COLUMN/INTERVIEW

ブルーノート移籍第一弾を発表したジェラルド・クレイトン 「最も優れたピアニスト」とドン・ウォズが評する彼の魅力とは


©Lauren Desberg


2018年にジョン・スコフィールド“コンボ66”、2019年にチャールス・ロイド“キンドレッド・スピリッツ”のメンバーとして日本最大級のジャズフェス「東京JAZZ」に登場。自身のユニットでも数多くの来日回数を誇るピアノの俊英ジェラルド・クレイトンが遂にブルーノート・レコーズと契約、第一弾『ハプニング』を完成させた。ニューヨークのグリニッチ・ヴィレッジにある“ジャズの聖地”「ヴィレッジ・ヴァンガード」(1934年創業)で行なわれたライヴ・パフォーマンスが詰め込まれている(日本盤ボーナス・トラックの「アルマ」は別の場所での無観客収録だろうか)。ジェラルドのブルーノート入りに関して、現社長ドン・ウォズはこのようなコメントを寄せた。「ジェラルドは今日活動する中で最も優れた、個性的で革新的なピアニストの一人だ。彼はロイ・ハーグローヴからチャールス・ロイドまで、さまざまなジャズの伝説とのレコーディングを経験してきた。想像力と好奇心にあふれたソリストであると同時に、ハーモニーの達人でもあるジェラルドをブルーノート・ファミリーに迎えることができて、私たちはわくわくしてるよ」。

なぜライヴ盤なのか、との問いに関するジェラルドの答えはこうだ。「ライヴは、私たちが一年中何をしているかを最も正直に証明するものであり、魔法だと思っている。そして私は、すべてのレコーディングはライヴ体験をフィルターにかけたようなものだとも思っている。今回、一部だけとはいえ、その魔法を世に出すことができたのは本当に嬉しいね」。『ハプニング』という言葉をタイトルに選んだことに関しては、「この音楽が生きていること、一年を通してたくさんの出来事が起きていること、そしてヴィレッジ・ヴァンガードでの演奏がそれらの出来事の中でも特に特別なものであることを強調するために、私はこれをハプニングと名付けたんだ」と述べている。

共演メンバーはローガン・リチャードソン(アルト・サックス)、ウォルター・スミス3世(テナー・サックス)、ジョー・サンダース(ベース)、マーカス・ギルモア(ドラムス)という盟友たち。5人は2018年7月から8月にかけて「ヴィレッジ・ヴァンガード」で公演、翌19年4月23日から28日にかけて再登場して本作を収録した。“乗った”パフォーマンスをディスクの制限時間内に収まるようセレクトするのはなかなか大変な作業だったに違いない。サンダースとギルモアが生み出すリズムはとてつもなく横幅の広い生物が高速でうねるがごとく図太く俊敏で、リチャードソンとスミスのプレイは、まるでふたりでひとつの音域の広い(しかも複数音の出る)楽器を奏でているかのようにぴったり息が合っている。「ペイシェンス・ペイシェンツ」、「ア・ライト」、「エンヴィジョニングス」は前作『トリビュータリー・テイルズ』に収められていたナンバーだが、聴き比べると“なるほど、ライヴで実演することによってこうして進化・発展していくのか”との思いを強くするのは筆者だけではないはず。とくに「エンヴィジョニングス」におけるサックス・ソロの燃焼ぶりには脱帽だ。



©Lauren Desberg


また当アルバムは、「ヴァンガード」の二代目オーナーを務めたロレイン・ゴードン(2018年6月死去)への捧げものにもなっている。自伝『ジャズ・レディ・イン・ニューヨーク』(DU BOOKS)をお読みになった方なら、彼女がいかにジャズを深く愛し、ニューヨークのジャズ界から慕われる人物だったかご承知だろう。ジェラルドは「ロレインはNYの鋭いエナジーを具現化したような人だった。彼女はいつも後ろからステージを見ていて、もし我々がスタンダード・ナンバーなしに終えようとすると(スタンダードを演奏しないのかと)声をあげるんだ」と振り返っている。ジェラルドがこのディスクのためにピックアップした古典は、“モダン・ジャズ・ピアノの父”バド・パウエル(ギルモアの祖父、ロイ・ヘインズは彼のバンドにいたことがある)が愛娘に寄せた「シリア」、デューク・エリントンがジョン・コルトレーンとの共演のために書いた「テイク・ザ・コルトレーン」、さらにアート・テイタムからエイミー・ワインハウスまで各時代のアーティストに親しまれてきたスタンダード・ナンバー「ボディ・アンド・ソウル」の3曲。ちなみにこのロレイン・ゴードン、「ヴァンガード」創設者のマックス・ゴードンと結婚する前はブルーノート・レコーズ創設者アルフレッド・ライオンの伴侶であり、さらにマックスとライオンは以前からの友人だった。だからなのか、ヴァンガードでライヴ・レコーディングを行なったレーベルはブルーノートが初めてだった(ソニー・ロリンズの1957年録音『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』)。そのブルーノートからこの2020年、また新たな、今後語り継がれることに違いない“ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード”作品がジェラルド・クレイトンの手によって送り出されたのは実に感慨深い。こうしてジャズ史の点と点はつながり、大きな流れとなって現代に注ぎ込まれてゆくのだ。新型コロナウィルスが相変わらず予断を許さない状況の中、「ヴァンガード」は6月から週2回の有料ストリーミングライヴに取り組んでいる。ジェラルドたちがそこに登場するのも近いはずだ。


■リリース詳細 
ジェラルド・クレイトン『ハプニング ~ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』

発売日:2020年7月10日(金)
¥2,860 (税込) UCCQ-1126
https://jazz.lnk.to/Ks9ziPR

【収録曲】
01. ペイシェンス・ペイシェンツ / Patience Patients
02. ア・ライト / A Light
03. シリア / Celia
04. リジューヴァネイション・アジェンダ / Rejuvenation Agenda
05. エンヴィジョニングス / Envisionings
06. ボディ・アンド・ソウル/ Body and Soul
07. テイク・ザ・コルトレーン / Take the Coltrane
08. アルマ / Alma(日本盤ボーナス・トラック)

<パーソネル>
ジェラルド・クレイトン(p), ローガン・リチャードソン(as), ウォルター・スミス3世(ts), ジョー・サンダース(b), マーカス・ギルモア(ds)

■ジェラルド・クレイトン リンク
ユニバーサル ミュージック: https://www.universal-music.co.jp/gerald-clayton/
本国公式サイ: http://geraldclayton.com/
Twitter: https://twitter.com/geraldclayton
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Instagram: https://www.instagram.com/geraldclayton/

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