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【連載】ゆっくりだけど、確実に 〜福盛進也 音楽半生記〜 (最終章)


2019年に創立50周年を迎えたドイツの名門ECMレーベル。そのECMから2018年にデビューを飾った日本人ドラマーの福盛進也。
15歳でドラムを始め、17歳の時に単身で渡米。その後、ブルックヘブン・カレッジ、テキサス大学アーリントン校を経て、バークリー音楽大学を卒業。10年間のアメリカでの活動後、2013年に拠点をミュンヘンに移し欧州各国で研鑽を積み、遂に念願のECMデビューを飾った福盛進也が、これまでの歩みを自ら綴る連載企画。


【最終章】―旅立ち―

ボストンに戻ると、親友Clintの紹介もあり、演奏の仕事が急激に増えた。週に2回、Devlin’sというレストラン/バーでのレギュラー演奏に加え、テキサス時代の経験を生かし、Beantown Swing Orchestra(BSO)という1930年代のビッグバンドの名曲シリーズを演奏するビッグバンドのメイン・ドラマーとしても雇われることになった。また、そこから派生して、バンド・メンバーから色々とお誘いを受け、多い時は週に9つも仕事をこなしたりした。そうやって、僕はボストンで一番忙しいドラマーとして名前が広がっていった。


Beantown Swing Orchestraの仕事で

同時に、学校内でも教師陣に演奏が認められ、様々な人に推薦されたり、「レーティング」と呼ばれるBerkleeの演奏評価システムでは、学内でトップの成績を誇った。そのことから、「Most Active Drummer Award」と「Professional Music Achievement Award」という二つの賞を受賞した。その受賞コンサートとして、Berklee Performance Centerで自身のオリジナル曲を演奏するという、とても貴重な体験もさせてもらった。

そんな毎日を過ごしながら、順調にBerkleeも卒業して、その後もプロとしてボストンにしばらく残ることにした。車も購入し、演奏がある度にニューイングランド地方をあちこち旅したり、引っ越してBSOの仲の良いメンバーとルームメイトになったり、多忙ながらも楽しい日々が続いていた。相変わらずDevlin’sの仕事も順調だったし、BSOではレコーディングや撮影もしたりしたが、どこかで僕は違和感を覚え始めていた。


Berklee卒業、Clintと

卒業してから一年弱程経った頃だろうか。いつものようにDevlin’sで演奏をしていた。ファースト・セットが終わり、休憩時間。僕らはみんなバー・カウンターに座る。その瞬間、僕以外のみんなの目線が上へ。その先にはテレビがあり、大事なアメリカンフットボールの試合が行われていた。見渡すと、メンバーもお客さんもバーテンダーも皆、その試合を真剣に観ていたのだ。僕もスポーツが好きだから、その気持ちはよく分かる。だがその後の展開は、僕にはどうしても許せなかった。

休憩時間が終わり、演奏を始めようと僕はドラムに向かった。しかし、誰もステージに来ない。どうしたものかと振り返ると、みんなまだ試合を観入っていた。「演奏時間じゃないのか?」とリーダーに声を掛けると、「まだ試合中だし、スタッフも客もみんなこれを観てる。今日の仕事は終わりだ」と信じられない言葉が返ってきた。そこで僕は全てを悟った。こいつらは芸術家として音楽をしているんじゃないんだ、心の無いエンターテイメントを提供しているだけなんだ、と。僕はその一瞬で冷めてしまい、怒りを通り越して呆れてしまい「もうお前らとは演奏したくない」と言い残し、ドラムセットも片付けずに店から出て行った。その後は、友達とルームメイトが機材を家まで運んでくれ、僕はその店に戻ることはなかった。


Devlin’sにて

この出来事がきっかけで、関係がギクシャクしたり仲が悪くなることは無く、結果的にお互いを理解しあえた。ただ、「やはり僕の求めている世界はこれじゃない」と確信し、1か月後にはアメリカを引き上げ日本に戻っていた。そんな感じで、僕の10年にも及ぶアメリカ生活は幕を閉じた。Devlin’sの演奏やBSOにもたくさん思い出はあるし、テキサスにだって最後にもう一度別れを告げに行ったりもした。でも僕が探し続けている音楽はアメリカには無かった。

「ヨーロッパに行こう! ECMからCDを出すんだ!」

そう決心し、2011年の梅雨前、僕はその準備期間として10年ぶりに日本へと戻ってきた。と言っても、高校生以来、一度も音楽活動をしたことのない大阪。音楽仲間もお店も一つも知らず、どこに行けば演奏できるのかもさっぱり。右も左も分からずに、とりあえず手当たり次第ジャム・セッションに顔を出しまくった。が、僕の期待していたレベルとは程遠く、アメリカで演奏していた時よりも落ち込んでしまった。というよりかは、僕の演奏を理解してくれる人が少なく、そこが一番辛かった。それでも徐々に手を差し伸べてくれる人が現れ、なんとか活動を続けてみた。そして僕は、「いんたーぷれい8(はち)」というお店に出逢う。

たまたま誰かに連れられて行ったのだが、ちょうどジャム・セッションをやっていた。昭和ながらの雰囲気が魅力的で、最初に気付いたのが、ドラムセットがとても素敵だということだった。後に知ったが、ここは、山下洋輔さんがお世話になったお店としても有名で、そのドラムは洋輔さんのトリオで演奏していた森山威男さんが置いていったセットだった。そして流れのまま僕もセッションに入ることに。その時、はちのマスターもピアノで参加し「Take The A Train」を演奏。これがきっかけで、マスターは僕の音楽を心から理解してくれ、お店での女房役のアキさんと共に、その後もずっと僕の味方になってくれた。


はちのドラム

そこから僕は、はちに入り浸るようになり、なかなかお金を稼げない僕を心配してくれたマスターは、毎日ご飯を作って待っていてくれた。「お前が世界一になるまで飯代はいらん。その代わり世界一になったらしっかり取るから」と、僕のECMへの夢を後押ししてくれた。それだけでなく、はちの常連のみんなが僕を受け入れてくれ、僕にとって本当に本当に大切な仲間となっていった。

「ECMの本社があるミュンヘンに行って、契約してみせる!」

みんながその夢を応援してくれ、僕を信じてくれた。はちに集まる人たちは、決して演奏レベルが高いわけではないが、アメリカで見えなくなっていた「熱い気持ち」を持っていた。どこか原点を思い出させてくれる、そんな場所だ。そして、はちにいる間に僕の音楽性もしっかりと固まり、後にECMから出すアルバムのタイトル曲「For 2 Akis」や「Spectacular」が産まれた。


はちのマスターとアキさんと

そうして過ごす毎日だったが、金銭的にはどう頑張ってもミュンヘン移住は無理だった。大阪に戻り1年と少しが過ぎ、はちのマスターからも「いつまでもこんなとこにおったらあかんぞ。はよドイツ行って世界一になってこい」とハッパをかけられた。確かに、少しずつこの環境が居心地良くなってきていた。それを見越した上での発言だったんだろう。僕は夢を思い出し、なんとかならないかバイトもしながら考えた。

年末も近づいたある日、僕は祖母から電話で呼び出された。実家から200m程の所に住む祖母の家に自転車で向かい、用件を聞いた。

「あんた何かやりたいことあんねんやろ? 私に出来るんはこんなんしかないから、これ持っていき。応援してるからな」

と、僕が困っていることを察して、「行ってこい」と言わんばかりに分厚い封筒を差し出した。そして、この出来事が僕の最後の後押しとなった。

祖母は美空ひばりの大ファンで、昔からずっと「愛燦燦」を口ずさんでいた。リリース前に亡くなってしまったが、「For 2 Akis」に入っているその曲は、もちろん彼女に贈ったものだ。

こんな風に、僕はいつも誰かに支えられて生きてきた。両親、兄、祖父母、友人、恋人、先生、先輩、後輩、みんなみんな、仲間たち。ここには書ききれない想い出ばかり。そのみんなの力を背中に受けて、僕は新たな旅に出る。


渡欧前、はちでの最後のライブ

2013年2月28日。

僕は空を見ながら、ミュンヘンへと飛び立った。




※記事中の写真は本人提供



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