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設立60周年を迎えるimpulse!からデビューした要注目ドラマー、テッド・プアとは???

今年設立60周年を迎えるimpulse!から2月末にデビュー・アルバム『You Already Know』をリリースしたシアトル在住のドラマー、テッド・プアをご紹介いたします。



文:原田和典


インパルス・レーベルの“現在進行形ジャズ紳士録”に、またしても要注目の逸材が加わった。ドラマーのテッド・プアである。と冷静に書いているつもりだが、個人的には心の温度上昇を禁じ得ない。自分が初めて彼の実演を体験したのは2000年代の半ばだったか。パット・メセニー・グループにいたトランペット奏者クオン・ヴ―率いる“ヴーテット”のニューヨーク・ライヴに遭遇した。レスラーのように鍛え抜かれた大きな体、長い手足で、音のハレーションと呼びたくなるようなラウドなプレイを繰り広げていたのだが、いっぽうで弱~弱弱~弱弱弱クラスの微妙な音量調整が本当に巧みで、叩く時の凛とした姿勢やスティック・コントロールも含めて、ぼくはなぜだかバディ・リッチを思い出さずにはいられなかった(別にリッチとプアの語呂合わせをしているわけではないが)。
当時はポール・モチアンがまだ健在、ジョーイ・バロンが着々とステップアップしていた頃で、トム・レイニー、ジム・ブラック、ジェラルド・クリーヴァ―、マーカス・ギルモア、タイシャン・ソーリーら気鋭がそれに続けとばかりギラギラとリズムをうねらせていた。テッドはビル・フリゼール、ベン・モンダ―、マイラ・メルフォードらとも共演し、近年はポール・サイモンの傑作『ストレンジャー・トゥ・ストレンジャー』やパンチ・ブラザーズのクリス・シーリのソロ作『サンクス・フォー・リスニング』にも参加。アンドリュー・バードやフィオナ・アップルのサポートを務めたり、クリスのラジオ番組「ライヴ・フロム・ヒア」にも登場するなど、ますます活動の場を広げている。ジャズとロックのマッシュアップを志すバンド“マウント・ヴァーナム”の一員として2013年に発表した『ウーンデッド・キャロライン』という作品では全レパートリーの作曲、ほとんどの作詞も手掛けた。
そこに、いよいよ待望のリーダー作リリースの知らせである。フリー・ジャズからインディー・ロックまで八面六臂のテッドゆえ、幅広い人脈を生かしたゲストだらけの作品にすることもできただろう。それにインパルスは60年の歴史の中で一度もマイナー・カンパニーだったことはない。予算だってとれたはずだ。だがテッドはシンプル・イズ・ベストを地で行く。参加メンバーを最小限にして、サウンドの深い奥行きと使用楽器の音色のヴァリエーションでこちらの興味を離さない。アルト・サックスを吹いているのはアンドリュー・ディアンジェロだ。と冷静に書いているつもりだが、個人的には心の温度上昇を禁じ得ない。彼が最初に注目されたのは80年代後半、少年時代のカート・ローゼンウィンケルと“ヒューマン・フィール”を組んでいた頃であろうか。その後アイザー/オーケストラやボビー・プレヴィットのバンドで活動、一時期は脳腫瘍で活動不能とも伝えられたが見事に復活し、自身のユニット“ゲイ・ディスコ”、過激道を突き進む“ビューロー・オブ・アトミック・ツアリズム”等で鮮烈なトーンをまき散らしている。
本盤は基本的にテッドとアンドリューの音の対話でつづられる。ドラムスはメロディをもたっぷりと表現し、サックスはリズミカルな面を打ち出す。4曲目「To Rome」ではテッドが繰り返し叩き出す旋律がサウンドの中心に位置し、アンドリューのアルト・サックスが舞う。続く「New Wonder」では前曲に登場したフレーズがそのまま、アンドリューのサックスに乗り移り、いっそう豊かな音世界がふんわりと広がっていく。さらに「At Night」ではストリングスが漂う。このシュールな哀歓はなんだ。基本的にアルト+ドラム+テクノロジーという組み合わせということもあって、ぼくはデイヴィッド・ビニーとジェフ・ハーシュフィールドの共演盤『ア・スモール・マッドネス』(2003年)もチラチラ思い出しつつ楽しんだのだが、テッドがそれを聴いているかどうかは本人に尋ねてみなければわからない。
彼はニューヨーク州ロチェスターに育ち、ハイスクールに通っていた時にジャズの道を志したという。最初に感動したジャズ・ドラムはマイルス・デイヴィス・クインテットのレコードで聴いたフィリー・ジョー・ジョーンズ、続いてソニー・ロリンズのレコードで叩いているビリー・ヒギンズに魅せられた。強く影響されたのはザ・バンドのリヴォン・ヘルム。クリス・シーリやアンドリュー・バードと共演するとき、リヴォンのアプローチは大いに参考になったという。イーストマン音楽院在学中、演奏会のゲストとして訪れたベン・モンダ―と共演し、やがて彼のバンドに抜擢されたのがマンハッタンでプレイし始めたきっかけであるそうだ。ここ10数年はワシントン州シアトルを拠点に活動している。


■作品情報
Ted Poor / You Already Know

CDはこちら
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