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ゆっくり、だけど、確実に。 〜福盛進也 音楽半生記〜 (第26回)


2019年に創立50周年を迎えたドイツの名門ECMレーベル。そのECMから昨年デビューを飾った日本人ドラマーの福盛進也。
15歳でドラムを始め、17歳の時に単身で渡米。その後、ブルックヘブン・カレッジ、テキサス大学アーリントン校を経て、バークリー音楽大学を卒業。10年間のアメリカでの活動後、2013年に拠点をミュンヘンに移し欧州各国で研鑽を積み、遂に念願のECMデビューを飾った福盛進也が、これまでの歩みを自ら綴る連載企画。


【第二十六章】―When You’re Smiling―

University of Texas at Arlington (UTA)に入学するには、二つの壁を越える必要があった。

まず一つは学力。音楽を学びに行くといっても、UTAは四年制の総合大学にあたるので学力のレベルはしっかりと試される。SATと呼ばれる日本でいうところのセンター試験を受け、必要とされている点数よりも高いものを持っていないと書類段階で落とされる。それに加え高校、また編入の場合は以前の大学のGPA(アメリカでの数字で表される成績評価)の提出が必須だ。そして最後に、留学生に対して求められる英語力、TOEFL。当時、アメリカのだいたいの大学に入学するには550点以上のスコアが必要であった。Brookhaven Collegeはコミュニティカレッジだったのでもう少し低かったと記憶しているが、550という数字は留学生にとっては一つの目標となるものだった(※現在はコンピュターベースなので点数は異なる)。SATとTOEFLはBrookhaven在学中にしっかりとクリアをし、GPAも問題無かったため学力はあっさりと合格できた。


当時、21歳の頃

そしてもう一つ、これから行われる音楽のオーディションだ。オーディションは主に三つに分かれていた。ビッグバンドでの実技、ドラム単体での実技、そしてパーカッションの実技。この3つ全ての合格ラインを突破しなければ入学はさせてもらえない、運命のオーディション。

2015年12月2日、金曜日。UTAまで送ってくれるYoungと午前10時にBrookhavenで待ち合わせ。僕はそれよりも一時間早く到着し、オーディションで演奏しないといけないマリンバの曲を最後に練習し確認した。その週はセメスター終わりということもあり、ボーカル・ジャズ・アンサンブルでの録音やDunn Brothersでのギグ、ジャズ・ピアノやクラシック・ギターの最終レッスン、そしてティンパニや鍵盤打楽器でクラシックのコンサート、などなど普段の授業だけでなく、多忙を極めオーディションの練習もしっかりできていなかった。自宅にいる時に合間を縫って、指二本をマレットに見立てて安い電子キーボードの上で練習をしたりしていた。もともと苦手だった鍵盤打楽器だったため、少々不安があったのだ。そして午前10時になりYoungと落ち合った。早速Arlingtonへと向かい、30分ほどでUTAに到着した。「俺はちょっと学校をぶらぶら見学してくるよ」と言い残し、Youngは一人で消えていった。彼は僕より後のセメスターから入学する予定だったので、この日のオーディションには参加しなかったのだ。

さあ、お気楽なYoungは放っといて自分のことに集中だ。午前11時、最初はビッグバンドでの実技。UTAの3つあるうちのトップのビッグバンドの中に入り演奏だ。指揮をするのはTim Ishii、これが二度目の再会となる。僕のこともしっかりと覚えていてくれ、歓迎ムードの中オーディションが始まった。ビッグバンドということで、初見で数曲演奏する内容のものだった。初見はまだまだ苦手だったものの、どんなものが出てくるかドキドキしワクワクした。そして楽譜番号を伝えられ、ドラム・パートのフォルダからその番号の楽譜を取り出した。そこに書いてあったタイトルは「When You’re Smiling」。これを見た時に僕は「勝った! 俺は最高にツイてる!」と確信した。実はこの曲のこのアレンジ、このチャート、何度も何度もBrookhavenのビッグバンドで演奏してきた曲だったのだ! かと言って油断はできない。このアレンジは速くも遅くもなく、テンポをキープするのにはとても難しい曲で、気を抜くと崩れやすいのだ。カウントが始まり、しっかりと集中しブラシでタイムを出す、順調だ。ソロ・セクションになりスティックに持ち替えそのまま崩さず進める。その後サックス・ソリに入り毎小節四拍目にお約束のリム・クリックを入れる。終盤に向かい、ホーン・セクションの”キメ“をしっかりとドラム・フィルでセットアップし煽りまくる。盛り上がったまま無事に曲は終わった。知ってるアレンジとはいえ、我ながら完璧の演奏ができた。Timからも「Sounds good!」と褒めてもらえた。続いてドラムがフィーチャーされることで有名な「Cute」、そしてタイトルは忘れたがシャッフルの曲を演奏し、ビッグバンドでの実技は終了。どちらも初見だったが、大きなミスもなくとても良い演奏ができた。「本番に強いな、俺は」と自信を持って部屋を出た。その後、一緒に演奏したメンバーも出てきて、「すごい良かったよ、来セメスターから来るのか? 楽しみにしてるぜ」と声を掛けてくれ、安堵のため息をつき次のオーディション会場へと向かった。

 

参考音源:When Your Smiling - The Tom Kubis Big Band


※記事中の写真は本人提供
(次回更新は3月2日の予定です)


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