COLUMN/INTERVIEW

コラム:彼なしで現代ジャズは語れない UKジャズ界の圧倒的なキング、シャバカ・ハッチングスのこれまでと向かう先

文:原田和典

一挙一動がこれほど気になる男も、なかなかいるものではない。UKブラック・サックスの雄、シャバカ・ハッチングスは3つのマザーシップを持っている。結成順にいこう。
 


サンズ・オブ・ケメット
 


 2011年に立ち上げられたのが“サンズ・オブ・ケメット”だ。編成はシャバカのテナー・サックスに、チューバ、そしてツイン・ドラムというユニークこのうえないもの。2台のドラムはポリリズムが何乗になったかのような効果を生み、チューバは“いったい何枚の舌を持っているのか”的なタンギングと発音でおそろしくシンコペイトされたブラス・ベース・ラインを奏でる。シャバカのブロウは一度火が付いたら止まらない様相を呈し、ちょっとくぐもったトーンでつづられるフレーズの数々は、ナイジェリアが生んだアフロビートの神格フェラ・クティのサックス吹奏(彼は音大でトランペットを始め、当初はランディ・ウェストンらとモダン・ジャズに取り組んでいた。72年ごろサックスに転向)をより音楽的に根拠づけたものにも感じられる。これまで3枚のアルバムを発表、最新作はインパルスからの『ユア・クイーン・イズ・レプタイル』(2018年)。若きチューバ・ゴッド、テオン・クロスはこのバンドで一躍注目を浴びることとなった。
 


ザ・コメット・イズ・カミング
ⒸFabrice Bourqelle


 いっぽう、“ザ・コメット・イズ・カミング”と“シャバカ・アンド・ジ・アンセスターズ”は同じ2016年にアルバム・デビューを果たした。前者は、キーボード奏者のダン・リーヴァーズ(父親はアリルド・アンデルセンやジャー・ウォブルらと共演したマルチ・フルート奏者クライヴ・ベル)とドラマーのマックス・ハレットが2009年から続ける“サッカー96”にシャバカが合流して誕生。ちなみにこのユニットでのステージ・ネームはそれぞれダナログ、ベータマックス、キング・シャバカという。2016年に初アルバムを出し、2019年のインパルス盤『トラスト・イン・ザ・ライフフォース・オブ・ザ・ディープ・ミステリー』でメジャー・デビュー。同年のFUJI ROCK FESTIVALにも登場した。『トラスト~』ではロサンゼルスのビート・ミュージック界で名を馳せるダディ・ケヴをマスタリング・エンジニアに迎え、これまで以上に無限に上昇していくような、スペイシー、コズミックという言葉を臆面もなく使いまくりたくなる音楽世界で高揚させる。シャバカはサックスのほか、バス・クラリネットでも神秘をまきちらす。
 


シャバカ・アンド・ジ・アンセスターズ
ⒸTjaša Gnezda


 こちらが聴く者の意識を上へ上へと飛翔させていくサウンドだとすると、基本的に南アフリカのミュージシャンとの邂逅であるアンセスターズのそれには大地をしっかり踏みしめてひたすら根っこへ根っこへと潜っていくような深みと濃さがある。通算2枚目、そしてインパルスからのデビュー作として3月13日に国内リリースされる『ウィー・アー・セント・ヒア・バイ・ヒストリー』のクレジットを見ると初期の重要メンバーだったキーボード奏者ンドゥドゥゾ・マカティーニ(故ベキ・ムセレクを師と仰ぐ。ブルーノートからの第一弾『Modes Of Communication: Letters From The Underworlds』がリリース間近!)は離れてしまったようだが、シャバカとムトゥンジ・ムヴブのサックスが絡み、シヤボンガ・ムテンブの朗詠のような、訴えかけるような歌声が耳を捉えたら、あとはもうアンセスターズの輪にとりこまれていくだけだ。シャバカはアルバムのテーマに“我々人類の行き付く先、つまり絶滅”を定め、作品を通して、一つのストーリーを構成することにした。そのストーリーがいかに展開され、大団円へと向かうのか、ぜひ注目していただけたら幸いだ。

 『ウィー・アー・セント・ヒア・バイ・ヒストリー』が出たことでシャバカの3プロジェクトはすべてインパルス入りを果たしたことになるが、それとは別に個人的にぜひディスク化してほしいプランがある。ずばり、アーチー・シェップとの共演だ。2017年、シェップはシャバカやジェイソン・モランやナシート・ウェイツを含むスペシャル・ユニットでジョン・コルトレーン没後50年トリビュート・ライヴを行なった。その情報を知って鼓動の高まった筆者は東奔西走して音源にありついたのだが、そこでのシャバカときたらさすがの絶品で、自身のパートで快演するのはもちろん八十路のシェップを明らかに触発していた。60年代インパルスのリヴィング・レジェンドであるシェップと、現代インパルスのリーディング・ヒッターであるシャバカが、さらにガチな感じで交わり、血と汗と涙うずまくスピリチュアル超大作をつくりあげた暁、現代インパルスは往年のそれと並ぶか凌駕することが可能になるであろう。希望の星、シャバカ!


【リリース】
シャバカ・アンド・ジ・アンセスターズ
『ウィー・アー・セント・ヒア・バイ・ヒストリー』

発売日:2020年3月13日(金)
価格:\2,860(税込)
https://jazz.lnk.to/WASHBHPR

収録曲
TRACKLIST
1. ゼイ・フー・マスト・ダイ / They Who Must Die
2. ユーヴ・ビーン・コールド / You’ve Been Called
3. ゴー・マイ・ハート、ゴー・トゥ・ヘヴン / Go My Heart, Go To Heaven
4. ビホールド、ザ・デシーヴァー / Behold, The Deceiver
5. ラン、ザ・ダークネス・ウィル・パス / Run, The Darkness Will Pass
6. ザ・カミング・オブ・ザ・ストレンジ・ワンズ / The Coming Of The Strange Ones
7. ビースト・トゥー・スポーク・オブ・サファリング / Beast Too Spoke Of Suffering
8. ウィー・ウィル・ワーク(オン・リディファイニング・マンフッド)/ We Will Work (On Redefining Manhood)
9. ティル・ザ・フリーダム・カムズ・ホーム / ’Til The Freedom Comes Home
10. ファイナリー、ザ・マン・クライド / Finally, The Man Cried
11. ティーチ・ミー・ハウ・トゥ・ビー・ヴァルネラブル / Teach Me How To Be Vulnerable


【Link】
シャバカ・ハッチングス
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シャバカ・アンド・ジ・アンセスターズ
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