COLUMN/INTERVIEW

ゆっくり、だけど、確実に。 〜福盛進也 音楽半生記〜 (第36回)


2019年に創立50周年を迎えたドイツの名門ECMレーベル。そのECMから昨年デビューを飾った日本人ドラマーの福盛進也。
15歳でドラムを始め、17歳の時に単身で渡米。その後、ブルックヘブン・カレッジ、テキサス大学アーリントン校を経て、バークリー音楽大学を卒業。10年間のアメリカでの活動後、2013年に拠点をミュンヘンに移し欧州各国で研鑽を積み、遂に念願のECMデビューを飾った福盛進也が、これまでの歩みを自ら綴る連載企画。


【第三十六章】―Up Jumped Spring―

毎日のビッグバンドの演奏にも慣れ、苦手だった初見もほぼ完璧にこなせるようになってきた。UTA (University of Texas at Arlington)でのトップ・ドラマーとしての座を守りつつ、ラテン・アンサンブルでコンガやティンバレスを学んだり、クラシックのマリンバやヴィブラフォンも学び、音楽としての幅も広げていった。

作曲にもどんどんと力を入れていき、准教授で作曲に定評のあるDan Cavanaghに個人レッスンを受けたりもした。内容は色々あったが、毎週一人作曲家を選び、徹底的に分析する課題もあり、それは僕にとってすごく楽しい作業だった。セロニアス・モンク、ハービー・ハンコック、チック・コリア、ウェイン・ショーター、パット・メセニーなどなど、色んな作曲家を研究し論文を書いた。そして、テクニックとして、毎週その作曲家が書いたようなスタイルで、自分自身も曲を書いてみることも課題の一つ。出来上がった曲をDanはいつも評価してくれ、作曲家としての自信も、この時に大きく出来上がったように思う。

もちろん、演奏家としてもしっかりと成長していた。レギュラーのギグも増えたり、アドニス・ローズの代役を何度も任せられたり、ダラスでのジャズ・シーンで少しづつ名を知られるようにもなった。2007年に入り、冬も終わりに近づいてきた頃。UTAの学生らと共に、Popolo’sというレストランで演奏をしていた。その時、同じ敷地内の別会場で演奏していたある男に声をかけられた。大きなウッドベースを担いだ、ガタイのどっしりとした黒人男性。少し離れたところから「名刺をくれ、名刺を!」と大きな声を出し近づいてきた。かなり威圧感のある様子だったが、名刺を一枚差し出すと「電話するから!」と言ってそのまま去っていった。それから1週間ほど経った日の夕方、その男から電話がかかってきた。

「明日ダウンタウンのレストランで演奏の仕事がある。125ドルでドラムをやらないか?」

Barri Pearson、それが彼の名前だった。そしBarriの兄がキーボーディストで、兄弟でThe Pearson Brothersとう名前で活動している。二つ返事で快諾し、次の日Bread Winnersというお店で一緒に演奏をした。Popolo’sで少ししか演奏聴けなかったけど、素晴らしかったし一緒にやってみたかった、とのこと。そこから毎週木曜日は、Bread Winnersで彼らと演奏をし、美味しい食事も味わった。そして一月ほど経った頃、「Dallas Museum of Art (DMA)で演奏することになった、やってくれるか?」と誘われた。DMAでは毎週木曜日の夜にジャズのイベントが行われ、ダラス周辺での著名なミュージシャンが毎度演奏していた。その存在はもちろん前から知っていたし、何度も自分自身足を運んだこともあった。DMAで演奏できることは、ある種のステータスだったし、そんな場に誘われるのはとても嬉しかった。そして3月1日、僕らはDMAで演奏をした。美術館ということもあり、天井がとても高く、当時はバリバリのハード・バップを演奏したりしていたので、思っていた以上にやりにくかった。音が回りすぎて演者側はとても聴きづらい。が、終わってみるととても好評で、演奏には納得できなかったものの、自分の存在を知らせられたのは良かったと感じた。

 
The Pearson Brothersと

その同じ週の日曜日、Youngの紹介でD.J.というピアニストとダラスの有名なジャズクラブ、Sambuca Jazz Cafe(現在は閉店してしまった)でブランチタイムの演奏があった。すると、休憩中に何人ものお客さんに「Shinya?」と声を掛けられた。全然顔を見ても思い出せず、「誰だったかな」と考えていると、「この前DMAで演奏しているのを観たよ、素晴らしかった! またこうやって、君の演奏を観れるのは嬉しいよ」と言ってくれたのだ。こんなダラスでもジャズ・コミュニティが存在し、ファンも確かにいるんだな~と痛感した。それにしても、自分のことを覚えてくれていたなんてとても嬉しい。でもまあ、当時のことを考えると、黒人二人の生粋のジャズ・ミュージシャンに、二十代そこそこの日本人が混ざってドラムを叩いていたら、それは印象に残るだろうな。名前まで覚えていてくれたのはびっくりだったが。D.J.も僕の演奏を気に入ってくれ、徐々にこのダラスのジャズ界隈で認められてきたのかな、と感じるようになった。


Dallas Museum of Artでの演奏時

その後、事あるごとにBarriから連絡があり、一緒に演奏を続けた。面白い仕事も色々あったし、ある時は、ダラス市長のセレモニーで演奏をしたりも。たくさんの時間を共有した。

Barriは現在どうしてるだろう。よく一緒に演奏した「Up Jumped Spring」を思い出す。きっと、今も変わらずにダラスのシーンであちこち駆け回りながら演奏しているだろうな。あの時のように、でっかいウッドベースを肩に掛けて。


※記事中の写真は本人提供

(次回更新は7月20日の予定です)



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