えにきてくれた。緊張しながら挨拶を交わし、車に乗り込みこれから生活する家へと向かった、と思ったら途中で寄り道。Walmartというアメリカでは有名なホームセンターだ。入ってみるととにかくでかい!! 広い!! これがアメリカか!! 店だけではない、品物も全て日本よりワンサイズ大きかった。僕はたかがホームセンターに圧倒されまくり、ちょっとした感動まで覚えた。店だけではない、品物も全て日本よりワン、いやツーサイズ大きかった。そんなバカでかいWalmartを後にし、しばらく車で走り3人は家に着いた。ダラスのダウンタウンから車で10分程度に位置する一軒家、そこにはジョンの妻のメアリー、そしてスティーヴの妹のエマが待っていた。結果から言うと、最終的にはこの家族とはうまく打ち解けることができないまま1年が終わってしまった。ジョンは初めからあまり自分と話すこともせず、こちらが話しかけても無視されたりすることもあった。スティーヴとエマはどちらかというと引きこもりがちの兄妹で、だいたい部屋でゲームをしてるか1人静かに読書をしているか、人見知りだけど活発だった自分はあまり仲良くなれなかった。また、その家族は某宗教を深く信仰しており、それもお互いの間で壁になっていた。毎週日曜日になると教会へ連れて行こうとしたり、宗教上日曜日は夕食を食べなかったり(もちろん自分の食事も用意されず)、色々なことが自分にとっては苦痛だった。生活の中で自分の英語力も問題だったのかもしれないが、そこはホスト・ファミリーであれば一緒に克服してくれるぐらいのサポートはしてほしかった。留学の途中、さすがにもう無理だと思い、一度だけホスト・ファミリーを変えて欲しいと訴えたが、最終的には説得されてしまい最後までその家に残ることになった。ただ、そこで培った精神力は今になっても無駄ではなかったと信じている。そして唯一の救いだったのは、その家に置いてあるアップライトピアノで好きに遊べたことだった。


テキサスのマーケットにて

でもずっと辛い留学生活だったというわけではない。「家庭内」ではうまくいっていなかったが、学校生活、そして友人関係はとても充実していた。まず学校がスタートする前に簡単なオーディションがあった、もちろん音楽の。ドラマーとして認識されていたので、オーディションではドラムで基礎的なグルーヴやリズムなどを演奏させられ、結果合格をもらい正式にArts(前章参照)に通えることになった。そして授業は国語、アメリカ史、政治経済、物理などの一般教養に加え、音楽理論、音楽史、アンサンブルなどといった音楽の専門授業があった。ただ初めての留学生ということで、だいたいどこの高校にでもあるESLの授業は用意されておらず、自分は独学で英語を学ばなければなかった。だが結果的には自分にとってはこれが功を奏したと思っており、半年ぐらいで英語は問題なく話せるようになっていた。といっても、一般教養の授業は専門用語が多すぎて、理解するのにとても苦労した。いきなりシェイクスピアを読まされたり、ベトナム戦争の議論をしたり、とてもじゃないがついていけなかった。でもどの先生もとても素晴らしく、自分のことを見捨てず一緒になって課題や授業に取り組んでくれた。また、物理の授業は結構楽しく、最初に隣に座ったオリヴィアとはその後ずっとペアを組み、一緒に問題を解いたりバカな話をしたり仲良くさせてもらった。

オリヴィアもそうだが、みんなこうやって普通に一般教養を学んでいたけれども、一歩自分の分野に入ると(オリヴィアはシンガー)とても輝く逸材ばっかりだった。そう、やはりこの学校は芸術の授業が素晴らしかったのだ。そして、みんなどこか自由だった。

※記事中の写真は本人提供

(次回更新は8月12日の予定です)


第十一章はこちら
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第一章~第十章のまとめ読みはこちら
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■最新情報
伊藤ゴロー、佐藤浩一との新ユニット
「land & quiet」のデビュー・アルバムがリリース。
『land & quiet』

2019.7.24 ON SALE  UCCJ-2169
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land & quiet リリースツアー 2019

2019年 8月12日(月・祝) 岡山・宗忠神社
8月14日(水) 兵庫・rizm
8月15日(木) 東京・sonorium
https://www.facebook.com/landandquiet/


■Discography
Shinya Fukumori Trio
『フォー・トゥー・アキズ』

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https://youtu.be/eWc5dSMnMcc

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