COLUMN/INTERVIEW

【連載】ゆっくり、だけど、確実に。 〜福盛進也 音楽半生記〜 (第16回)


2019年に創立50周年を迎えたドイツの名門ECMレーベル。そのECMから昨年デビューを飾った日本人ドラマーの福盛進也。
15歳でドラムを始め、17歳の時に単身で渡米。その後、ブルックヘブン・カレッジ、テキサス大学アーリントン校を経て、バークリー音楽大学を卒業。10年間のアメリカでの活動後、2013年に拠点をミュンヘンに移し欧州各国で研鑽を積み、遂に念願のECMデビューを飾った福盛進也が、これまでの歩みを自ら綴る連載企画。


【第十六章】―墜落―

これから始まる話は、本当は思い出したくもない僕の歴史上最悪の一年の出来事だ。

彼女と別れた18歳の秋、僕は引き続きUNTのESLコースで勉強に励んだ。英語を習得したりエッセイを書いたりするのはとても楽しかった反面、語学学校だけに日本人が多いことがとても苦痛だった。どこかで「俺は既に1年間ダラスで高校生活を送ったからお前達とは違う」という驕りがあったのだろう。極力日本人は避け、話しかけられても素っ気なく英語で返していた。そうやって、日本人と毎日顔を合わせることがどんどん億劫になっていった。

時を同じくして、ジムの助けもあり運転免許を取得し中古車を手に入れた。現地の人とも交流を持ちたかった僕は、事あるごとにArts時代の友達に電話をかけたりしていた。「車があるからこれからはダラスにも遊びに行ける」と話し、度々高速道路を使い小一時間かけてダラスへと向かった。時には友達を呼びデントンで遊んだりも。

そうしているうちに、「音楽をやりたくてもできず、周りにいるのは日本人を多く含む留学生ばかり」という現状にもう我慢できなくなり、遂には学校を辞めることを決意した。その年の年末にはもう全ての手続きを済ませ、たった4か月ほどでデントンに別れを告げた。それからは、ダラスのコミュニティカレッジと呼ばれる2年制の大学で音楽を勉強しようと思い住居も移した。コミュニティカレッジでは様々な分野を基礎から学ぶことができ、4年制の総合大学で専門的な勉強をする前の準備段階として使われることも多い。音楽の知識も語学力もまだまだ備わっていない自分が始めるにはちょうど良いのではと感じた。いくつかあるダラスのコミュニティカレッジの中から、評判の良さをよく聞く北ダラスに位置するブルックヘブン・カレッジを選んだ。がしかし、大学にはセメスター毎に履修できる授業が決まっており、1月という学年度の後半から入学しようとした自分はうまく授業を組めなかったのだ。仕方がないので、次の学年度が始まる9月まで再びそこでESLのコースを選択することにした。ただ幸いなことに、ダラスのコミュニティカレッジには日本人が少なく、僕のクラスにも日本人は皆無で居心地もよかった。

Arts時代の友達とも物理的な距離も近くなったが、僕の傷ついた心はまだまだ癒されなかった。いつも会う仲間は自分を含め4人(通称「807」)。そのいずれもが心に何か悩みを抱え、本来は21歳まで禁止とされているお酒をどうにか手に入れ、その弱った心を慰めるかの様に酔っ払い堕落した生活を送っていた。どこにもやりきれない怒りや苦しみ。自暴自棄になり情緒も不安定、どんどんやさぐれていき心は癒されるどころか乱れまくる。少しでも気に入らないことがあると誰彼構わず当たり散らし、喧嘩も後を絶たなかった。807のメンバーは一つ年下だったのでArtsまで毎日車で迎えに行っていたのだが、心が腐った連中故に大人を敵に回し、学校に常駐していた警官とはいつも口論をし険悪な関係がずっと続いていた。ある日の夕方、その警官とまた喧嘩になり807の一人が間違いを起こしてしまった。詳しくは書けないが、最終的にそいつは逮捕されてしまい、強制退学の後に更生施設へと入れられた。


数年後の807

そんな事件があったのにも関わらず、僕らは毎日集まった。オーククリフというダラスのゲットーエリアと僕の住む北ダラスのアパートを拠点に、荒れた生活は続いた。髪型も奇抜になり、車にはどデカいスピーカーとサブ・ウーファーを積んで2パック、スリー・6・マフィア、SPM(サウス・パーク・メキシカン)などを爆音でかけ、外からは中が見えない様な真っ黒なスモークを張り、一歩間違えればただの半グレ野郎だった。毎週日曜日の夜、ご自慢の車やサウンドシステムを見せびらかしながら、何十台もの車が道路を行き交う「クルーズナイト」と呼ばれるものがオーククリフでは行われていた。参加する殆どがメキシコ系アメリカ人の中、唯一アジア人の僕はボロボロの車にサウンドシステムを積み、当時テキサスで流行っていた「Chopped & Screwed」というヒップホップなどの曲をかなり遅くして再生する音楽を流し、807の連中と共に爆音で車を揺らしながらゆっくりとクルーズを楽しんだ。そんな感じだからオーククリフ界隈でも「あのアジア人は何者だ」と話題になり、普段誰もあまり歓迎されないその街でも知り合いが少しずつ増えていった。


オーククリフでの再会

かといって、ESLの授業をサボっていたわけではなく、毎日通い成績もよく学校では何も問題はなかった。同じクラスにいた韓国人のおばさんが、自分の息子と同い年ぐらいの僕を気にかけてくれ、たまにご飯を作って持ってきてくれたりもした。そしてESLのコースも無事終え、5月になり夏休みに入った。

忘れもしない2003年、夏休みを使った一時帰国中。じめじめと暑くなりつつある大阪で家族と映画を観ていた時のこと。不意打ちのように、一本の電話がかかってきた。

※記事中の写真は本人提供

(次回更新は10月7日の予定です)


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