COLUMN/INTERVIEW

ゆっくり、だけど、確実に。 〜福盛進也 音楽半生記〜 (第22回)



2019年に創立50周年を迎えたドイツの名門ECMレーベル。そのECMから昨年デビューを飾った日本人ドラマーの福盛進也。
15歳でドラムを始め、17歳の時に単身で渡米。その後、ブルックヘブン・カレッジ、テキサス大学アーリントン校を経て、バークリー音楽大学を卒業。10年間のアメリカでの活動後、2013年に拠点をミュンヘンに移し欧州各国で研鑽を積み、遂に念願のECMデビューを飾った福盛進也が、これまでの歩みを自ら綴る連載企画。


【第二十二章】―The Foo Birds―

僕はビッグバンドが大嫌いだった。

ブルックヘブン・カレッジには昼だけでなく、Night Time Lab Bandというものがあった。毎週水曜日の夜に集まり演奏をする授業。人数は14、5人からなり、いわゆるビッグバンドというものに生で触れたのはこの授業で、大学生活2年目から僕はそのNight Time Lab Bandに参加するようになった。そして、その授業の先生が僕のドラムを指導してくれていたKeithだったのだ。

そのビッグバンドは学生だけでなく、今までずっと音楽をやってきた人たちが多く、レベルも昼のバンドに比べると圧倒的に高かった。だから自分がこのバンドで演奏するのはもっともっと先でも良いのでは、と思ったほどだった。最初の方は、もともといたドラマーでベテランのFrankが演奏するのを後ろからじっと見つめ、たくさん聴きながら勉強をさせてもらった。

僕は譜面が読めたし身体で覚えるのは得意だったのだけれども、初見ですぐに全てを把握して演奏する能力は全くなかった。ビッグバンドといえば、初見で何曲も演奏を進めていくことが醍醐味みたいなところがあるのだが、自分にとってそれは恐怖でしかなかった。もっと専門的なことを言えば、ビッグバンドにおけるドラマーの立ち位置はとても重要で、「アンサンブルフィギュア」「バンドフィギュア」「ヒッツ」などと呼ばれる、日本語でいうところの「キメ」をしっかりとセットアップする役割がある。そのセットアップを失敗するとバンド全体がむちゃくちゃに崩れる恐れがあり、乗車客全員の運命を握ったバスの運転手のようだった。もちろん、初心者の僕にはそんなテクニックが無く、決め事が多いビッグバンドが次第に苦手になっていった。

そしてもう一つ、ビッグバンドが苦手な理由があった。通常、ビッグバンドではリズムセクションは右側(観客から見て左側)に配置される。ドラマーはホーン・セクションの右隣、ということは、左耳が聴こえない僕には楽譜を初見で追いながら全てを耳に入れるのがとても難しかった。

そうやって、ビッグバンドに対する興味を失い、課題曲や予習などもほとんど怠るようになってしまった。やっぱり自分にはコンボのようなスモール・アンサンブルが向いているんじゃないか、とずっと思っていた。その頃には、音楽科の上級者が入れるVocal Jazz Ensembleにも参加しドラムを叩いていて、そっちのほうが断然楽しかった。

その後もずっとそういう感じで続けていたのだが、やはりその授業もセメスターの終わりにコンサートがあったのだ。初心者の僕は、一曲だけ任された。カウント・ベイシー楽団のアルバム『The Atomic Mr. Basie』の中にも入っている「Flight of the Foo Birds」という曲だ。軽快なスイングの曲で、最後は大きくグルーブする場面もある。簡単な曲ながらも、最後の方にたくさんの「キメ」があり、僕はその木目をうまくセットアップできるようになるまでとても苦労した。

本番の日、ドラムをセッティングしにステージに向かうと、Frankが既にドラムの調整を行なっていた。僕はそれを見ながら、空いているピアノの席に座り、適当に「枯葉」を弾いた。するとFrankはそれに合わせ少し一緒に遊んでくれた。ニコッと笑い僕には近づき、「君はタイムフィールがすごくいい。とてもいいセンスを持っているからそのまま進めばいい」と声を掛けてくれた。初めてのビッグバンドで緊張していた僕は、その言葉がとても心に響き、全然ダメだったビッグバンドでも自信が持てるようになった。本番でもその自信が続き、「Flight Of The Foo Birds」も粗いけど良い演奏ができた。


ビッグバンドのコンサート

ずっと嫌いだったビッグバンド。その後もずっと苦手意識はあったのだが、徐々に馴染んでいけるようになったと思う。二度とビッグバンドを演奏したくないと思ったこともあったのだが、(これから先も含め)僕のアメリカ生活で大部分を占めていたのはビッグバンドであり、ビッグバンドの中で学んだもの以上のことは他に何もなかったとはっきり言えるだろう。今では初見は大の得意であり、最終学歴のバークリー音大でも初見は最高レベルの評価をもらっていた。

そしてただ一つ言えるのが、どんなに苦手なものでも自分が自信を持って臨みさえすれば、克服なんて容易いものなのだ。そうビッグバンドが教えてくれた。

※記事中の写真は本人提供

(次回更新は1月6日の予定です)



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