COLUMN/INTERVIEW

【連載】ゆっくりだけど、確実に 〜福盛進也 音楽半生記〜 (第39回)


2019年に創立50周年を迎えたドイツの名門ECMレーベル。そのECMから2018年にデビューを飾った日本人ドラマーの福盛進也。
15歳でドラムを始め、17歳の時に単身で渡米。その後、ブルックヘブン・カレッジ、テキサス大学アーリントン校を経て、バークリー音楽大学を卒業。10年間のアメリカでの活動後、2013年に拠点をミュンヘンに移し欧州各国で研鑽を積み、遂に念願のECMデビューを飾った福盛進也が、これまでの歩みを自ら綴る連載企画。


【第三十九章】―オーディション―

アメリカでは、大体のことが時間通りには進まない。それも、早まるよりも遅れるということが圧倒的に多い。だから、この日も僕は相当待つ覚悟を決めていた。面接の開始予定時間は午後3時。30分前に受付を済ませたから、ここから1時間程は待つのかな、なんて思いながら、廊下の椅子に腰を掛けていた。

約束の時間が近づいてきた。5分前ぐらいだっただろうか、不意に僕の名前が呼ばれた。まさかこの国で時間前に事が進むとは! 嬉しさと驚きを同時に抱き、僕は呼ばれた部屋に入っていった。何を聞かれるのかワクワクしながら席に着き、面接は始まった。時間にしておよそ15分。これまでの音楽経歴、ギグやコンサートなどの演奏をどんなところでしたか、一緒に演奏するメンバーは僕のことをどう評価するか、などなど、様々な質問を投げかけられた。正直、自分のことを聞かれ、これまでの音楽歴や想いを話すのがとても楽しかった。もっと長時間話していてもいいのに、とさえも。最後に「なぜBerkleeを選んだのか?」という質問を聞かれ、中学生時代から憧れていた場所であること、また、より高いレベルに自分の身を置きたい、ということを伝え面接は終了した。部屋を出る前に、今まで作った曲の中から厳選した6曲を、楽譜と一緒に聴かせようとノートパソコンを出した。クラシックギターからピアノ五重奏、そしてコンテンポラリー・ジャズなど、幅広い音楽性を聴き取ってもらいたかった。すると、面接官が「評価するのは自分ではなく、Berkleeの教師陣が直々に判断してくれるから、それをまとめてメールで送ってくれ」と。直接聴いてくれるなら尚良い。全てが終了し、笑顔が溢れるのを堪えながら面接会場を後にした。こんなにも自分自身のことを聞かれるのが楽しいと思わなかったし、とても心地良い時間だった。

そして、明日。遂に実技のオーディションだ。適度な緊張感と適度な自信。こういう時はいつも気持ちが良い。これがあるから音楽は辞められない、そんなドラッグ的な作用を受けながら、元マラソン選手の瀬古利彦が昔口にしていた言葉を思い出していた。

「緊張しなくなったら、マラソンを辞める」

その夜、明日に備えて早く寝ようと思うもなかなか眠れず。当時は相当な夜型人間だったのもあるが、実技を控えた興奮と緊張もあったのだろう。一人、狭いホテルの部屋の中でごそごそしていると、ある重大なことに気付いた。夜中3時を既に回っていた頃。なんと、オーディションの為に用意していた、伴奏用のCDが見当たらないのだ。アーリントンのアパートに忘れてきたか…だが、まだ時間はある。なんとかなるだろう、と不思議と焦りは無かった。必要なトラックは2つ、なんとか手に入れなければ。そして夜中にも関わらず、アーリントンにいるClintに連絡がつき、同じ教材を使っていたので1つは入手できた。がしかし、そこから右チャンネルに入っているドラム・トラックだけを編集して消さなければいけない。僕が持ってきたノートパソコンのOSでは、編集ソフトが動かない。どうしたものかと考えながら、あることを思いついた。日本にいる父にメールで送り、編集したものを送り返してもらおう。幸い父にも繋がり、そのトラックは無事用意できた。残るはもう1つ。それは個人的に用意していたもので、Clintも使っていないものなので、ほぼ諦めかけていた。もしかしたらKeithが持っているかもしれないと思い、ダメ元でその旨をメールで送っておいた。そして就寝し、翌朝Keithに電話をしてみた。「そのトラックなら俺も持っている」とまさかの返事があり、急遽メールで送ってもらい、オーディション2時間前にギリギリ準備が整った。

  
Berklee College of Music

午後2時過ぎ、再びBerkleeの会場へ。昨夜の寝不足から欠伸が止まらず、連発しながら名前を呼ばれるのを待った。昨日と同じく、3時少し前に呼び出され、ウォームアップの部屋へと案内された。そこで楽譜を1枚もらい、「15分やるから、初見でその楽譜を学べ」とのことだった。UTA(University of Texas at Arlington)で初見は嫌というほどやってきた。そんな僕には「馬鹿にしているのか」と思うほど簡単な楽譜だったので、一切目を通さずただウォームアップを行った。

その15分が終わり、いよいよ実技オーディション開始だ。


※記事中の写真は本人提供


(次回更新は8月31日の予定です)



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