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【連載】ゆっくりだけど、確実に 〜福盛進也 音楽半生記〜 (第40回)


2019年に創立50周年を迎えたドイツの名門ECMレーベル。そのECMから2018年にデビューを飾った日本人ドラマーの福盛進也。
15歳でドラムを始め、17歳の時に単身で渡米。その後、ブルックヘブン・カレッジ、テキサス大学アーリントン校を経て、バークリー音楽大学を卒業。10年間のアメリカでの活動後、2013年に拠点をミュンヘンに移し欧州各国で研鑽を積み、遂に念願のECMデビューを飾った福盛進也が、これまでの歩みを自ら綴る連載企画。


【第四十章】―光―

ウォームアップを済ませ、僕は名前を呼ばれオーディション部屋へと入っていった。アーリントンからわざわざ持ってきた、自前のスネアをセッティングし、気持ちを落ち着けた。用意したCDを渡し、トラックを流してもらった。ECMっぽいフィールの曲をドラムソロで被せていく、という感じ。特にこれといって何か起きるわけでもなく、順調に進み、曲は終わった。時間の都合で、用意した曲は1曲だけしか演奏できなかったが、十分実力は伝わったと思う。

そして、その後はよくあるオーディションの流れ。スイングでソロをやったり、ピアノに合わせて色んなスタイルを演奏したり。その間に、審査員の一人がティンバレスで短いフレーズでソロをやってきたので、なぜか無意識なのか対抗意識なのか、つられてソロをやってしまった。「勝ち取る」という意識の現れだったのかもしれない。他には、審査員が演奏したフレーズをそのまま聞き取って演奏したり、絶対音感のテストがあったり。全部で約15分ぐらいだっただろうか、これ以上でもなくこれ以下でもない、自分自身の今のそのままの力を出せたと思う。合格はとりあえず間違い無いだろう、そう確信した。

そうやって、無事にオーディションを全て終え、僕はテキサスへとまた飛び戻った。これからまた、UTA(University of Texas at Arlington)での日常が始まる。後1セメスターだけここに残ってボストンに行こうとは思うが、この場所での責任もある。とりあえずTimとゆっくり話してから決めても遅くはない。

セメスターが始まると、授業にビッグバンドにギグに、忙しい日々がしばらく続いた。そんな風に過ごしていると、忘れた頃にBerkleeからメールが届いた。結論から言うと、もちろん合格だった。嬉しかったのは嬉しかったが、当然とも思えてしまった。それに、スカラシップがこの時期だともらえないのだから、合格だけなら勝ち取って当たり前だった。それも踏まえてTimとの話し合いの場を作ってもらった。Timはいつも、何かあればこうやって生徒に真剣に向き合い、お互いが納得する答えを探そうとしてくれる。彼がどうして教授としても仰がれるのかがよく分かった。「どれだけUTAがShinyaを必要としているか」、「この学年の最後までやり通して、それから心機一転でBerkleeに行くのもいいのではないか?」、「この1年で最後にやり残したことをやってしまってもいいだろう」、「これから時間がある限り、Berklee以外の可能性を探すこともできる」。そういった内容をTimと話し合いながら確認できた。正直、僕自身が考えてもいないこともたくさんあったし、何よりTimが僕のこれからのことを思って言ってくれた言葉が胸に突き刺さった。そして、よく考えた結果、後1年だけ、このUTAで大好きなみんなと一緒に音楽をしよう、そう決意した。


当時の筆者

そこからは流れが早かった。引き続き、ハードなスケジュールをこなしながら毎日を生き、あっという間に2007年は終わった。そして2008年に入り、テキサス最後のセメスターになった。ボストンでオーディションした際は、スカラシップの期限が打ち切られていたため、もう一度受けてやろう、そう思い再び申し込んだ。「こんな才能のある俺が、スカラシップ無しで行くにはもったいない」そう意気込んで当日を迎えた。2008年3月4日、雪が降り積もる中、暖かい日差しがブラインドから入りこみ、僕は目が覚めた。その光が、運命的なものというか、なにか神的なものが僕にスポットライトを当てているような感じがした。そして準備をしオーディション会場へと。名前を呼ばれ部屋に入りセッティング。今回は地元なので、スネアに加え自慢のDW9002と呼ばれるダブル・ペダルも持ってきた。バリバリにやってやろう! オーディション内容は前回と全く同じ、持ってきたCDに合わせて、という流れだったが、CDがなぜか再生されず、急遽審査員の先生と即興で演奏。これがとても楽しかった。そして他のテストも難なく終わらせ、部屋を出た。と思ったら、ダブル・ペダルのケースを部屋に忘れてしまった。取りに行ったら、さっきの先生が「あんたはほんとに!」と言いながらケースを渡してくれた。演奏後のコメントも非常に良いものだったし、よっぽど印象に残ったのかもしれない。なぜなら、その1ヶ月後のメールでの結果がすごかったからだ。

メールを開ける瞬間、胸がドキドキと高まり、恐る恐る開けた。するとその瞬間「$14,000」の文字が目に入った。息が止まりそうになり、すぐに立ち上がり壁に拳を叩きつけ喜んだ。この年齢でBerkleeのフルスカラシップは流石に無理だろうから、その次に相当する金額が欲しい、そう思っていた。すると実際にそうなったのだ(当時の金額で)。「やっと自分の才能がちゃんと評価された」それがとてもとても嬉しかった。4年少しの勉強だけで、ここまで評価されたのだ。これで色々と吹っ切れた、秋からBerkleeに行く!! 実際、UTAからも「今のスカラシップを3倍にするから残ってくれると嬉しい」とも頼まれたが、もうボストンに行くしかない。

今思えば、やはりあの朝の日差しは特別なものだったのかもしれない。その光を今も感じながら、僕は生き続けているのかもしれない。


※記事中の写真は本人提供


(次回更新は9月11日の予定です)



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■最新情報
伊藤ゴロー、佐藤浩一との新ユニット
「land & quiet」のデビュー・アルバムがリリース。
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■Discography
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