COLUMN/INTERVIEW

ザ・マグニフィセント・チャーリー・パーカー!



(文:佐藤英輔)

 ジャズ・マンに限らず、秀でたアーティストは数奇な人生を歩んだ人が少なくないが、不世出のアルト・サックス奏者であるチャーリー・パーカーもその例外ではない。
 1920年カンザス・シティに生まれ、彼は1955年ニューヨークで亡くなった。享年、34。だが、検死した医師はパーカーを20歳近く年長に見立てという。それは、彼が薬禍にあり、身体がボロボロだったからでもあったろう。だが、彼の演奏をやスタンスを知るものだと、パーカーは普通の人の倍のスピードで生きたからこその逸話だと思わずにはいられないのではないか。
 そのサックスの即興能力は前代未聞。枯れぬ泉のごとくこんこんと溢れ出て、しかもえも言われぬパッションを携えた吹き口は彼が生きた時代は当然のこと、現在でもNo.1。パーカーはビバップの開祖のとして挙げられるが、当時の基準とはかけ離れていた能力を持つ彼が思うまま吹けば、新しい音楽になるのは自明の理であったのだ。
 そんなパーカーの驚愕の演奏資質は、普通の人の時間感覚や感受性や瞬発力を大きく超えるものであったのは言うまでもない。また、彼は生き方もパンクというか、当時の枠に囚われなかった。彼は白人の女性たちと付き合うなど、BLM運動が盛り上がる現在と比較にならないほど人種差別が酷かった時代に思うまま振る舞った。当然、それは軋轢を呼び、それも彼に多大なストレスを与えたに違いない。大げさな言い方をすれば、彼の常軌を逸した“飛翔する”演奏は命を削ったものでもあったのだ。
 『マグニフィセント・チャーリー・パーカー』は後にヴァーヴやパブロ・レコードを設立するノーマン・グランツが携わったマーキュリーで録った1951年と1953年5月のSP盤録音曲を、アルバムとしてまとめたものである。グランツがヴァーヴの前に持った自己レーベル“クレフ”から、1955年にリリースされたものがオリジナルとなる。本国ではレコード・ストア・デイ用商品等でアナログが発売されたことがあったが、CDとしては今回の日本盤が初リリースとなる。

Blues for Alice



 1950年代に入ると、パーカーは余裕が出てきたというか、生理的には人生を謳歌するような感じも出てきて、より深みや広がりを聞き手に与えるようになった。そして、本作もその妙はパッケージされている。とくにうち2曲(M-5、6。1953年のこれはクレフとして録音されたものかもしれない)は鬼才編曲家であるギル・エヴァンスの編曲のもと、変則編成の管楽器音とデイヴ・ランバート・シンガーズと絡む体裁が取られ興味深くも新鮮だ。しかし、それも時代を大きく超えたパーカーの吹き口が導いた指針でもあったわけで、マイルス・デイヴィス、マックス・ローチ、ジョン・ルイス、チャールズ・ミンガスといったその後に時代を切り開く達人たちが各セッションの参加者クレジットにあるのも、未来から来たような規格外のインプロヴァイザーに腕や感性に覚えアリの達人たちが引き寄せられていた事実を物語る。

In The Still of The Night



 それにしても、この黄色が基調となるジャケット・カヴァー〜パーカーのニックネームが“バード”であることとつながっている〜のなんとクールなこと。アルバム・ジャケットっていいね! そう、思わずにはいられない。このイタストレーションを手がけたのは、デイヴィッド・ストーン・マーティン(1913〜1992年)。他のパーカー作をはじめ、彼は様々なジャズ・アルバムを手がけている著名クリエイターだ。マーティンは1960年代に入ると、タイム誌の表紙を時々手がけたりもしている。

 ときに、2017年に『ザ・パッション・オブ・チャーリー・パーカー』(インパルス)という作品がリリースされた。メロディ・ガルドーやマデリン・ペルーやキャンディス・スプリンスら今のジャズ+の女性シンガーの扱いのうまさで名声を博すラリー・クライン(かつてはジャズ・ベーシストで、ジョニ・ミッチェルの夫でもあった)が渾身のプロダクションのもと、同作は“バード”の楽曲/世界を今に持ってこようとした内容を持つ。

The King of 52nd Street [Vocal Version Of "Scrapple From The Apple"]
-Melody Gardot(vo) Donny McCaslin(ts) Ben Monder(g) Craig Taborn(el-p) Scott Colley(b) Eric Harland(ds)


 そこでクラインはヴォーカル曲化を図るディレクションを取り(先に触れた女性歌手やグレゴリー・ポーターらをフィーチャーする)、参加する管楽器の奏者はテナー・サックス奏者のダニー・マッキャスリンのみ。チャーリー・パーカーはアルト・サックス奏者であったが何ゆえにここでテナー・サックス奏者にソロを取らせ、またヴォーカリストたちを前に出すことにしたのか。実はそれこそは、クラインの慧眼というしかない。そのままアルト・サックス奏者を使い、インストゥメンタルでやっても70年前に送り出されたパーカーのあまりにスリリングで風情にも満ちていた音楽宇宙には近づけないと、彼は判断したからに違いない。
 そう、パーカーのオリジナルはそれほどに、尊く、今も輝き続ける。そして、そんな彼の複数の行き方をまとめた『マグニフィセント・チャーリー・パーカー』は存分に、その真価を伝える。同作には、そこここにパーカーならではの唯一無二の閃きや情熱的な歌心、さらにはジャズをジャズたらしめる無形の素敵が息づいている。


【作品情報】
<チャーリー・パーカー生誕100周年UHQ-CD リイッシュー>第3弾
チャーリー・パーカー / 『ザ・マグニフィセント・チャーリー・パーカー』

UHQCD
https://store.universal-music.co.jp/product/uccv9703/
LP
https://store.universal-music.co.jp/product/b003196801/

VA / 『ザ・パッション・オブ・チャーリー・パーカー』

SHM-CD
https://store.universal-music.co.jp/product/ucci1040/