COLUMN/INTERVIEW

ゆっくり、だけど、確実に。 〜福盛進也 音楽半生記〜 (第32回)


2019年に創立50周年を迎えたドイツの名門ECMレーベル。そのECMから昨年デビューを飾った日本人ドラマーの福盛進也。
15歳でドラムを始め、17歳の時に単身で渡米。その後、ブルックヘブン・カレッジ、テキサス大学アーリントン校を経て、バークリー音楽大学を卒業。10年間のアメリカでの活動後、2013年に拠点をミュンヘンに移し欧州各国で研鑽を積み、遂に念願のECMデビューを飾った福盛進也が、これまでの歩みを自ら綴る連載企画。


【第三十二章】―焦り―

作曲を始めたり、聴く音楽の幅が広がったり、音楽的な刺激は常にあった。しかし、それが一晩で自分の演奏に反映されるなんてことはなく、僕は焦り始めてしまっていた。

UTA(University of Texas at Arlington)にやって来て、自信が付いたことで、普段の演奏に説得力は出ていたと思う。BrookhavenやTarrant Countyのビッグバンドでは、比較的ミスも少なくうまくやっていけていた。だが、それよりももっとレベルの高いUTAのJazz Orchestraでは、演奏が全く付いていけないことも多々あった。初見もまだまだ苦手だったし、手首を痛めていたことから、それを克服する練習や楽譜の予習もままならなかった。技術や精神面でもっと成長する必要があったのだ。

春も近づいてきたある日、僕はいつものようにJazz Orchestraのリハーサルに参加した。できれば演奏したくなかった曲が選ばれ、僕は不安になりながら譜面を用意しドラム椅子に座った。構成がややこしく、途中でテンポが変わるセクションもある。ビッグバンドのドラマーとしては、こういう構成を上手にリードしセットアップしないといけない。「気をつけないと」と思い、短時間で注意深く譜面を凝視し、演奏が始まった。緊張しながらも、順調に進んでいった…はずだった。いつからか、僕の追っている場所がベーシストとズレていたのだ。僕はパニックになりつつも、ベーシストの場所に合わせて演奏を修正した。だが、これが致命的なミスだったのだ。間違っていたのは僕ではなく、ベーシストだった。ここから元の場所に戻ろうにも、もう手遅れ。全てを見失った僕は、大事なポイントを完全にスルーしてしまい、セットアップもテンポ・チェンジも何もできずに、ぐだぐだのまま曲が終わった。数秒の間、気まずい沈黙が続き、次の瞬間怒号が部屋中に鳴り響いた。

「お前ってやつは、一体いつになったら練習をするんだ!!」

激怒したTim Ishiiが、僕に投げ放った言葉だった。咄嗟に、「今のは僕じゃなくてベーシストのミスだった」と言い訳をしてしまったが、そんなことは関係なかった。そもそもは、僕がドラマーとしての役割をちゃんと担えてなかったことや、ビッグバンドの中で演奏するために、大事なことをちゃんと今まで練習してこなかったことが原因なのだ。ボロクソに公開説教され、僕はドラムの席から降ろされた。リハーサルはそのまま終わり、Timに「1時間後に俺のオフィスに来い」と言われた。

悔しくて悔しくて、泣き出すのを我慢しながらなんとか家に辿り着き、玄関を閉めた途端、そのままそこに崩れ落ち涙を解放した。生まれて初めて、悔し泣きをした。自分自身の不甲斐なさにも腹が立つし、上手くなれない自分が嫌になった。しばらくの間、そうやって床の上でやり過ごし、やっとのことで部屋に入った。「悔しいけど、これは自己責任だ。そして、この気持ちは、向上したいと思うからこそ生まれる気持ちなんだ」と落ち着きを取り戻し、思いをめぐらせた。

1時間後、言われた通りTimのオフィスに行った。開口一番「すみませんでした」とTimに告げた。すると、さっきまでの怒りはどこへやら、穏やかな表情のTimがこう言った。「何に対して謝ってるんだ? 自分の演奏したことに対して絶対に謝るな」と、思いも寄らない言葉が帰ってきたのだ。

「演奏したことに対して責任を持てるのは自分自身だけだ。だから後悔しないように、常にベストを尽くせる状況を作れ。だからこれ以上謝るな」


後にTimと

僕の音楽に対する意識の低さを痛感させられた。UTAのトップ・ドラマーであり、JOのドラマーとしての看板も背負っている。プレッシャーなんかに負けている場合ではない。手首が痛いからとか、初見が苦手だからとか、そんなのは言い訳にすぎなかった。これからは心を入れ替えて、初心を忘れずに新しいことにチャレンジしていかないと、と改めて音楽を志そうと思った。

しかし、心は入れ替えてもなかなか上達しない。まだ昨年のスランプを引きずっているのか、自分の演奏に全く納得がいかない。そうやってUTAでの最初のセメスターが終わり、アメリカでの生活も、ちょうど5年が過ぎた。

※記事中の写真は本人提供

(次回更新は5月25日の予定です)


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■最新情報
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