ダイアリー

ゆっくり、だけど、確実に。 〜福盛進也 音楽半生記〜 (第33回)


2019年に創立50周年を迎えたドイツの名門ECMレーベル。そのECMから昨年デビューを飾った日本人ドラマーの福盛進也。
15歳でドラムを始め、17歳の時に単身で渡米。その後、ブルックヘブン・カレッジ、テキサス大学アーリントン校を経て、バークリー音楽大学を卒業。10年間のアメリカでの活動後、2013年に拠点をミュンヘンに移し欧州各国で研鑽を積み、遂に念願のECMデビューを飾った福盛進也が、これまでの歩みを自ら綴る連載企画。


【第三十三章】―5年先―

UTA (University of Texas at Arlington)に入学し最初のセメスターが終わる。入学早々トップ・ドラマーとして認められ、向上心が上がると同時に、焦りや葛藤で苦しむ時間も多かった。周りがどう判断しようと、自分自身が納得できていないところに、モヤモヤがずっと残っていた。

ジャズ・フェスティバルに出演し賞をもらったり、UTAからは「ニューカマーでありながらも、その才能を十分に発揮し、これからの将来に期待ができる」という理由でJazz Studies Awardとスカラシップを受賞した。アワード・セレモニーでは、名前を呼ばれ舞台に上がり、賞状をもらい皆から拍手をもらった。だが、その後のリセプションには参加せず、誰とも会話せずにそのまま家に帰った。

「こんなもんでいいのか」と自分に問いかける。はっきり言って練習もできてない、身体の不調からレッスンも途中で投げ出す、ビッグバンドも上手くいかない。何がJazz Studies Awardだ、何がスカラシップだ。受け取るほどのことはしていない、辞退したいほどだった。


セメスターを終え一時帰国した僕

そして僕は、あることを理由にUTAのJazz Orchestra (JO)を辞めようと決意した。その理由とは、僕が今まで一度もコンプレックスだと思ったことがない、左耳の聴力だった。ビッグバンドは通常、客席に向かいリズム・セクションが一番右端に位置している。すなわち、ホーン・セクションは全員、ドラマーの左側のポジションにいるのだ。左耳が全く聞こえない僕には、そんな環境で演奏するなんて無理だ、ホーン・セクションの細かいニュアンスが聴き取れない、これは致命的だ。そう思い始めてしまった。というよりも、そう思い込みたかった、と言う方が正しい。今思い返すと、自分の読譜のレベルがまだまだ低く、それに精一杯でホーン・セクションをしっかりと聴き取る余裕すらなかったのだろう。それを左耳のせいにし、しんどいことから逃げ出したかっただけなんだろうと思う。だが、そんなところにまで気が回っていない当時の僕は、ビッグバンドを辞め、更には音楽科も辞めて、基礎を見直ししっかりとレベルを上げてから戻ってこよう、そう決断した。

夏休みに入る直前、UTAのジャズ科創立60周年を記念したCDが制作される、と発表があった。Crystal Clear Soundという名前のレコーディング・スタジオに3日間入り録音をする。Brookhaven時代にも、少しだけスタジオに入ったことはあるが、その時よりももっとプロフェッショナルな環境のスタジオだ。アルバムの中で僕が参加するのは、JOで2曲とコンボで3曲の計5曲。朝9時に入り、夕方5時までみっちりとレコーディング。モニター環境ももちろんしっかりとしているし、ヘッドフォンからクリアに聴こえる全ての音が、僕のやる気を一段と盛り上げる。そんなシチュエーションだから、僕は乗りに乗り、今セメスターの失態から挽回するように良い演奏ができた。ティムを始めとする先生陣や他の生徒からも、とてもよかったと声をかけられ、ようやくバンドも一つになれた瞬間だったと思う。3日間という長丁場だったが、僕の中では今年に入って一番楽しい出来事だった。


Crystal Clear Soundの外観

レコーディングが終わり、僕は少し寂しい気持ちになっていた。せっかくバンドが一つになった。そして、ティムも僕に期待している。なのに、僕はこのバンドから離れようとしている。決意はまだ誰にも伝えていなかったが、心の中でまた葛藤が生まれ始めた。そして、ふと一年前のBrookhavenでのコンサートの映像を観返した。「なんだこの演奏は、下手すぎる」と、最後まで観ることができなかった。「自分はまだ焦っているか…」そう感じた。1年前のこの駄目な演奏、そしてそこから成長した自分。1年という短い間にしっかりと成長しているじゃないか。だいたい音楽をちゃんと始めてまだ3年しか経っていない。演奏の仕事も増えたし、ちゃんと頑張れば評価だってされている。短所だってゆっくりだけど克服している。まだまだジャズの本質も見切っていないし、ここから成長していくところなんじゃないか。ヴィニー・カリウタ、エルヴィン・ジョーンズ達の演奏を聴いて憧れて、いつしか無謀にも彼らと自分自身を比較してしまっていた。もちろん到底敵うわけないし、今比較したところで全くもって無意味だ。

だから僕は決めた。ここから5年。5年経っても芽が出ないようだったら、僕はもう音楽を辞める。ただそれまでは自分を磨き続けようと。

※記事中の写真は本人提供

(次回更新は6月8日の予定です)



第三十二章はこちら
https://bluenote-club.com/diary/326686?wid=67719

第三十一章はこちら
https://bluenote-club.com/diary/326228?wid=67719

第三十章はこちら
https://bluenote-club.com/diary/325601?wid=67719

第二十九章はこちら
https://bluenote-club.com/diary/324900?wid=67719

第二十八章はこちら
https://bluenote-club.com/diary/324140?wid=67719

第二十七章はこちら
https://bluenote-club.com/diary/323316?list_page=2&wid=67719

第二十六章はこちら
https://bluenote-club.com/diary/322416?list_page=2&wid=67719

第二十一章~第二十五章のまとめ読みはこちら
https://bluenote-club.com/diary/323331

第一章~第二十章のまとめ読みはこちら
https://bluenote-club.com/diary/267819


■最新情報
伊藤ゴロー、佐藤浩一との新ユニット
「land & quiet」のデビュー・アルバムがリリース。
『land & quiet』

2019.7.24 ON SALE  UCCJ-2169
https://youtu.be/9cNGNGuyO-8

■Discography
Shinya Fukumori Trio
『フォー・トゥー・アキズ』
NOW ON SALE  UCCE-1171
https://youtu.be/eWc5dSMnMcc

CDアルバムのご購入はこちら
https://store.universal-music.co.jp/product/ucce1171/

iTunes Store
https://itunes.apple.com/jp/album/for-2-akis/1440858594

福盛進也Official Site
https://www.shinyafukumori.com/

Universal Music福盛進也アーティスト・ページ
https://www.universal-music.co.jp/shinya-fukumori-trio/

公式Twitter
https://twitter.com/shinyafukumori

公式Facebook
https://www.facebook.com/shinyafukumoripage/