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ゆっくり、だけど、確実に。 〜福盛進也 音楽半生記〜 (第34回)


2019年に創立50周年を迎えたドイツの名門ECMレーベル。そのECMから昨年デビューを飾った日本人ドラマーの福盛進也。
15歳でドラムを始め、17歳の時に単身で渡米。その後、ブルックヘブン・カレッジ、テキサス大学アーリントン校を経て、バークリー音楽大学を卒業。10年間のアメリカでの活動後、2013年に拠点をミュンヘンに移し欧州各国で研鑽を積み、遂に念願のECMデビューを飾った福盛進也が、これまでの歩みを自ら綴る連載企画。


【第三十四章】―新たな気持ち―

2006年、夏休みに入り少しばかりの一時帰国を終え、再びテキサスに戻る。UTA (University of Texas at Arlington)での秋のセメスターが始まるまで、まだまだ時間はたっぷりあるが、Dunn Brothersで毎週演奏したり、Youngとコンサートを観に行ったり、相変わらず音楽漬けの毎日だった。

それでも僕の心はまだ揺らいでいた。次のセメスターから本当に音楽科を辞めて、一人で打ち込めるのだろうか。どちらにせよ、ビッグバンドから抜けることもTimに報告しに行かなければならない。

そして、意を決して学校へ向かい、3階にあるTimのオフィスまで階段を登る。僕のアパートは学校が経営しているもので、音楽科の建物と教員用の駐車場を挟んですぐ隣にあった。Timもその駐車場を利用し、車は派手な真っ青のピックアップ・トラックで、彼が勤務中かどうかは外に出ればすぐ分かったのだ。その日も、外を確認してから動いたのだが、その短いはずの道程は、いつもより遠く感じた。

オフィスの前に着き、ドアをノックする。「Come in!」と中へ迎え入れられ、まずはTimの大好物の日本酒のお土産を渡した。軽い話を挟みながら、本題に入る。「JO (Jazz Orchestra)のことなんだけど、左耳が聴こえないことですごく悩んでいる。バンドにとっても自分が抜けたほうがいいのではないか」と素直に今の気持ちを打ち明けた。すると、Timからは意外な言葉が返ってきた。「そんなこと気にするなよ、俺らはお前が必要なんだ」と。それに続けて「バンドが聴こえないんだったらドラムの位置を変えよう、角度を変えたっていい。とにかく試行錯誤して、Shinyaがやりやすい環境を作ろう」。まさか、ビッグバンドとして完成された立ち位置を変更するアイデアまで出してくれるとは思ってもいなかった。そこまで必要としてくれているのか、と素直に嬉しく思い、心が動き始めた。「Shinya、お前はまだ成長過程で、このビッグバンドで学べることはたくさんある。今抜ける時じゃない。このバンドのレベルアップのためにもお前が必要だし、最善を尽くそうじゃないか」その言葉を聴いて、僕は中では答えが出ていた。逃げちゃダメだ、今こそ自分の欠点に向き合う時だ。Timの温かい言葉のひとつひとつを受け入れ、僕は今までより一層気を引き締める覚悟を持った。JO、そして音楽科を辞めることは一旦取り消し、もう一度頑張ってみようと。


UTAの練習室

その日から、JOの楽譜フォルダを家に持ち帰り、毎日予習をした。構成をアナライズし、時にはオリジナル音源を聴き、ドラマーとしてどういうアプローチがあるのか研究した。Timに「ブッチ・マイルスを聴け」とよく言われ、学校の図書館でCDを借りて、彼の音源を参考にしたりもした。そうすると、面白いもので、初見をする際のリズムを読み取るパターンなどが、手に取る様に分かってくる。どの様なセットアップがバンドをリードしやすいか、テンポやスタイルの変わり目をどう持っていくか、色々と新しく勉強になることばかりだった。そうやって、みるみるうちに初見が得意になってきて、「ここからはもう失敗できない立場にいる」と理解し、懸命に楽譜と向き合った。


ブッチ・マイルス

夏休みの間、高速道路の入り口で、急に車が死んでしまい、買い換えないといけなかったり、音楽だけでなくとても慌ただしい日々だった。そんな夏も終わりを告げ、再び学校でのオーディションが始まる。結果はもちろんJOとトップのコンボに入ったのだが、それだけでなく、今回は生徒の投票で、Jazz Councilという学校の委員会みたいなものに、学年の代表で選ばれてしまった。ジャズ科をどうすればより良いものになるか、どういうイベントをするか、資金は何に使うか、などを定期的に評議するらしい。面倒くさいな~と思いつつ、真剣に取り組もうと他のメンバーと話し合った。が、結局このJazz Councilの存在は、その後誰の話題にも出ず忘れ去られ、結局何もしないまま終わってしまったのだが。


急遽買い換えた車(Nissan Altima)

こうやって、僕のアメリカ生活7年目は始まった。今年からはYoungも入ってきたし、最高のリズム・セクションを築けると確信した。それだけでなく、新しくジャズ・ドラムを担当する講師がやってきたのだ。どんどん面白くなるジャズ科、これからどうなっていくのだろうか。

※記事中の写真は本人提供

(次回更新は6月22日の予定です)


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■最新情報
伊藤ゴロー、佐藤浩一との新ユニット
「land & quiet」のデビュー・アルバムがリリース。
『land & quiet』

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■Discography
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