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『ブダペスト・コンサート』を聴きながら祈る



(文)五野 洋

日本時間10月20日、衝撃のニュースが流れた。ニューヨーク・タイムズにネイト・チネンが書いたその記事は驚きの見出しで始まる。「キース・ジャレットが立ち向かうのはピアノのない将来」。キースの将来がピアノレスとはどういうことだ!
世界中のファンが心配していたことが現実になった瞬間である。

残念ながら(今のところ)最後のコンサートとなった2017年2月15日のカーネギーホールのソロ・コンサートでは誕生したばかりのトランプ大統領に対する厳しい批判を度々口にする一方、2度のアンコールの最後「オータム・ノクターン」を弾き終わり、「ありがとう、あなた方は私を泣かせた初めての観客です。」と言ってキースはステージを降りたそうだ。キースが人前でそんなにエモーショナルになったのは見たことも聞いたこともなかったので驚きである。彼に何が起こったのか?!本人の中に何か予兆のようなものがあったのだろうか。それともあまりにも酷い男をホワイト・ハウスの住人にしてしまった現実に対する嘆きだろうか。

Part VII (Live)



それ以降のスケジュールは全てキャンセルされ、長い沈黙が始まった。
1996年慢性疲労症候群で演奏活動を中断して以来の出来事である。この時は自宅でリハビリしながら録音した『メロディ・アット・ナイト、ウィズ・ユー』(1998年リリース)の素晴らしさが大きな話題となり、ゲイリー・ピーコック(今年9月他界)、ジャック・ディジョネットとのスタンダーズ・トリオで同年コンサート復帰を果たしてファンを安心させた。

 

しかし、今回明らかになったのは2018年2月と5月に2度の脳卒中に襲われ、左手の麻痺というピアニストにとって致命的な後遺症が残るという深刻な事態である。「今は自分がピアニストだとは感じない。言えるのはそれだけだ。」というキース本人の言葉が重くのしかかる。何しろあれほど弾き慣れたビバップの曲さえ忘れてしまっているのだ。
キリスト教科学の信者であるキースは医療行為を拒否しており、これからどうなるのかファンならずとも心配である。

Answer Me (Live from Budapest)



現在75歳のキース、彼ほどの強い意志があればきっと復活して、またあの素晴らしいピアノを聴かせてくれるだろうと思いたい。
今月ECMからリリースされる『ブダペスト・コンサート』(2016年録音)を聴きながら、そう祈るしかない。

2020.10.23 五野 洋



■作品情報
キース・ジャレット『ブダペスト・コンサート』
Keith Jarrett / Budapest Concert

2020年10月30日(金)リリース
UCCE-1185/6 2CD
¥3,850(TAX IN)
https://jazz.lnk.to/KeithJarrett_BTPR

(収録曲)
(CD1)
01.    パートⅠ
02.    パートⅡ
03.    パートⅢ
04.    パートⅣ

(CD2)
01. パートⅤ
02. パートⅥ
03. パートⅦ
04. パートⅧ
05. パートⅨ
06. パートⅩ
07. パートⅪ
08. パートⅫ -ブルース
09.イッツ・ア・ロンサム・オールド・タウン
10. アンサー・ミー、マイ・ラヴ

■プレイリスト情報
キース・ジャレット『The Best Of Keith Jarrett』
https://ECM.lnk.to/KeithJarrett_75

■キース・ジャレット各種リンク
ユニバーサル ミュージック
https://www.universal-music.co.jp/keith-jarrett/
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ECM Facebook
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ECM twitter
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