COLUMN/INTERVIEW

ブルーノート移籍第一弾アルバムを発表したロン・マイルス 数多くのミュージシャンから愛される理由とは

(文:佐藤英輔)


Elliot Ross


 ミュージシャンズ・ミュージシャン。同業者受けする音楽家はそう呼ばれるが、コルネット奏者のロン・マイルスはまさしくそういう位置にいる人物だ。
 実は、マイルスは育った地でもあるコロラド州デンヴァーに在住。彼はデンヴァーのメトロポリタン州立大学で教鞭を取っており、同地ジャズ界の重要人物でもある。デンヴァーという中西部都市に居住しているにも関わらず、ジョシュア・レッドマンから2018年作『スティル・ドリーミング』でフロントの二管の相手役として指名を受けたのをはじめ、彼の業界内評価は相当に高い。

 そんなロン・マイルスは1963年に生まれ、小学校高学年にトランペットを吹き出した。父親は趣味の良い音楽愛好家であったそうで、彼はそれに感謝している。最終的にマンハッタン音楽院に学んだマイルスは、1986年以降リーダー作を順次リリースするようになった。現在までに発表したアルバムは、10作強。それらに共通しているのは、ジャズをアートとして捉え、リアル・ジャズ道を自分は突き進むのだという心意気と、それに見合う創造性に満ちていることだ。
 さらに、彼のプロダクツの多くに共通しているのは、確かな現代感覚と繋がったギタリスト使いのうまさである。そのギター好きについて、本人は「ギタリストならではのハーモニーのつけ方が好き」なのと「ブルースを好んでいる」ことから来ていると説明。そんなマイルスは現在、アーリー・ジャズ期にトランペット以上に用いられていたコルネットを吹いているが、それは柔和で表情豊かな音が出せるとともに、コルネットはギターとの相性がいいと感じているからだ。

 そうしたなか、特にロン・マイルスと近い関係にいるのが、今もっとも現代的なジャズ・ギター奏者と言えそうなビル・フリゼールである。フリゼールは20年以上前からマイルス作に入ってきているし、逆にマイルスはフリゼール作に何作も参加している。とくに、マイルスの『Heaven』(Sterling Circle,2002年)はフリゼールとのデュオで録られたアルバムだった。そういえば、現在フリゼールはトーマス・モーガンとルディ・ロイストンからなるトリオで活動しているが、ロイストンは1990年代中期にマイルスのバンドに在籍していた。
 マイルスはこれまでグラマヴィジョンやイエローバード/エンヤなど趣味性の強いレーベルからアルバムを出してきたが、その新作『レインボー・サイン』はブルーノートからリリースされる。
 その録音メンバーはコルネットの当人に加え、ピアノのジェイソン・モラン、ギターのビル・フリゼール、ダブル・ベースのトーマス・モーガン、ドラムのブライアン・ブレイドという面々。モランとフリゼールは、前にチャールズ・ロイドに重用されていた。実のところ、その顔ぶれはフリゼールとのデュオ作『Heaven』以降徐々に増えていったもので、この5人となったのは2017年前作『アイ・アム・ア・マン』だ。そして、同作録音における手応えを踏まえ、ロン・マイルスはこのクインテットを“夢のバンド”と称している。


Elliot Ross


 そして、『レインボー・サイン』も自然の成り行きで、この“夢のバンド”たる5人が密に噛み合ってのものとなる。理想のメンバーを見つけ、マイルスはこの顔ぶれで紐解き合うにふさわしい楽曲作りにさらに励むようにもなり、収録曲はどれも自身のオリジナルとなる。ニューヨークで1日リハーサルをし2日間でレコーディングされたそうだが、その噛み合いの様をなんと形容したものか。曲は死を迎えた父親に接しながら書いたものが多いそうだが、深い情に満ちた楽曲群をもとに各奏者が思うままインタープレイし合い、現代的な像をスリリングに創出する様にはおおいにため息。それら各人の演奏は本当にそれぞれの演奏力や音楽力の高さを示しており、たとえば1曲目「ライク・ゾーズ・フー・ドリーム」のフリゼールの繊細にして大胆な演奏に触れると、これはフリゼールのここのところの最名演ではないかとも思ってしまう。
 驚くことに、このレコーディングは発売先が決まっていないなかなされた。だが、それは内容の自由さに結びついているかもしれない。その後、ブルーノート所属アーティストであるフリゼールが同社社長のドン・ウォズに聴かせたところ、ブルーノートからのリリースが決定。それを導いたマイルスの創造性もあっぱれであるし、いいものはいいと即断したドン・ウォズもさすがだ。ぼくは、『レインボー・サイン』が、今年のブルーノート発作品の白眉となると信じている。
 なお、ステージでは綺麗にスーツを来こなす彼は痩身でもあるためか、いかにも学者然としたクールな紳士である。だが、こと楽器を手にしたなら、いっさいの忖度なし。様々な常識や決まりごとから解き放たれて、彼は自らの楽曲とコルネット演奏とともに、参加メンバーたちを自由に泳がせる。そして、そこには、これぞ今のジャズでしか現れ得ない含みや綾のようなものが鮮やかに付帯する。
 冒頭に、ミュージシャンズ・ミュージシャンと書いた。だが、訂正しよう。ロン・マイルスは、現代ジャズ・ミュージシャン中の現代ジャズ・ミュージシャンである。


■リリース詳細
ロン・マイルス『レインボー・サイン』

リリース日:2020年10月9日
品番:UCCQ-1130 (SHM-CD)  
価格:\2,860税込
https://jazz.lnk.to/RonMiles_RainbowSign

■収録曲(ボーナス・トラックの曲順が変更になっています。)
1. ライク・ゾーズ・フー・ドリーム / Like Those Who Dream
2. クイーン・オブ・ザ・サウス / Queen Of The South
3. アヴェレージ / Average
4. レインボー・サイン / Rainbow Sign
5. ザ・ルーモア / The Rumor
6. カストディアン・オブ・ザ・ニュー / Custodian Of The New
7. オールウェイズ / Always (日本盤ボーナス・トラック)
8. ディス・オールド・マン / This Old Man
9. バインダー / Binder
10. ア・カインド・ワード / A Kind Word

■関連リンク
ユニバーサルミュージック: https://www.universal-music.co.jp/ron-miles/
Facebook: https://www.facebook.com/ronmilesmusic/