COLUMN/INTERVIEW

ゆっくり、だけど、確実に。 〜福盛進也 音楽半生記〜 (第21回)



2019年に創立50周年を迎えたドイツの名門ECMレーベル。そのECMから昨年デビューを飾った日本人ドラマーの福盛進也。
15歳でドラムを始め、17歳の時に単身で渡米。その後、ブルックヘブン・カレッジ、テキサス大学アーリントン校を経て、バークリー音楽大学を卒業。10年間のアメリカでの活動後、2013年に拠点をミュンヘンに移し欧州各国で研鑽を積み、遂に念願のECMデビューを飾った福盛進也が、これまでの歩みを自ら綴る連載企画。


【第二十一章】―想い出の七面鳥―

白いシャツにネクタイを締め、黒いスーツに黒い革靴。

初めてのジャズ・コンサート。

興奮気味の僕は、集合時間より少し早めに自宅を出た。学校に到着し教室からコンサート・ホールへとドラムセット、ヴィブラフォン、そしてマリンバを運ぶ。ひっそりとした大きなホール、そのステージ上でセッティングを始める。ぞろぞろと生徒も集まり、Royがサウンドチェックの指示をする。が、誰もコンサートに慣れておらず、ただ単にサウンドチェックという名のリハーサルだった。Royも普段はクラシック奏者なので少々あたふたしていたのかもしれない。立ち位置を決め、ある程度みんなが心地よい空間になり、待合室でもある教室に僕らは戻った。談笑する者もいれば最後の練習をする者もいた。そうやってそれぞれ時間を潰し、いよいよ本番の時間がやってきた。

最初に「So Nice」をテンポよく問題無く演奏した。そしてその後にヴィブラフォンとマリンバで出番があった。まずはヴィブラフォンで「Stolen Moments」。スローなマイナー・ブルースが進行する中、僕は管楽器と一緒にメロディを弾いた。もともと本番に強い僕は堂々とメロディを弾き終え、みんながソロを取った後に僕の番が回ってきた。ジャズ理論をあまり理解していないながらも、ブルース・スケールをなんとか駆使してソロを取った。その結果、今までリハーサルや練習していた時よりも確実に良いソロを演奏することができた。そのまま勢いに乗り、マリンバで「Pent Up House」を演奏し、遂にドラムで残りの3曲を叩いた。大勢の人の前でスウィングする心地よさ、そしてお互いがソロを取りながら重なり合うインタープレイの興奮、それはもはや一種の麻薬のような、自分を極限までハイにする経験だった。自分から志願した「Straight, No Chaser」も単純にめちゃくちゃ楽しかったし、演奏する喜びは感動になり、「やはり僕が求めていたのはこれだったのだ」と改めて気付かされた。そして演奏後は仲の良いメンバーたちで、学校近くの行きつけのバーで楽しく打ち上げた。


コンサート。Michaelと一緒に

次の日、僕は同じLab Bandでベースを担当しているMichaelの家に招待された。普段から仲良くしていて、「Thanksgivingのお祝いで家族みんなでご飯食べるから、シンヤも来いよ」と家族が近くにいない僕を誘ってくれたのだ。Michaelの家に着くと、綺麗に装飾されたテーブルの上にご馳走がたくさん並んでいた。Thanksgivingでは主に七面鳥を食べるのだが、その七面鳥の丸焼きや美味しそうな一品料理が僕を待っていたのだ。家族や親戚一同が合計10人ぐらい集まり、みんな僕を温かく迎え入れてくれた。料理が一切できず、ファーストフードばかり食べ、貧しい食事をしていた僕はその光景に感動した。こんなにも豪華な料理を見たのはアメリカに来て初めてのことだったし、何よりも暖かい家庭に触れられたことが嬉しかった。みんなで七面鳥を食べワインを飲み、そこから僕の生い立ちを話したり、Michaelのお父さんとはレコードを聴きながらジャズの話で盛り上がり、本当に有意義な時間を過ごさせてもらった。

入学してから初めてのジャズ・コンサートまで頑張った自分へのご褒美だったのかな、とその素敵な一日は今でも素晴らしい想い出として心に残っている。

その後もMichaelとはお互いの家を行き来し、面白い音楽をたくさん教えてもらったりしていた。だがそれから一年ぐらい経った後、彼は音楽を諦め違う道へと進んでいった。大学も違うところへと編入し、まだSNSがそんなに普及していない時代だったこともあり、それから彼との連絡は徐々に少なくなり遂には途絶えてしまった。

これを書いている現在、あれから16年後のThanksgivingだ。Michaelもどこかでまた同じように家族で集まり七面鳥を食べているのかな。想像するとあの頃の懐かしい笑顔が蘇る。

※記事中の写真は本人提供

(次回更新は12月16日の予定です)



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