COLUMN/INTERVIEW

Blue Note Re:imagined リリースに寄せて 社長 (SOIL&”PIMP”SESSIONS)


10月2日に日本先行でリリースされたコンピレーション・アルバム『ブルーノート・リイマジンド』。新世代の歌姫ジョルジャ・スミスの参加や、日本人アーティスト史上初のデッカ・レコードからのリリースを果たしたKan Sanoによる「シンク・トゥワイス」が話題の本作では、クリエイティヴィティをいかんなく発揮し独自の道を歩む現在のUKジャズ・シーンが色濃く反映されている。ジャズのみならずカリブ音楽、ヒップホップ、ブロークン・ビーツなど様々なジャンルが交じり合うユニークな音楽を繰り広げるUKジャズ・ミュージシャンを大々的にフィーチャーした本作。今回は、今や世界からも称賛を集め続けるSOIL&”PIMP”SESSIONSの社長に、このアルバムの魅力、そしてそこから見えるジャズの現状や未来についてたっぷりと語ってもらった。

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数年前に某スポーツブランドからReimaginedというシリーズのスニーカーが発売された。過去の 名作のモデルを再構築して、元となったモデルがすぐに認識できるのにもかかわらず、シューレー スがかかと側にあったり、ソールがえぐられていたりと大胆にリデザインされていて、そのストーリー性とアート性の高さから、思わず買わずにはいられなかったモデルである。 そしてこれが、この言葉との初めての出会いだったかもしれない。

Reimagined。 再び想像する。新たに想像する。考え直す。

実はBlue Noteは若い世代へのアプローチが上手なレーベルでもある。ACID JAZZムーブメント以 降、Blue Noteは使えるコンピレーションをリリースしてきた。HIP HOPの元ネタ系のグルービーなやつをコンパイルしたBlue Break Beats。JAZZ系DJには即戦力のBrazilモノを集めたBlue Brazil。こういったコンピレーションは、お財布事情に限りがある若者達の入門書となり、JAZZ を掘り始める大きなきっかけを作っていた。

そんな中Blue Noteと契約したのが、ジャズヒップホップグループ、US3だ。Blue Note音源を公式にサンプリングする権利を持つアーティストとして、アルバムHand On The Torchは大ヒットを記録することになる。 Blue Noteは時代を読み、クラブ/DJカルチャーを、程よい距離感(これが大事)で利用することで、 JAZZを進化させてきたのだ。 2000年代にはいると本格的にDJによってフロアライクにコンパイルされたBlue Note Tripシリーズや、過去のジャズレジェンド達の名演のリミックスコンピレーションであるBlue Note Revisitedをリリースし、さらにはMadlibのShade of Blueへと文脈が繋がっていくのである。 そのように歴史を辿っていくと、Blue Noteがこの「Blue Note Re:imagined」をリリースするのは、ごく自然な流れと言えよう。

さて、このコンピレーションはJorja Smithによる、St. GermainのRose Rougeのカバーで幕を 開けるわけだが、こここそがこのコンピレーションのハイライトであり、意思表示であり、ビジ ネス的にも「うまいな」と言わざるを得ないポイントなのだ。
St. GermainのRose Rougeは、2000年にBlue Noteからリリースされたいわゆる「打ち込み」が 土台のジャズである。Dave BrubeckのTake Fiveのピアノリフのサンプリングを巧みにチョップし、4/4のイーブンキックと融合し、Future Jazz、Nu Jazzなんていうカテゴリー表記が熱を帯びていたクラブジャズの大ヒットとなった曲だ。そしてこの曲がすごいのは、Future Jazzと呼ばれた曲達が古くなっていく中で、20年たった今でも鮮度を保ってプレイされ続けているクラシックスに成長したことだ。それだけ完成度が高い曲であり「今も現役」な曲なのだ。言い換えれば、今回のような昔の曲を再構築系コンピ企画の中で、なかなかこの選曲は思いつかないし、ここに目をつけたJorja Smithかっこよすぎでしょ、ということ。本人が選曲したかどうかは知らんけどね。

そしてこの曲からスタートすることで、Blue Noteは昔からダンスミュージックとしてのJazzリリースしてますけどー。別にサンプリングソースだけじゃないですけどー。という現代JAZZの盛り上がりに対してのある種のマウンティング(笑)、いや、確固たる事実の提示と、JAZZもっと盛り上げたるわ!というはっきりとした意思表示となっているわけだ。

そんなFuture JazzやNu Jazz、そしてDrum’n’BassやBroken BeatsといったUK発のクラブミュージックを聴いて育った、現代UKジャズの一番いけてる奴らオールスターズが、今作では抜擢されている。
2曲目がEzra Collectiveなのも実はとても重要で、UKジャズ勃興を牽引してきたバンドである。 Jorja Smithをフィーチャーした曲もまだまだ記憶に新しい。このEzra Collectiveを語るときに欠かせないのが、アーティスト開発プロジェクトである「Tomorrow’s Warriors」の存在である。 ベーシストでジャマイカ系移民のGary Crosbyが主宰するNPOで、アフリカンやカリビアンといったマイノリティーのミュージシャンに、無償での音楽教育と音楽を演奏する場所、つまり才能を発揮するチャンスを提供するプロジェクトなのだ。そしてEzra Collectiveはメンバー全員が、 Tomorrow’s Warriors出身なのである。他のメンツでは、8曲目のNubya Garcia、14曲目の Shabaka HutchingsがTomorrow’s Warriors出身だ。

そういえば、Ezra Collectiveの鍵盤奏者であるJoe-Armon Jonesが自身のバンドを率いて、2019年の長野県木曽郡木祖村こだまの森で開催されたフェス、「FFKT」に出演した。この時に楽屋にご挨拶に伺ったのだが、そこには2人のSAXプレイヤーがウォームアップしていた。ひとりはEzra CollectiveのメンバーでもあるJames Mollison。彼がいるのは想定していたのだが、もう一人がまさかのNubya Garciaだったのである。Nubyaからは、自分のラジオ番組にコメントをもらったこともあって、オンラインでのやりとりはあったのだが、実際にお会いするのは初めてで、しかも不意打ちだったこともあり、しどろもどろで挨拶したのを覚えいている。いやー、恥ずかしい。(とっさに喋れるようにもっと英語勉強しないと。)

Nubya Garciaもまた、UKジャズの中心人物の一人であり、彼女自身の名義でのリリースに加え、 ドラマーJake Long率いるスピリチュアルジャズプロジェクトの「Maisha」、そしてフロントが全員Tomorrow’s Warriors出身の女性プレーヤーである「Nérija」のメンバーとしても活動している。まさにUKジャズの女神とも言える存在である。かわいいし。

「Tomorrow’s Warriors」の話が出たからには、「Future Bubblers」についても触れるべきで あろう。Acid Jazzの産みの親であり、BBC Radioのプレゼンターであり、世界を駆け巡るクラ ブDJであり、フェスティバルオーガナイザーであるGilles Petersonと、彼が主宰するレーベル、 Brownswood Recordingsが、Arts Council Englandの協力を得て運営する、新人アーティスト発掘育成プログラムである。Brownswood Recordingsがリリースする同名のコンピレーション はすでにシリーズ13作を数え、世界中のファンがコンピレーションに収録される新しい才能を心待ちにしている。今作の中では5曲目のSkinny Pelembe、11曲目のYazmin LaceyがFuture Bubblers出身である。

Skinny Pelembeは南アフリカ・ヨハネスブルグに生まれ、イギリス・ドンカスターで育ったシン ガーでありMCであり、ギタリストでありビートメーカーでもある、まさにマルチインストルメン タルプレイヤー。ヒップホップに影響を受けたであろう、ざらっとした温かみのあるサウンドが特徴。MVも面白い。Yazmin Laceyの声を初めて聴いた時もかなりハマったなあ。さすがGIlles先生っす。16曲目のEmma-Jean ThackrayもまたGilles先生に見出され、2017年に参加したRBMAで頭角を現し、後にコンピレーションの方のFuture Bubblersに楽曲を提供しているトランペッターであり、ビートメイクも歌もこなすマルチインストルメンタルプレイヤーである。

Steam Downもまた、UKジャズの台風の目といったところだろうか。単なるバンドではなく、ロ ンドン南東に位置するデトフォードのバー「Buster Mantis」で毎週水曜日に開催されているジャムセッションイベントの名前であり、音楽を生み出すコミュニティーである。彼らが2019年の末にリリースした曲、「Free My Skin」は、UKジャズが盛り上がりの中で量産されていく中で、圧倒的なパワーと強いメロディーを持っていて、明らかに頭一つ抜きに出ていた楽曲だった。今作9 曲目に収録のEtceteraもまた圧倒的な強さを感じる、今作のハイライトのひとつと言えよう。

このように、Tomorrow’s Warriors、Future Bubblers、Steam Downといった音楽教育機関、 あるいはコミュニティーが行う無償での音楽教育が、UKジャズの勃興の大きな要因となっていることは明らかである。無償である事以外に、USの音楽大学などとの大きな違いは、スキルアップが目的ではなく、人種の壁や収入格差を超えて、平等に音楽に触れるチャンスをつくることが目的であるところだ。音楽に接し奏でていくなかで、才能は育っていく。頭角を現した才能には、その先のより高度な音楽教育も用意されている。なんと素晴らしいシステムなんだろうか。

さあ、そんな事実を踏まえて、改めてBlue Note Re:imaginedを聞き直してみよう。 ビートが、ヒップホップやUKダブ・レゲエ的なものと、Broken Beatsを感じるアフロビートの2種類しかないことに気が付いた方はいらっしゃるだろうか。まあ少し乱暴な説明ではるが、これがまさに、アフリカンやカリビアンの移民が多い、南ロンドンで勃興したUKジャズの特徴でもあ るのだ。にもかかわらず単調に聞こえてこないのは、まさにそれぞれのバンドの個性の強さの証である。そしてACID JAZZ期から脈々と続く、ダンスフロアでプレイされるJAZZの血統の証でもあるのだ。この血統を2020年の今、そのシーンの勃興の証としてこの作品をコンパイルすることで、81年間 Jazzの歴史を綴ってきた老舗レーベルBlue Noteの大切な役割を果たしたといえるのではないだろうか。

そしてBlue Noteが新たに想像するJAZZの未来が、このビートの向こうに見えてくる。
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社長(SOIL&"PIMP"SESSIONS)プロフィール

SOIL&"PIMP"SESSIONSのアジテーター。ジャズの枠組みを超えたパンキッシュでエネルギーに満ち溢れたパフォーマンスは世界中で高い評価を受け、数多のビッグフェスティバルに出演中。また、社長のもう一つの顔であるDJは、96年より活動を開始。ジャズを軸にしながらジャンルの壁を超えた選曲で、高揚感に包まれたフロアを演出している。
近年では様々なアーティストへの楽曲提供やリミックスを行うなど、作曲者・プロデューサーとしての能力も評価されている。
さらに2019年7月に地元福井にて初開催された「ONE PARK FESTIVAL」の音楽顧問を担当している。

【リリース情報】

『ブルーノート・リイマジンド』
2020年10月2日発売 UCCM-1258/9 ¥3,300(tax in)
解説:柳樂光隆 (Jazz The New Chapter)
日本公式HP:https://www.universal-music.co.jp/blue-note-reimagined
Instagram:https://www.instagram.com/bluenotereimagined/

収録曲:
Disc 1
01. ローズ・ルージュ / ジョルジャ・スミス
02. フットプリンツ / エズラ・コレクティヴ
03. ウォーターメロン・マン (アンダー・ザ・サン) / ポピー・アジュダ
04. ウィンド・パレード / ジョーダン・ラカイ
05. イリュージョン(シリー・アパリション) / スキニー・ペレンベ
06. ギャラクシー / アルファ・ミスト
07. サーチ・フォー・ピース / イシュマエル・アンサンブル
08. ア・シェイド・オブ・ジェイド / ヌバイア・ガルシア

Disc 2
01. エトセトラ / スチーム・ダウン (ft. アフロナウト・ズー)
02. モンタラ / ブルー・ラブ・ビーツ
03. アイル・ネヴァー・ストップ・ラヴィング・ユー / ヤスミン・レイシー
04. アルマゲドン / フィア
05. 処女航海 / ミスター・ジュークス
06. プリンツ・タイ / シャバカ・ハッチングス
07. カリビアン・ファイア・ダンス / メルト・ユアセルフ・ダウン
08. スピーク・ノー・イーヴル (ナイト・ドリーマー) / エマ=ジーン・サックレイ
09. シンク・トゥワイス / Kan Sano (日本盤限定ボーナス・トラック)