COLUMN/INTERVIEW

ECM設立50周年にリリースされる最重要作品、キース・ジャレットのヨーロッパでの最新ソロ・ライヴ録音『ミュンヘン 2016』

ソロ・ピアノでのライヴ演奏の可能性、概念を大きく変え、数々のソロ・ライヴ名盤を残してきたキース・ジャレットのヨーロッパでの最新ソロ・ライヴを録音した『ミュンヘン 2016』を11月1日にリリースするキース・ジャレット、これまでのソロ・ライヴ作品も振り返りながら、本作の聴きどころを杉田宏樹さんにご紹介頂きます。
(文:杉田宏樹)
 



 キース・ジャレットのソロ・コンサート作が出る。2017年2月のNYカーネギーホール公演を最後に、ライヴを行わず、スタジオ作もリリースしていない状況で、2018年にはベネチアでの2006年録音ソロ・コンサート2枚組『ラ・フェニーチェ』、2019年6月にはスタジオ作録音の直後に行われた1987年のライヴ音源である『J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻』がリリースされており、ファンの渇望を満たしている。11月リリースの新作『ミュンヘン2016』は今年2タイトル目となるもので、どちらもピアノ独奏作ではあるが、『平均律』がECMニュー・シリーズからのクラシック作だったので、特にジャズ・ファンに大歓迎されるのは間違いない。

『ラ・フェニーチェ』(2006年録音)




『平均律クラヴィーア曲集第一巻』(1987年録音)



 
 1971年のスタジオ・ソロ作『フェイシング・ユー』で現在に至るECMとの濃密な関係が始まったキースは、69年創立で今年50周年の節目を迎えた同レーベルの発展と共にキャリアを築いてきた。73年ローザンヌ&ブレーメン録音のLP3枚組『ソロ・コンサート』、および75年録音のLP2枚組『ザ・ケルン・コンサート』と、ボリューム感のあるソロ・コンサート作が連続して発表されたことで、キースのソロ作=ライヴ・アルバムの印象を強くした。また40分を超えるノンストップの完全即興演奏という前代未聞のスタイルは、世界中に衝撃を与えて、キースにさらなる高い評価をもたらすことになる。人々を驚かせた点では、76年の日本ツアーを収めた『サンベア・コンサート』も初期の記念碑。5公演をLP10枚組に格納したボックス・セットは、『ソロ・コンサート』をあっさりと凌駕した組数と、常識破りの制作発想が、創立10年にも満たないドイツのレーベルのポテンシャルを世に示すことにも繋がった。70年代のキースはソロ・コンサートと並行してアメリカン・カルテット、ヨーロピアン・カルテット、自作の現代曲の作品も発表しており、多彩な作風のプロジェクトを可能にしたのはECMの功績でもある。


『ザ・ケルン・コンサート』(1975年録音)




『サンベア・コンサート』(1976年録音)




 80年代録音のソロ・コンサート作は、81年のブレゲンツ&ミュンヘン公演を収めたLP3枚組の『ヨーロピアン・コンサート』、84年にラスト・ソロを宣言したキースが来日公演で即興の小品集という新機軸を打ち出した87年の『ダーク・インターヴァル』、名門サル・プレイエルでの88年録音作『パリ・コンサート』と、70年代の物量感に比べると落ち着いたようにも映る。これは83年にゲイリー・ピーコック、ジャック・ディジョネットと始動させたトリオと無関係ではないだろう。スタンダーズの呼称でピアノ・トリオの歴史を変革したユニットは、80年代に吹き込んだ音源から8タイトルものアルバムを残している。


『ヨーロピアン・コンサート』(1981年録音)




『ダーク・インターヴァル』(1987年録音)




『パリ・コンサート』(1988年録音)




 ECM30周年の99年には、病気療養中に自宅スタジオで録音した独奏作『メロディ・アット・ナイト、ウィズ・ユー』を、40周年の2009年には前年のパリ&ロンドン公演を収めた3CD作『テスタメント』をリリース。そして今回、50周年を記念して登場する『ミュンヘン2016』は2016年7月16日録音の2枚組ライヴだ。1日での録音による2CDライヴの過去作はというと、2005年録音の『カーネギー・ホール・コンサート』(2006年発表)、リオデジャネイロでの2011年録音・発表作『リオ』、そして本稿冒頭で触れた昨年発表の『ラ・フェニーチェ』と、わずか3タイトルを数えるのみ。これら4タイトルに共通するのは、演奏時間の長短が混ざった8~15パートからなる即興曲が、本編を構成していることだ。『リオ』を除いて、アンコールで演奏されたスタンダード・ナンバーが聴けるのも特色。70年代以降はオリジナル曲をレパートリーの中心にしてきたキースは、70年代のソロ・コンサートで自作曲「メモリーズ・オブ・トゥモロウ」や「マイ・ソング」を選曲しており、2000年代に顕在化する「既成曲のアンコール演奏」は、ファンにとっての大きな楽しみとして定着している。


『テスタメント』(2008年録音)




『カーネギー・ホール・コンサート 』(2005年録音)




『リオ』(2011年録音)




『ミュンヘン2016』の本編全12曲のうち、10分を超えるのは13分29秒の「パートI」だけで、3分台までが5曲であり、やはり小品集の要素が認められる。音楽配信サービスでアルバム発売前に先行公開された「パートIII」はフォーク・テイストのメロディアスな5分56秒。既成曲と言ってもおかしくないまとまりのある曲調は、キースが得意とする即興的作曲の好例だ。集中力を凝縮させた急速調の1分50秒曲「パートVII」、リズミカルな3分3秒のキース流ブルース・ナンバー「パートIX」等、かつての長時間即興演奏とは異なるアプローチは、自身のソロ・コンサートの鮮度を失わない効果を生んでいて、「パートI」とのコントラストがアルバム全体に及んでいる点も見逃せない。ナット・キング・コールの歌唱で知られるアンコール1曲目の「アンサー・ミー、マイ・ラヴ」は、緊張感を帯びた本編からキースも観客も解放された安心感を表出。すでにキースがライヴ活動に幕を下ろしたと覚悟するファンにECMが贈る、2010年代最後のプレゼントである。


『ミュンヘン 2016 ティーザー映像』↓




■作品情報

キース・ジャレット『ミュンヘン 2016』
Keith Jarrett / Munich 2016
2019年11月1発売
品番:UCCE-1181/2
価格:\3.850(税込)

CDはこちら
https://www.universal-music.co.jp/keith-jarrett/products/ucce-1181/

spotifyはこちら
https://open.spotify.com/album/2r6TKFkXMiRqpSD0hNA59v?si=ZVWcYpVKTN2CTDvm2QS5kA

Apple Musicはこちら
https://music.apple.com/us/album/munich-2016-live/1480824440?app=music

【収録曲】
(CD1)
01. パートⅠ
02. パートⅡ
03. パートⅢ
04. パートⅣ
05. パートⅤ
06. パートⅥ
07. パートⅦ

(CD2)
01. パートⅧ
02. パートⅨ
03. パートⅩ
04. パートⅪ
05. パートⅫ
06. アンサー・ミー、マイ・ラヴ
07. イッツ・ア・ロンサム・オールド・タウン
08. 虹の彼方に

■キース・ジャレット各種リンク
ユニバーサル ミュージック
https://www.universal-music.co.jp/keith-jarrett/

Facebook
https://www.facebook.com/keithjarrettsolo/

ユニバーサルミュージック:ECM50周年サイト
https://www.universal-music.co.jp/jazz/ecm50th/

ECM50周年の歩み:特別年表
https://tower.jp/site/series/ecm50th