COLUMN/INTERVIEW

ゆっくり、だけど、確実に。 〜福盛進也 音楽半生記〜 (第31回)


2019年に創立50周年を迎えたドイツの名門ECMレーベル。そのECMから昨年デビューを飾った日本人ドラマーの福盛進也。
15歳でドラムを始め、17歳の時に単身で渡米。その後、ブルックヘブン・カレッジ、テキサス大学アーリントン校を経て、バークリー音楽大学を卒業。10年間のアメリカでの活動後、2013年に拠点をミュンヘンに移し欧州各国で研鑽を積み、遂に念願のECMデビューを飾った福盛進也が、これまでの歩みを自ら綴る連載企画。


【第三十一章】―作曲家、誕生―

手首を痛め、ヴィニーを聴き始めたことにより、ハード・バップばっかり聴いていた毎日に変化が訪れた。

当時はエルヴィン・ジョーンズを神と崇めて、ジョン・コルトレーンの黄金カルテットをずっと聴いていた。しかし、ヴィニーの出現により、より複雑で緻密な音楽に興味がで始めたのだ。前に挙げた、ヴィニーの参加するカリズマなどを始めとするLAフュージョンに感化され、スウィングしない、所謂「Straight 8ths」と呼ばれるリズムが跳ねない8分音符の上で成り立つスタイルが好きになっていった。更に、ヴィニーも得意とする変拍子の曲をよく聴くようにもなった。

またその頃、一時帰国する度に大阪の音楽仲間と夜な夜な集まっていた。その仲間のYくんの家にはあらゆる楽器が置いてあり、更には小さな防音室もあった。下町の古い長屋で音もそんなに抑えられてなかったかもしれないが、そこは僕らにとって「城」でありボロボロながらも「最高の環境」であった。その「城」に、ギタリストのDくんと3人でいつも一緒に、毎晩毎晩本当に馬鹿げた音楽を録りまくった。時にはYくんがいない時にも勝手に入り、帰ってくるまで何時間も試行錯誤し、面白い音源を作りあげたりもしていた。真剣に遊び、たくさん笑いながら音楽を作っていたこの時間、それはとてもとても大切な時間だったと今でも感じている。


音楽仲間と

そんなYくんは、楽器だけでなく音源や映像もたくさん「城」に揃えていた。かなりマニアックな物もあったり、いつも新しい発見があった。そして、その中でも一際存在感があったのがパット・メセニー・グループだった。特に『ウィ・リヴ・ヒア』と『スピーキング・オブ・ナウ』の二つのライヴ映像は素晴らしく、何度も繰り返しみんなで観ていた。とても繊細ながら大胆な美しいメロディ、全てが緻密に構築されたハーモニー。そこにユニゾンのラインが重なり、オーケストレーションも完璧だった。その後、僕は『ザ・ウェイ・アップ』に出逢い、これまでの音楽観が一瞬で変わってしまった。少し前まで行き詰まっていた僕の音楽、それが一気に広がり、可能性の限界はもはや見えなくなっていた。アルバム一枚で一つの楽曲。まるでクラシック音楽のような構成の中に、ジャズのインプロビゼーションが絡み合う。計68分(日本盤はボーナス・トラックが入り72分)からなる壮大な音芸術。誰が何と言おうと、『ザ・ウェイ・アップ』はメセニー史上最高傑作だと断言できる。本当に僕の人生を変えてしまった一枚だ。また、僕が最も影響を受けたミュージシャンは、パット・メセニーであることに間違いない。

『ザ・ウェイ・アップ』に衝撃を受けた僕は、作曲にも手を出すようになった。元々、Brookhaven College時代から課題で曲を書いたり、アレンジをしたりすることが多々あり、その作業が自分にとって心地良い時間だと感じていた。また、自分の芸術を最大に表現できるのは、演奏ではなく作曲なのではないか、とその頃から感じ始めていた。『ザ・ウェイ・アップ』みたいな大作を書いてみたいが、知識も経験も全くなく、とりあえず思うがまま曲を書きまくった。良いメロディとコード進行が書けると、「俺は天才なんじゃないか!」と自画自賛し、寝る間も惜しんで作曲に没頭した。ヘビースモーカーだった僕は、曲を書きながら何本もタバコを吸い、手書きの譜面をFinaleという楽譜製作ソフトに入力し完成させ、MIDI音源で再生をし客観的に音を楽しむ。その、「曲が出来上がった瞬間」にまた一本火をつけ、至福の時間をゆっくりと味わう。そんな自分自身に少し酔っていたのかもしれないが、紛れもなく僕は「作曲家」になっていた。ゼロから作り上げる作業が、とてつもなく楽しかった。


散らかった作曲環境

そうやって作曲にのめり込み、いつか必ず自分で書いた曲を世界中に発表してやる、と野望を心に持ち始めた。こんなにも心が満たされることは他にはない、と思う程だった。だが、こうして「作曲家」として気持ちが高揚するのとは裏腹に、演奏面での苦悩は途切れずに続いていた。遂には「音楽科を辞めたい」と思うようにまで落ちてしまったのだ。

※記事中の写真は本人提供

(次回更新は5月11日の予定です)


第三十章はこちら
https://bluenote-club.com/diary/325601?wid=67719

第二十九章はこちら
https://bluenote-club.com/diary/324900?wid=67719

第二十八章はこちら
https://bluenote-club.com/diary/324140?wid=67719

第二十七章はこちら
https://bluenote-club.com/diary/323316?list_page=2&wid=67719

第二十六章はこちら
https://bluenote-club.com/diary/322416?list_page=2&wid=67719

第二十一章~第二十五章のまとめ読みはこちら
https://bluenote-club.com/diary/323331

第一章~第二十章のまとめ読みはこちら
https://bluenote-club.com/diary/267819


■最新情報
伊藤ゴロー、佐藤浩一との新ユニット
「land & quiet」のデビュー・アルバムがリリース。
『land & quiet』

2019.7.24 ON SALE  UCCJ-2169
https://youtu.be/9cNGNGuyO-8

■Discography
Shinya Fukumori Trio
『フォー・トゥー・アキズ』
NOW ON SALE  UCCE-1171
https://youtu.be/eWc5dSMnMcc

CDアルバムのご購入はこちら
https://store.universal-music.co.jp/product/ucce1171/

iTunes Store
https://itunes.apple.com/jp/album/for-2-akis/1440858594

福盛進也Official Site
https://www.shinyafukumori.com/

Universal Music福盛進也アーティスト・ページ
https://www.universal-music.co.jp/shinya-fukumori-trio/

公式Twitter
https://twitter.com/shinyafukumori

公式Facebook
https://www.facebook.com/shinyafukumoripage/