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音楽の火を消さないために、ミュージシャンがすべきことー『ブルーノート・リイマジンド』から垣間見るUKジャズ・シーンの現在と未来 (前編)


(通訳:丸山京子)
10月2日に日本先行でリリースされるコンピレーション・アルバム『ブルーノート・リイマジンド』。新世代の歌姫ジョルジャ・スミスの参加や、日本のみならず海外からも称賛を集めるKan Sanoによる日本盤ボーナス・トラックが話題の本作では、クリエイティヴィティをいかんなく発揮し独自の道を歩む現在のUKジャズ・シーンが色濃く反映されている。ジャズのみならずカリブ音楽、ヒップホップ、ブロークン・ビーツなど様々なジャンルが交じり合うユニークな音楽を繰り広げるUKジャズ・ミュージシャンに、ブルーノートというジャズのフラッグシップ・レーベルが与えた影響とはどのようなものなのか。また、コンサートや対面でのレコーディングが難しくなっている昨今の状況において、音楽の火を消さないためにミュージシャンたちは何を考えているのか。
今回は、2回にわたりお送りする「音楽の火を消さないために、ミュージシャンがすべきことー『ブルーノート・リイマジンド』から垣間見るUKジャズ・シーンの現在と未来」という記事の前編として、現在のシーンを代表するサックス奏者、シャバカ・ハッチングスにインタビューを敢行。自身が影響を受けたブルーノートの音楽や、UKジャズ・シーンの現在についてなどを穏やかに語ってくれた。

Q:まず今回の『ブルーノート・リイマジンド』に参加することになった経緯を教えて下さい。
S:マネージャー経由で「こういうコンピレーションの企画があるのだけど興味ある?」と打診されたんだ。誰から来たのかはよくわからない。それでやることにしたんだよ。

Q:それでボビー・ハッチャーソンの「プリンツ・タイ」を選ばれた理由は?
S:学生時代、ボビー・ハッチャーソンのレコードを初めて聴いた時、「なんだこれは?」と驚いたんだ。それまで聴きなじんでいたブルーノートのレコードと全然違うという印象だった。ものすごく力強いバンドサウンドという点で醸し出される雰囲気は一緒なんだけど、聞こえてくるサウンドが、その当時僕が抱いていたブルーノート・カタログのイメージとはどこか違ってて…。50年代〜60年代のアート・ブレイキー、ホレス・シルヴァー、ウェイン・ショーターなど、ブルーノートの定番のイメージとは明らかに違う。だからその違い、つまり若かった頃の僕が受けた衝撃というか「新鮮な驚き」を表現したいなと思ったんだ。そうすることでブルーノートの概念を広げてみたいって思ったんだ。

 

ボビー・ハッチャーソン / プリンツ・タイ

Q:確かに、原曲もミステリアスでアブストラクトですが、そのイメージを残しつつ、よりアグレッシブなアプローチですね。
S: ああ。いくら”Re-imagined”といっても、アメリカ人ミュージシャンの、スタンダードの、ブルーノートの名作カタログをそのまま再現するだけだったら、僕がやる意味があまりない。いわゆるコンピレーションでやり尽くされた、誰もが選ぶようなスタンダード曲をやったところで、果たして僕に貢献できることがあるだろうか? というのが僕の基本的な主張なんだよ。音楽全般に関してね。でもこの曲はブルーノートのカタログを代表する1枚でありながら、アルバムはブルーノートの中でも過小評価され、その本当の良さが見過ごされがちな1枚だ。君もいうようにミステリアスな雰囲気がある。いったん世界の中に入っていければ、あのミステリアスな力強さ(intensity)をどうクリエイトしているのかが理解出来るようになって行くんだ。

Q:今回の『ブルーノート・リイマジンド』は、様々な音楽性が交じり合い全く新しい音楽を創り出している現在のUKジャズシーンを包括的に体感出来る画期的なアルバムだという声も聞かれます。ご自身でもそう思われますか?
S:実はアルバムの自分以外の他の曲は聴いていないので、そこらへんはなんとも言えないんだよ。

Q:そうでしたか。ではちょっと質問を変えて…ウェイン・ショーターとジョー・ヘンダーソンについて。アルバムでは彼らの楽曲が多く取り上げられています。「フットプリンツ」「エトセトラ」「スピーク・ノー・イーヴル」「ア・シェイド・オブ・ジェイド」など。現在のロンドンの音楽シーンに、彼らの音楽はどのような影響を与えているのでしょうか。
S:当然、音楽を勉強している時には必ず聴く二人だ。メロディの可能性という部分で共感できる音楽なのだと思う。今、曲名が挙がった曲はどれもまさにそのメロディにパワーがある曲ばかりだ。そしてそれがまさに、さっき君が言っていた、ロンドンの若いジャズ・シーンを作り上げているミュージシャンの大きな特徴でもあるんだ。メロディがとても重視されているっていう点さ。大事なのはチューン。コレクティヴな(集団の)アプローチをインスパイアするチューンに、みんなメロディの観点から取り掛かっている。

Q:あなた自身、サックス奏者として二人に影響を受けたのでしょうか?
S:もちろんさ。サックスを吹いていて彼らの影響を避けるのはとても難しい
よ。

 

 

ウェイン・ショーター / フットプリンツ

Q:アルバムの中で、他のアーティストが演奏しているお気に入りのテイクがあれば、と思ったんですがまだ聞かれていないのですよね? 名前/曲名を言いますので、アーティストについて、その曲について何かコメントがあればお願いできますか?
S: いいよ。エズラ・コレクティヴは若い今のロンドンのシーンをまさに代表するグループだ。「フットプリンツ」を選んだというのは、彼らにとってとてもパーソナルな楽曲だからだと思う。ジョルジャ・スミスがやってる「ローズ・ルージュ」はオリジナルを聴いたことがなかったな。ポビー・アジュダは素晴らしいシンガーなので、彼女はきっといいヴァージョンにしてるはずだね。「イリュージョン」はアンドリュー・ヒルの曲だっけ?

 

 

スキニー・ペレンベ / イリュージョン (シリー・アパリション)

Q:そうです。
S:それを選ぶなんてとてもクリエイティヴなチョイスだね。メロディの観点からも。ブルーノートのトラディショナルな演奏というコンテクストから取り出しても、十分に耐えうるメロディであることを証明する選択だ。ヌバイアは…間違いなく良いプレイをしてるはずだね(笑)。おそらく全員が自分にとってパーソナルな曲を選んでいるのだと思う。それでいて、ブルーノートのカタログ全般から幅広く選ばれているなという印象だ。一つの時代に偏りすぎず、いくつものディケイドに渡っているのも良いことだ。ブルーノートというレーベルのオープンマインドさがここでも証明されている。彼らが体現しているのはジャズの歴史の長く大きな部分なのであって、小さなジャンルにこだわるレーベルではないことの証明だよ。

Q:そのブルーノートの80年という長い歴史の中で、あなたがお気に入りのアルバムを理由とともに何枚かご紹介いただけますでしょうか?
S: ウェイン・ショーターの『エトセトラ』かな。アルバム全体を通じて流れるミステリアスなヴァイブが好きなんだ。一見してすごくわかりやすいアルバムというのではなくて、たくさんの層が重なった奥深いアルバムだと思う。抑制された力強さがあるところがとても好きだ。つまり、情報がたくさん詰まっていて力強さも感じるのだけど、もっとあるのではないか、まだ奥には何かあるのではないか、すべてはまだ見ていない、聴いていない…そう感じさせてくれるアルバムが好きなんだ。あとはジョー・ヘンダーソンの『モード・フォー・ジョー』…いや、『イン・ン・アウト』にしよう。このアルバムでの構築されていくプレイがとても好きだ。まるで即興で吹きながら同時に作曲しているようなプレイだよね。

 

 

ジョー・ヘンダーソン / モード・フォー・ジョー

Q:2020年は色々な意味で様々な環境が激変してしまった年となりました。現在のUKジャズ・シーンは活気があり音楽的にも未来を切り拓いている素晴らしい状態だと思いますが、コンサートや対面でのレコーディングが難しい状況ですよね。そんな中、影響はどの程度ですか?これからのシーンはどのように変化していくとお考えでしょうか。
S: いや、でもレコーディングは工夫次第で出来るよ。昨日も、とあるレコーディングをしたところだ。ギグを中心に生計を立てていたミュージシャンにとっては、影響は多少大きいかもしれないね。その部分でのダメージはまだ長く続くと思われる。でもミュージシャンというのはクリエイティヴであるものだし、人生すべての面においてクリエイティヴィティティを広げて、どうやって前に進んでいくか、音楽の火を消さないかを考え続けるしかない。むしろ業界主導ではなく、ミュージシャン主導の新しいことが生まれる可能性もあるんじゃないかな。実際、すでに起こっていると思うよ。ミュージシャンが個人レベルで集まり、アドリブ的なセッションをしたり、レコーディングをしたり、スキルをシェアし合ったりしている。状況は深刻だとしても、ミュージシャンはクリエイティヴであり続けるものだから、自分たちの声を届ける方法を編み出し続けると思うよ。

Q:どうもありがとうございました。


【リリース情報】

『ブルーノート・リイマジンド』
2020年10月2日発売 UCCM-1258/9 ¥3,300(tax in)
解説:柳樂光隆 (Jazz The New Chapter)
日本公式HP:https://www.universal-music.co.jp/blue-note-reimagined
Instagram:https://www.instagram.com/bluenotereimagined/

収録曲:
Disc 1
01. ローズ・ルージュ / ジョルジャ・スミス
02. フットプリンツ / エズラ・コレクティヴ
03. ウォーターメロン・マン (アンダー・ザ・サン) / ポピー・アジュダ
04. ウィンド・パレード / ジョーダン・ラカイ
05. イリュージョン(シリー・アパリション) / スキニー・ペレンベ
06. ギャラクシー / アルファ・ミスト
07. サーチ・フォー・ピース / イシュマエル・アンサンブル
08. ア・シェイド・オブ・ジェイド / ヌバイア・ガルシア

Disc 2
01. エトセトラ / スチーム・ダウン (ft. アフロナウト・ズー)
02. モンタラ / ブルー・ラブ・ビーツ
03. アイル・ネヴァー・ストップ・ラヴィング・ユー / ヤスミン・レイシー
04. アルマゲドン / フィア
05. 処女航海 / ミスター・ジュークス
06. プリンツ・タイ / シャバカ・ハッチングス
07. カリビアン・ファイア・ダンス / メルト・ユアセルフ・ダウン
08. スピーク・ノー・イーヴル (ナイト・ドリーマー) / エマ=ジーン・サックレイ
09. シンク・トゥワイス / Kan Sano (日本盤限定ボーナス・トラック)

【シャバカ・ハッチングス リンク情報】
公式HP: http://www.shabakahutchings.com/
Twitter: https://twitter.com/shabakah
Facebook: https://www.facebook.com/shabakahutchingsmusic/
Instagram: https://www.instagram.com/shabakahutchings/