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ゆっくり、だけど、確実に。 〜福盛進也 音楽半生記〜 (第28回)


2019年に創立50周年を迎えたドイツの名門ECMレーベル。そのECMから昨年デビューを飾った日本人ドラマーの福盛進也。
15歳でドラムを始め、17歳の時に単身で渡米。その後、ブルックヘブン・カレッジ、テキサス大学アーリントン校を経て、バークリー音楽大学を卒業。10年間のアメリカでの活動後、2013年に拠点をミュンヘンに移し欧州各国で研鑽を積み、遂に念願のECMデビューを飾った福盛進也が、これまでの歩みを自ら綴る連載企画。


【第二十八章】―新天地―

クリスマス直前に引越しを終え、Arlingtonでの新しい生活を始めた。University of Texas at Arlington (UTA)が貸しているアパートの一室に、大きなトラックで家具や楽器を運び込む。生活に困らない程度の物は全て揃っていたが、細かい物を買い足したく、引っ越した翌日のクリスマスイブ、近くの大型スーパーまで車で行くことにした。しかしそこで、とにかく運がよくなかった一年の締めくくりのような出来事が起こった。

夕方過ぎ、外はすっかり暗くなっていた。車に乗りエンジンをかけ、ライトを点けた…つもりだった。が、なぜか目の前の明るさに違和感がある。どうしたことか、と外に出て点検してみる。すると、ヘッドライトの一つが切れていたのだ。念のため後ろもチェックしてみると、ブレーキライトも切れていた。これは危ないから大型スーパーですぐに買い替えないと、そう思い、車で5、6分程の店舗に向かった。しっかり安全確認をしながら運転していると、通りかかったガソリンスタンドにパトカーが一台目に入った。「見つかるとやばいな」、そう思い少し焦りながら運転を続けた。その直後、真後ろからサイレンの音が聞こえてきた。ミラーで確認すると、さっき見たパトカーが車の後ろにピッタリと付いていたのだ。ハザードを出し、道路の脇に車を停める。やってきた警官に「今からちょうどライトを直しにいくところだ」と説明したが、そんなことは聞き入れなかった。「すぐそこに店があるじゃないか!」としばらく議論しても全く意味がなく、citationと呼ばれる違反チケットを渡された。「数日後に日本に一時帰国するから裁判所へ行けない」と説明し、さんざん言い合った結果citationの取り消しは無く、一時帰国から戻ったらすぐに裁判所に行き、経緯を説明しないといけいという、最悪のクリスマスプレゼントをもらい、サイレントナイトならぬサイレンナイトでこの一年が終わった。


近所の大型スーパー

一時帰国し、大阪で2週間ほどゆっくり過ごし、またArlingtonへと戻ってきた。さあ、いよいよ新しい学校での時間がスタートする。大阪の神社でおみくじを引いたら大吉が出た、今年は良い年になるはずだ、そう意気込み、授業の選択を済ませ始業の日を迎えた。初日は大したことはせず、二日目の朝、またまたオーディションがあったのだ。そう、今度はどのビッグバンドと、どのスモール・アンサンブルに参加できるかのオーディションなのだ。

コミュニティ・カレッジと違い、やはり総合大学で著名な教授も揃っていることから、音楽科の生徒はかなりの人数がいた。ともなれば、自ずとビッグバンドやアンサンブルの数も増える。オーディションでの結果によりレベル分けされ、複数あるビッグバンドとアンサンブルに振り分けられるのだ。UTAでは従来3つのビッグバンドがあり、トップのバンド、UTA Jazz Orchestra (JO)は国内外にツアーに出たり、コンペティションに参加したりする程の腕前だった。そして僕を含め、合計7名のドラマーがJOを目指すべくオーディションを受けた。

オーディション内容は入学の時と似ていたが、もう少しシンプルであり、バンドと一緒ではなく一人で行われた。まずは初見でビッグバンドの楽譜を見ながら数曲。そしてファースト・スウィングで32小節をタイムとソロを8小節ごとに入れ替えながら演奏する。同じくファースト・サンバも。次にブラシに持ち替えバラードを演り、またまたスティックに戻りファンクを叩き、終了。僕自身の中ではまあまあの出来だったが、初見の時の12/8拍子のラテンの曲が難しく、結構なミスをしてしまったことが気になった。オーディション部屋の外で待っていた他のドラマーから「sounded good, man」と声を掛けられたりしたが、自分的には納得はいっていなかったし、おそらくトップのJOには入れないんじゃないかと思い始めた。せめて二つ目のビッグバンドに入ることができれば、と願った。

そして午後に結果発表。ドラマーだけでなく、その日オーディションを受けた全楽器の生徒が4、50人ほど部屋に集められていた。そしてジャズ科のトップのTim Ishiiと准教授のDan Cavanaghが部屋に入りアナウンスを始めた。「今セメスターはホーン・セクションの人数が例年より少ないため、ビッグバンドは二つだけになる。」そう説明し、ドラマーは7人のうち4名だけ、バンドにつき二人ずつ参加できる、ということも補足された。残りの3名は残念ながら今セメスターはビッグバンドに参加できない、そういうアメリカの非情な実力社会を改めて思い知った。ミスもあったし、やっぱり二つ目のバンドかな、仕方ない、そう思いながら結果を待つ。「まずリズム・セクションから発表する」とTimが名前を読み上げた。ピアノ、ギター、ベースときて、いよいよドラムの番だ。

そしてTimの口から出た言葉は、

「Shinya Fukumori, drumset」

…えっ!? 一瞬耳を疑った。

  
UTA音楽科の建物

※記事中の写真は本人提供

(次回更新は3月30日の予定です)



第二十七章はこちら
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第二十一章~第二十五章のまとめ読みはこちら
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第一章~第二十章のまとめ読みはこちら
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■最新情報
伊藤ゴロー、佐藤浩一との新ユニット
「land & quiet」のデビュー・アルバムがリリース。
『land & quiet』

2019.7.24 ON SALE  UCCJ-2169
https://youtu.be/9cNGNGuyO-8

■Discography
Shinya Fukumori Trio
『フォー・トゥー・アキズ』
NOW ON SALE  UCCE-1171
https://youtu.be/eWc5dSMnMcc

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