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【連載】ゆっくりだけど、確実に 〜福盛進也 音楽半生記〜 (第43回)



2019年に創立50周年を迎えたドイツの名門ECMレーベル。そのECMから2018年にデビューを飾った日本人ドラマーの福盛進也。
15歳でドラムを始め、17歳の時に単身で渡米。その後、ブルックヘブン・カレッジ、テキサス大学アーリントン校を経て、バークリー音楽大学を卒業。10年間のアメリカでの活動後、2013年に拠点をミュンヘンに移し欧州各国で研鑽を積み、遂に念願のECMデビューを飾った福盛進也が、これまでの歩みを自ら綴る連載企画。


【第四十三章】―フライブルク―

フランクフルトの空港へ降り立ち、僕は遂にドイツへと上陸した。ドイツはもちろん、初のヨーロッパである。Berkleeに入学した1年前は、まさか自分がヨーロッパにやってくるなんて夢にも思わなかった。だが、こうしてECMに憧れて、実際にやってきたのだ。

空港近くのホテルで一泊し、翌朝、フライブルクへと向かう列車を駅で待つ。が、一向にやってこない…。ゲートがいつの間にか変わって乗り遅れてしまったのか!とかなり焦ったが、調べた結果、40分の遅延でなんとか僕はフライブルクへ向かうことができた。

列車の中。とても綺麗な風景が窓から見える。住宅街に畑や緑、今まで見たことのない景色が目に映る。音楽より何より、まずそれが第一の目的でもあった。未知の世界で4か月弱過ごし、その影響を音楽に出すだけ。そうやって僕は、その美しい景色を見ながら想いを巡らせた。

「新しいことを始める時は、期待もあるが不安もある。ただ不安を並べるだけでは何も始まらないし、逃げるのは簡単だ。だから、不安よりもさらに上に行く行動力を常に身につけることが大事なんだ」


当時のフライブルク中央駅

フライブルクに到着し、無事にこれから寝泊まりする寮の部屋へとチェックインした。ベッドとテーブル以外何もない、とても簡素な部屋だ。そしてここから、僕のドイツ生活が始まる。Berkleeと提携しているJazz & Rock Schulenという専門学校、そこで1セメスター音楽を学ぶのだ。もちろん、小さな専門学校なのでレベルはBerkleeとは程遠いが、生徒も先生も皆朗らかで、すぐに打ち解けることができた。どんなミュージシャンにだって学ぶべきところはある、と信じ、一生懸命勉学に励んだ。

そんな中、学校以外でも活動したい僕は、フライブルクのジャズクラブに足を向けてみた。Ruefettoというクラブで、毎週木曜日にジャム・セッションをやっていると耳にし、早速参加してみようと思ったのだ。川沿いを歩き、お店に到着。地下へ降りると、やってるやってる、熱いジャム・セッションだ。レベルの高い演奏が繰り広げられ、熱気を帯びた人達をかき分け、とりあえずバーでビールを注文した。どうやら最初はハウスバンドが演奏し、その後にジャム・セッションらしい。少し様子を見て、僕は勇気を振り絞りドラマーに「変わってくれ」と声を掛けた。そこから「Blue Bossa」、「Bernie’s Tune」、「My Romance」とアルコールが入ったせいもあり、かなり気持ちよく3曲叩かせてもらった。すると、ブッキングマネージャーでピアニストのThomasという男が「君は今までで最高のドラマーだ! どうか毎週戻ってきてくれ!」と、英語で話してくれた。その後、参加ミュージシャンや店の人とも仲良くなり、結局閉店時間を過ぎてもみんなでワイワイさわぎながら、最高のひと時を過ごした。そして数日後、Thomasから「再来週のジャム・セッションのハウスバンドで演奏してくれないか」と連絡があった。もちろんそのオファーを受け、2009年10月15日、僕はドイツでデビューした。

それ以降も、何度もオファーがあり、すっかりRuefettoの人間となり、フライブルクのミュージシャンとどんどん仲良くなっていった。その中で、同じドラマーでとても憧れた人物がいた。Jörg Eckel、僕と彼はすぐに打ち解け、ドラム談義に花を咲かせ、たくさんの音楽を共有した。食事もよく共にし、酒好きの二人だから、しょっちゅう朝まで呑んでは二日酔いになっていた。それでも彼は練習部屋に行くので、僕も影響を受け、痛い頭を我慢しながら練習に励んだ。おそらく、僕がこの人生で練習を一番楽しめた時期だと思う。彼は、その後「The Philly Joe Jones Song Book」というドラム譜で有名になるが、当時の彼の採譜に対する惜しまぬ努力を垣間見た僕には、本当に心から嬉しいニュースだった。

そんな毎日もあっという間に過ぎ、フライブルクに別れを告げる日がやってきた。Jörgも含め、仲の良い友達がみんな見送りに来てくれ、「いつか必ず戻ってこよう」と心に誓った。そして僕は静かに涙を流しながら、タクシーの後部座席に座り去っていった。


日曜日のフライブルクの教会前

その12月半ば、本当に寒い季節だったが、僕はボストンへに戻る前に、まずオスロに向かった。ECMの聖地でもあるレインボー・スタジオを一目だけでもいいから見たかったのだ。大雪で、つま先が凍りそうなほど痛く冷たいオスロだったが、僕はその目的を叶え、ノルウェーのミュージシャンのCDを大量に買い、ようやくボストンに戻った。

2010年に入り、Berklee最後のセメスターとなる。ドイツでたくさん吸収した僕は、音楽家として一回り大きくなり、そこからプロとしての仕事がとてつもなく増えていった。


※記事中の写真は本人提供

(次回更新は11月2日の予定です)



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