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ゆっくり、だけど、確実に。 〜福盛進也 音楽半生記〜 (第29回)


2019年に創立50周年を迎えたドイツの名門ECMレーベル。そのECMから昨年デビューを飾った日本人ドラマーの福盛進也。
15歳でドラムを始め、17歳の時に単身で渡米。その後、ブルックヘブン・カレッジ、テキサス大学アーリントン校を経て、バークリー音楽大学を卒業。10年間のアメリカでの活動後、2013年に拠点をミュンヘンに移し欧州各国で研鑽を積み、遂に念願のECMデビューを飾った福盛進也が、これまでの歩みを自ら綴る連載企画。


【第二十九章】―大きな自信―

Timに名前を呼ばれた僕は、半信半疑のままその後のメンバー発表が終わるのを待った。コミュニティカレッジ上がりの僕がいきなりトップ・バンドで演奏できるとは! かなりの驚きで戸惑う反面、自分の力を過信していた僕は「やはり才能、そして潜在能力というものは正しく評価されるんだなぁ」と、いつもの根拠のない自信を取り戻していた。

全ての発表が終わり、部屋を出る。するとエレベーター前で先程まで部屋にいた数人が騒いでいた。

「で、そのShinyaとかいうドラマーって一体誰なんだ? あ、お前がそうか?」

通りすがった僕を見て、そのグループの一人が言った。短く頷き、何を言われるかと思ったら、次々とお祝いの言葉を伝えてくれた。実力社会だが、お互いを認め合い尊敬する環境は素晴らしいし、またそれもアメリカらしいなと感じた。そして、その問いをボクに投げかけた男は、これから何年も共に修行を重ね、ライバルであり親友となるClintだった。

Clintは生粋のテキサス男で、しかもArlington生まれArlington育ち。地元の高校に通い、ドラムを始め学校のマーチング・バンド(ドラムライン)に参加し、そのままUniversity of Texas at Arlington(UTA)に進学した。先ほどの結果発表では、2つ目のビッグバンドで名前を呼ばれ、別々のバンドではあるがなんとかポジションを獲得し、一緒にジャズを勉強することになった。

その数日後の夜、スモール・アンサンブル(通称、コンボ)の結果発表も行われた。今度は部屋に集められる訳ではなく、音楽科の建物の入り口にある掲示板に結果が張り出されていた。コンボは確か合計4つのレベルに分けられていたと思う。コンボはビッグバンドと違い、初見の能力よりもタイム・フィールや即興で大きく判断される。1つのコンボに付きドラマーは一人だけ、さてどうなるか!

ドキドキしながら掲示板の前に立つ。顔を見上げ、トップコンボから確認する。トランペット、トロンボーン、サックス、ヴィブラフォン、ベース、という編成の中、最後にドラム。すると、なんとまたしても自分の名前がそこにあったのだ! ビッグバンドに引き続き、コンボでもトップのグループに入れたことが嬉しくてたまらなかった。スキップしたい気持ちを抑え、自分のアパートに帰り、喜びをしっかりと噛みしめた。と同時に、毎学期メンバーが変わり、下手すると下のバンドに落とされたりもするシビアな世界、しっかりとこの位置を守り続けなければ、と覚悟を決めた。

この2つの結果が僕にとって大きな自信となり、それは演奏にもはっきりと影響が出た。そして、周りのメンバーのレベルも上がったことにより、これまでよりも一層躍動感が出たし、昨年あんなに悩んだ音楽がまた楽しくなってきた。学校が変わったものの、Brookhaven Collegeでの水曜日の夜のビッグバンドも勉強のために続けていた。もちろん担任はKeithが変わらずやっているし、それも続けた理由の1つだった。UTAに入学して結果発表があったすぐ後、そのBrookhavenでのリハーサルの最中にこう言われた。

「Shinya、一体お前に何が乗り移ったんだ? 最高じゃないか!」

  
Brookhaven Collegeでのリハーサル

Keithだけでなく、他のメンバーも僕の違いにすぐ気付いてくれた。もちろんテクニック的なことは何も変わっていないはずなのに、一週間UTAに行っただけで付いた自分自身への自信が、演奏能力まで大きく変えてしまったのだ。今まで培ってきた実がやっと花となり咲き始め、目に見えるほどの実力の変化として現れたのだ。初見をやっても全てうまくいったし、タイム・フィールもシンバル・レガートも、自分の中で最高得点だった。

そうやって勢い付き、コンボのメンバーとのギグや、月水金と週3で行われるJazz Orchestra(JO)のリハーサルをこなし、僕はこれ以上ないほど調子が上がっていた。それだけでは終わらず、UTA、Brookhaven の他にもTarrant County College(TCC)というコミュニティカレッジのビッグバンドにもサポートで入り、とても忙しい毎日を過ごし充実感をあじわっていた。朝にJO、昼にTCC、夜にBrookhaven、と3つのビッグバンドのリハーサルを一日でやる日もあったりと。毎日たくさん演奏することで、どんどんと音楽を吸収している時期だった。

しかしそんな矢先、僕は身体の一部を故障してしまったのだ。


JOでのリハーサル

※記事中の写真は本人提供

(次回更新は4月13日の予定です)


第二十八章はこちら
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■最新情報
伊藤ゴロー、佐藤浩一との新ユニット
「land & quiet」のデビュー・アルバムがリリース。
『land & quiet』

2019.7.24 ON SALE  UCCJ-2169
https://youtu.be/9cNGNGuyO-8

■Discography
Shinya Fukumori Trio
『フォー・トゥー・アキズ』
NOW ON SALE  UCCE-1171
https://youtu.be/eWc5dSMnMcc

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