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若き天才、ジョエル・ロス ブルーノートからの最新リリース『Who Are You?』を紐解く

(文:坂本 信)



今年24歳になるヴィブラフォン・プレイヤーのジョエル・ロスは、昨年(2019年)11月に歴史あるブルーノート・レーベルからソロ・デビュー・アルバム『キングメーカー』を発表したばかりだが、それからほぼ1年を経た10月23日に2枚目となる新作『Who Are You?』を発表した。彼がデビュー作の発表に合わせて、“グッド・ヴァイブス”という洒落の効いた名前のバンドを率い、ブルーノート東京で初の来日公演を行った時のインパクトは、かなりのものだった。グッド・ヴァイブスでの公演に先立つ11月11日、黒田卓也(tp)が率いる“ブルーノート・プレイズ・ブルーノート”と銘打ったセッションにゲスト参加したロスは、敬愛するボビー・ハッチャーソンの「Little B’s Poem」のイントロで、独特な間合いやハーモニー感覚によるソロを披露し、早くもただならぬ個性を発揮していた。それに対して、翌日から2日間にわたって行われたグッド・ヴァイブスによる公演は、個々のメンバーの演奏よりも、バンド全体からひとつの巨大な表現が湧き上がってくるかのようなインタープレイが印象的だった。来日の際の取材でも、「『キングメーカー』を作る時には、それぞれのソロよりもメンバー間のやり取りを重視したんだ。そうすれば、音楽のエネルギーや進行感を維持できるからね」と語っていたが、グッド・ヴァイブスの演奏は、まさにその言葉どおりのものだった。『Who Are You?』は1~7曲目と8~15曲目がそれぞれひとまとまりになった2部構成で、故郷のシカゴに因んだ16曲目の「3-1-2」で締めくくるように作られているが、第1部の最後にドラム・ソロを介したメドレーで演奏される「Vartha」と「Marsheland」などは、メンバー同士の会話によって劇的な盛り上がりを見せる好例と言えるだろう。

『Who Are You?』の録音メンバーは、ロスのヴィブラフォンにジェレミー・コレンのピアノ、イマニュエル・ウィルキンスのアルト・サックス、ジェレミー・ダットンのドラムスの4人は前作と同じで、ベースがベンジャミン・ティベリオからカノア・メンデンホールに替わっている。とはいえ、メンデンホールはハイスクール時代にロスと知り合い、昨年はスケジュールの都合で来日はできなかったが、本来はグッド・ヴァイブスのレギュラー・メンバーと呼べる立場で、バンドが昨年行ったツアーの大半にも参加していたという。彼女のソロ・ベースによる「Calling」には、「Home」の曲調を決定づけるイントロとしての役割を果たす説得力があり、「カノアが加わったことで、ようやく自分の求めるグループのサウンドが手に入ったと思った」というロスの言葉もうなずける。また、前作ではグレッチェン・パーラト(vo)がゲストで参加していたが、今回はハープのブランディ・ヤンガーが「After The Rain」と「King’s Loop」、「Harmonee」の3曲に参加している。もともとクラシックを学んでいたヤンガーは、大学生の頃にジャズに目覚め、ケニー・ギャレット(as)にインプロヴィゼイションの指導を受けた。ロスとは『Universal Beings』(2018年)や『We’re New Again』(2020年)といったマカヤ・マクレイヴン(dr)のプロジェクトでも共演している。ロスがジョン・コルトレーンの「After The Rain」に彼女を迎えたのは、コルトレーンの妻アリスがハーピストだったことに因む意味もあったのだろう。ヴィブラフォンとのユニゾンで美しい音型が繰り返される「King’s Loop」とピアノが抜けた「Harmonee」では、ハープが音楽に幽玄さを加えている。

『キングメーカー』の収録曲はそのほとんどがロスのオリジナルだったが、『Who Are You?』ではオープニングを飾る「Dream」がジェレミー・ダットンの曲だったり、「Gato’s Gift」がマルチ・インスツルメンタリスト兼作曲家の逸材ガブリエル・ガロが10歳になる前に作ったメロディーに基づいたものだったり、「King’s Loop」がシンガー・ソングライターのエミリー・キングのインスタグラムへの投稿を採譜したものだったりと、他のミュージシャンの曲やアイディアも柔軟に取り入れている。もちろん、リーダー作で他人の曲を取り上げるのは何も珍しいことではないが、演奏においてメンバー間のやり取りを重視する姿勢と合わせて考えれば、“無私の思想”とも言うべきロスの音楽性がよりいっそう明らかになっているように思われる。

『Who Are You?』は冒頭の数小節を聴いただけでも、前作『キングメーカー』に比べて一段と深みを増した作品であることが感じられる。前作の発売は2019年だが、実際に録音されたのは2016年のことで、ロスは昨年の日本公演の後に『Who Are You?』を録音するまでの間に、グッド・ヴァイブスでの活動はもちろん、マクレイヴンの『Universal Beings』やジェームス・フランシーズ(p)の『フライト』(2018年)、ウォルター・スミスIII世の『In Common』(2018年)、マーキス・ヒル(tp)の『Modern Flows Vol.2』(2018年)といった数々の注目作にも参加しており、そうした経験の蓄積も反映された情報量の多い、繰り返しての鑑賞に堪える作品となっている。


■リリース詳細
ジョエル・ロス 『Who Are You?』
   
好評発売中(輸入盤のみ)
https://joelross.lnk.to/WhoAreYou

【収録曲】
1. Dream (Jeremy Dutton)
2. Calling (Kanoa Mendenhall)
3. Home (Joel Ross)
4. More? (Joel Ross)
5. After The Rain (John Coltrane)
6. Vartha (Ambrose Akinmusire)
7. Marsheland (Joel Ross)
8. Waiting On A Solemn Reminiscence (Joel Ross)
9. King's Loop (Emily King)
10. The Nurturer (Joel Ross)
11. Gato's Gift (Gabrielle Garo/Joel Ross)
12. When My Head Is Cold (Joel Ross)
13. Harmonee (Joel Ross)
14. Such Is Life (Joel Ross)
15. 3-1-2 (Joel Ross)


■関連リンク
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