COLUMN/INTERVIEW

【レコーディング・レポート】レコード会社ディレクターによる、キャンディス・スプリングス×山崎まさよし「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」誕生の記録


 一月中旬、キャンディス・スプリングスは都内のレコーディング・スタジオにいた。ノラ・ジョーンズ直系とも言えるブルーノートの歌姫である彼女が、アメリカ、ナッシュビルから東京のスタジオにやってきたのは、他ならぬ、彼女の新アルバム『私をつくる歌 ~ザ・ウィメン・フー・レイズド・ミー』に収録される日本盤ボーナス・トラック「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」のレコーディングのためである。
このトラックは、キャンディスが惚れ込んだ声を持つ、シンガー・ソングライター、山崎まさよしさんとのコラボ楽曲という特別なものだ。日本人アーティストのコラボレーション自体は、レコード会社からの提案だったが、もともと山崎さんの歌声を聴いたことがあったキャンディスの希望もあり、とんとん拍子に実現へと至った。彼女のこのコラボレーションへの思い入れは強く、通常、海外アーティストと邦人アーティストのコラボは、双方別々のスタジオで録音することが多いものの、キャンディスは遥々東京までやって来た。彼女が歌うのはジャズであり、その即興性を保ち、山崎さんのハーモニーを体感しながら録音するためだ。

 お昼すぎ、キャンディスがピアノのサウンド・チェックを始めると、山崎さんがギターを片手にふらっとスタジオに入ってきた。キャンディスが手を止めて立ち上がり、握手をしながら山崎さんにアルバムに参加してくれる感謝を伝える。和やかな雰囲気で挨拶を終えると、早速2人は楽曲のアレンジに取り掛かった。お互いの音楽がどういうものかは知っているものの、2人が実際に顔を合わすのは今日が初めて。筆者は実際にこの日を迎えるまで、初対面の人たちが一緒にアレンジからレコーディングまで、すべてを作り上げるというのは、なかなかにチャレンジングなものなのだろうと思っており、レコーディング・スタジオを手配する際も「本当に1日だけの予約で大丈夫なのか」と、内心ハラハラしていた。しかし、いざ2人が楽器を鳴らし始めるとそんな心配は全く無用だったとすぐに気が付く。よく「音楽は世界の共通言語」と言うが本当にその通りで、キャンディスが準備してきたアレンジを披露するとそこに山崎さんがギターを乗せ、歌詞を口ずさむ。それぞれのアイデアはすぐに音に反映され、その音を聴いて、キャンディスが「じゃあ、こうしよう」と次のメロディを少し変える。すべての音が会話のように繋がっていった。念のためということで、通訳の方にお願いをしてその場に同席してもらっていたが、アレンジ作業においては出番がなくて忍びないほどだった。
 



 2人の音とイメージががっちりとはまると、今度はテンポを確認。その数秒後には、まずは試しにやってみようということになり、それぞれが各楽器のブースに入る。そして1テイク。耳馴染みのあるキャロル・キングの名曲が2人らしいアレンジで形になった。聴いているこちらにはすごく心地よいメロディだったが、ブースから出た2人は、すぐにその音源を聴き返し、全体的にスローテンポな楽曲が並ぶアルバム後半のスパイスするためテンポを少し早めようという結論を出し、再び、ブースに戻った。そして、2テイク目。1テイク目より気持ち少しアップテンポになったユーヴ・ガット・ア・フレンドが響く。やはり初めは様子を伺いながら演奏していたところもあったのか、2テイク目は後半にかけてキャンディスのピアノに輝きが増し、彼女らしい即興アレンジが追加されていった。彼女の少し遊び心があるアレンジとそれをしっかりと受け止めて奏でられる山崎さんのギターのコラボレーションは絶妙で、ブースから出てきたキャンディスもこれを聴いて満足した様子。そして、なんとたったの2テイクでメロディは完成。後から楽器ごとに個別でレコーディングを行うこともなく、ジャズらしく、セッション形式でレコーディングされた楽曲が収められることになった。
 



 そして、リズムに続いてヴォーカルの録音が始まる。録音したトラックを流し、その上に2人が声を重ねていく。どのような歌声だったかは、楽曲を聴いてほしい、の一言に尽きるが、圧巻だった。柔らかな2人の声が見事にマッチし、こんなに優しい音楽があるのか、と歌い終わった際に思わず拍手してしまいそうになるほどだった。その後、細かい調整をしながら2回ほど歌い楽曲を仕上げていったのだが、その過程は声も楽器の一つだと再認識させられるようで、「歌詞を歌う」という役割以外にこんなにも声の魅せ方があるのかと考えさせられた。キャンディスは山崎さんとのレコーディングにとても刺激を受けたようで、全体のレコーディングが終わってからも、より自然に声を乗せるにはどうしたらよいかしばらく試行錯誤を繰り返していた。しかし、すぐに納得する歌い方を見つけたようで、最終テイクの歌い方は伸びやかでキャンディスの良さが凝縮されていた。

 スタートからわずか4,5時間ほどで、曲が完成。原曲の良さを残しつつも、2人の「らしさ」や声質が美しい一曲に仕上がった。キャンディスのファンも、山崎さんのファンも、そしてキャロル・キングのファンも納得する仕上がりだと率直に思う。また、本楽曲はキャンディスのアルバム『私をつくる歌 ~ザ・ウィメン・フー・レイズド・ミー』のボーナス・トラックとして、どのようにアルバムを締めくくるかを考え、アレンジが施された。楽曲のみではなく、アルバム全体を通して聴いてほしい作品だ。


レコーディング風景を収めたMVはこちら



【リリース】
キャンディス・スプリングス
『私をつくる歌 ~ザ・ウィメン・フー・レイズド・ミー』
発売日:2020年3月27日(金)
価格:\2,860(税込み)
品番:UCCQ-1118
https://jazz.lnk.to/twwrmPR