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ゆっくり、だけど、確実に。 〜福盛進也 音楽半生記〜 (第30回)


2019年に創立50周年を迎えたドイツの名門ECMレーベル。そのECMから昨年デビューを飾った日本人ドラマーの福盛進也。
15歳でドラムを始め、17歳の時に単身で渡米。その後、ブルックヘブン・カレッジ、テキサス大学アーリントン校を経て、バークリー音楽大学を卒業。10年間のアメリカでの活動後、2013年に拠点をミュンヘンに移し欧州各国で研鑽を積み、遂に念願のECMデビューを飾った福盛進也が、これまでの歩みを自ら綴る連載企画。


【第三十章】―僕と身体とカリウタと―

身体の一部に違和感を覚えたのは、今回が初めてではない。ドラムを始めた高校生の頃、この痛みは既に何度も現れていたのだ。

「腱鞘炎」

それが僕の右手首に走る痛みの原因だった。そして、その腱鞘炎が起こる理由も単純明快だった。そう、ただ単に僕のテクニックが悪く、身体の使い方に問題があったのだ。スティックを握りドラムを叩く時に、どうしても前腕に力が入り、大きな負担が手首にかかってしまっていた。その結果、手首を動かす度に鋭い痛みが走り、物を持ち上げたりするのもしんどかった。

右手首にサポーターをしながら、「ミュージシャンは腱鞘炎とうまく付き合っていく職業だ」という、間違った認識を持ちながら生活をしていた。だが、やはりこのままでは演奏に支障が出る。そう思い、自分自身の身体の使い方を徹底的に見直し始めた。そこで思い出したのは、15歳の時にドラムを最初に教えてもらっていたS田先生のある言葉だった。

「ドラムを演奏する上で、身体の都合上一番理に適った動きがモーラー奏法だ」

モーラー奏法。Sanford A. Moellerというドラマーが、南北戦争中の軍学団によるスネア・ドラムの演奏を研究し編み出した独自のシステム。それが後にJim Chapinに伝わりドラム・セットとして応用され、特にFreddie Gruberの下で、多くの名ドラマーが学び習得した。

その言葉を思い出した僕は、S田先生が過去に渡してくれたビデオ集を探し始めた。S田先生はマニアックなビデオをたくさん僕にくれ、その中でもフランク・ザッパの映像は高校生の僕にはとても刺激的だった。だがそれは、研究材料というよりは、芸術的作品だったので他のものを探した。そして見つけ出した、最高の研究材料を。「Buddy Rich Memorial Scholarship Concert」という、伝説のドラマー達がバディ・リッチ・ビッグバンドをバックに演奏する素晴らしい映像作品だ。いくつかシリーズ化されているが、僕が観たのはスティーヴ・ガッド、デイヴ・ウェックル、そしてヴィニー・カリウタの3者が演奏するものだった。そういえば、S田先生が「その3人の中でヴィニーが一番凄い」と言っていたことが、僕の記憶の中に残っていた。確かに、その映像のヴィニーをじっくり観てみると、本当に素晴らしいテクニックの上にずば抜けた音楽性、更には変態的なフレーズとセンスが重なり、僕はあっという間にヴィニーの虜になった。

それからというもの、僕はヴィニーの入ったCDやDVDを買い漁り、知らないアーティストのアルバムでも、ヴィニーのクレジットが入っていれば即座に購入した。LAのスタジオミュージシャンの先鋭達が集まったデヴィッド・ガーフィールド率いるカリズマ、そしてジェフ・ベック、スティング、ジョン・マクラフリン、チック・コリア、ハービー・ハンコック、マイク・スターン、ジョニ・ミッチェルなどなど、本当にありとあらゆるものを聴きまくった。映像では「Modern Drummer Festival 2000」に出演するヴィニーを何度も何度も観て、徹底的に身体の使い方を研究した。音を消すと身体の使い方が一層分かりやすいことにも気付き、徹夜でテレビの画面にかぶり付いていた。

  
当時ハマっていたカリズマのアルバム

Vinnie Colaiuta: Modern Drummer Festival




また、身体の構造をもっと深く勉強するために、マラソンや野球、ボクシング、バスケットボールなどのスポーツ映像も手に入れ、入念に身体の使い方をチェックした。それだけでなく、骨や筋肉の仕組みについて細かく書いてある本もたくさん購入し、僕の今までの動きが根本的に間違っていたこともよく理解できた。


当時参考にしていた本のひとつ

時には自分の演奏を動画に撮り、ヴィニーや他のモーラー使いのドラマーと比較し、何が違うかを突き詰めた。そうやっているうちに、スティックのグリップも変化し、そもそも人差し指を支点にしていたのを中指に変え、よりリラックスをし、身体に負担が掛からない動きを覚え始めることができた。そして腕だけでなく、ペダルを踏む脚の使い方も。

この時期に学んだことは、間違いなく目から鱗だったし、ドラマーとして進化するには大切な時間だったと思っている。当時、S田先生以外、周りに誰もモーラー奏法を理解できる人がおらず、独学でいろいろ試行錯誤したのも大きな糧になったと思う。また、怪我をすることでマイナスにならずに、ポジティヴに前に進むことが大切だということも覚えた。

そして、この時期を境に、僕の聴く音楽の趣向も大きく変わっていった。

※記事中の写真は本人提供

(次回更新は4月27日の予定です)


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■最新情報
伊藤ゴロー、佐藤浩一との新ユニット
「land & quiet」のデビュー・アルバムがリリース。
『land & quiet』

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■Discography
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