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ゆっくり、だけど、確実に。 〜福盛進也 音楽半生記〜 (第38回)


2019年に創立50周年を迎えたドイツの名門ECMレーベル。そのECMから昨年デビューを飾った日本人ドラマーの福盛進也。
15歳でドラムを始め、17歳の時に単身で渡米。その後、ブルックヘブン・カレッジ、テキサス大学アーリントン校を経て、バークリー音楽大学を卒業。10年間のアメリカでの活動後、2013年に拠点をミュンヘンに移し欧州各国で研鑽を積み、遂に念願のECMデビューを飾った福盛進也が、これまでの歩みを自ら綴る連載企画。


【第三十八章】―いざ、ボストンへ―

限界と視点、この二つの言葉が頭の中をよぎり始める。このままの環境下で、どこまで高みを目指せるのかが疑問になってきたのだ。今いる場所で、できることはほぼやったのではないか。

まず、限界を感じてきたこと。それはUTA(University of Texas at Arlington)での限界ということ。ジャズ科の全体のレベルは上がってきたものの、個人個人の生徒のレベルは、僕が思い描いているところより遥かに低く感じた。唯一一緒に演奏していて満足できるのは、ベースのYoungだけだった。


ベースのYoung

そして視点。これはもっと個人的なことで、ドラム科の教え方についてだ。前のセメスターでは、そこに納得が行かず、途中で個人レッスンを受けるのを辞めてしまった。この教え方で言う通りに学んでいれば、僕はいつか潰れてしまうと思ったからだ。先生と僕の間で、根本的な「目標」という概念にズレがあったのだと思う。それは、とても重要なことであった。

今、自分自身のいる地点があるとする。そして、そこから近い将来のゴール地点を置いてみる。僕には、どうしても、そのゴール地点に早く辿り着くことが、一番重要だとは思えなかった。どういう風に辿り着くか、早さよりも質のほうがよっぽど重要だ。例えば、あるフレーズを習得するというゴールがでてくる。そのフレーズを身に付けるまでに、それほど時間はかからないだろう。ただ習得するだけなら、誰でもできるだろうし、早く習得することに魅力は感じなかった。僕は当時、身体の動かし方を相当研究していた。その動かし方を応用した上でフレーズを演奏しないと、臨機応変に対応できなくなってしまう、そう考えていた。フレーズよりも、どんな音楽的な動きにも対応できる、基礎的な身のこなし方を覚えなければ、ゴールなんて全く意味の無いものと感じた。早さを重視してゴールに辿り着いたとしても、その先には限界が待っており、違う視点で考え、ゴールの先にあるゴールを見据えることで、僕自身が思う成長を遂げられるはずだ。だから、この先、個人レッスンで「早くゴールに達せよ」と後押しされる必要も無いし、僕は僕なりのレベルアップの方法を既に見つけているのだから、UTAにいる間は、誰にも師事する必要がなくなった。

そうやって、色々と思いを巡らしているうちに、できるだけ早くBerkleeに移りたいと思うようになった。入学願書は既に送り、後は実技のオーディションと面接だ。そういうわけで、2008年の1月から入学できるように、早速オーディションの予約も済ませた。といっても、僕がアプライした夏では、既にスカラシップの締め切りが終わっており、ただの入学用のオーディションとなってしまった。だが、それでもいい。僕はとにかくやってみたかった。そして、そのオーディションのために、ボストンへと飛び立った。

ボストンの夏は、テキサスと全く違った。そりゃそうだ、アメリカの最南部のテキサスと、最北部にあるボストンだから、当たり前だ。夏といっても夜は少し涼しく感じ、ジャケットを持っていっていた。街並みも全く違う。質素でだだっ広い田舎風のテキサスとは違い、建物はレンガ造りが多く、どこを見渡しても綺麗で清々しい。驚いたのは、朝食を食べるために入ったマクドナルド。Berkleeのすぐ向かいにあった。何しろ金欠旅行で、1ドルのダブルチーズバーガーにドリンクを手に取り、席に座った。そして、ふと壁に目を向けると、マイルス・デイヴィスを始めとする、偉大なジャズ・ミュージシャンの写真がたくさん飾られていた。さすがだな、こんなにも音楽の意識が高いのか、この街は。その後、面接の時間まで街を歩いたり、Berklee前で学生に混ざってタバコを吸いながら人間観察をしたり。すると、警察官がギターを持ち運んでいるのが見えた。どれだけ音楽が溢れているんだ、この街は!


ボストンの街並み

そして午後2時半、僕はBoylston StreetにあるBerkleeの建物に入り、面接の受付を済ませた。いよいよだ。いよいよ憧れていたBerkleeへの道が開ける。僕は、内心興奮しながら席に着き、面接官から名前を呼ばれるのを静かに待った。


※記事中の写真は本人提供

(次回更新は8月17日の予定です)



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伊藤ゴロー、佐藤浩一との新ユニット
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■Discography
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