COLUMN/INTERVIEW

2020年のジャズ・アルバムBEST 3

生活様式、働き方まで一変した2020年が今年も終わりを迎えます。そんな時代の中でも音楽を奏でるミュージシャンたち。今年リリースされた作品の中からBlue Note Clubにこれまで執筆頂いている方々に今年のジャズ・アルバムBEST 3を選んでいただきました。

本日は、四谷のジャズ喫茶いーぐるのオーナー、後藤さんのBEST 3をご紹介頂きます。



文:後藤 雅洋(ジャズ喫茶いーぐる オーナー)


イマニュエル・ウィルキンス『Omega』(Blue Note)


ギブトン・ジェリン『True Design』(自主製作)


ヌバイア・ガルシア『ソース』(Concord)



 最初に私のアルバム選考基準をご紹介しておきましょう。ジャズ喫茶店主という職業柄、身もふたもない言い方をすると「聴いてもらえなければ意味がない」に集約されます。ジャズ喫茶の選曲では、お客様に帰られてしまっては「失敗」なのです。かと言って、甘口のアルバムばかりかけていたのではコアなファンが遠ざかってしまい、結局のところ店の経営は長続きしません。
 つまりジャズとしてのクオリティと、とりあえずの分かりやすさの両立という難しいゾーンに球を投げ続けなければこの商売はやっていけないのですね。その辺りが、「問題作」にターゲットを絞りがちな評論家の方々のセレクションとの微妙な違いと言えるのではないでしょうか。
 そうした前提で私の「2020ベスト・アルバム」の選定条件をご説明すると、まずは「現代性」ですね。およそ2010年あたりを境として、現代ジャズはクールネスとサウンド志向を特徴とする新たなデイメンションに突入しており、かつてのソロ重視熱演型モダンジャズを念頭に置いた価値基準は通用しなくなっています。
 とは言え、いまだに日本のジャズファンの大半は過去のジャズ・ジャイアンツの名演との比較で「現代ジャズ」を評価しようとする傾向が強く残っており、そのことも押さえた上での選曲ということになります。要するに今回選んだ3枚は現代性を備えつつもベテラン・ファンにも理解されやすいタイプの名盤ということですね。

 今年はコロナの影響もありジャズシーンの停滞が懸念されましたが、ことアルバムに関してはむしろ豊作の年であったように思います。そして思い知らされたのがアメリカジャズ界の懐の深さです。有望な新人たちが続々と現れており、彼らの動向には目が離せません。最近私が注目したのは、話題のヴァイブ奏者ジョエル・ロスのサイドマンとして頭角を現してきたアルト奏者、イマニュエル・ウィルキンスのデビュー・アルバム『オメガ』(Blue Note)です。ウィルキンスはロスの同じくブルーノート最新作『Who Are You?』にも参加しており、どちらにしようか迷ったのですが、若干粗削りながらウィルキンスの熱気が炸裂した『オメガ』の方がソロの迫力において上回っているということでこちらを選びました。
 




 このアルバムはまさに往年の「コルトレーン命」といったベテラン・ファンからももろ手を挙げて支持されること請け合いの推薦盤です。聴き所は何と言っても遠慮なしに吹きまくる気合の入ったウィルキンスのアルト・ソロで、彼が第一級の実力者であることがこのデビュー作で証明されました。そして同じく新人ピアニスト、ミカ・トーマスが切れ味抜群のソロを展開しており、彼もまた期待の注目株と言えそうです。
 そしてそのウィルキンス、ミカのコンビが脇を固めた新人トランぺッター、ギブトン・ジェリンの初リーダー自主製作盤『True Design』も、熱いソロを聴き所とするベテラン・ジャズファン向けの1枚と言えるでしょう。抑え気味ながら内に秘めた熱気を感じさせるトランペット・サウンドは、かつてファンを唸らせたイスラエルのトランぺッター、アヴィシャイ・コーエンを彷彿させます。
 しかしギブトンの出身はフロリダ半島の沖合に位置する島国バハマ生まれ。彼はジャズに惹かれニューヨークに渡り、現在名門ジュリアード音楽院に在学中の新人です。聴き所は何と言ってもけれん味なく吹きまくるギブトンのトランペットです。内に言いたいことを秘めたストレートな演奏が素晴らしい。加えてジャズの伝統に対するリスペクトも確かで、ハードバップ名曲《グランド・ストリート》を採りあげているところなど、まさにベテラン・ファン向けの配慮と言えるでしょう。




 近年のジャズシーンにおいてUKシーンの活況は目が離せません。その目玉とも言えるのが女性テナー奏者、ヌバイア・ガルシアのデビュー作『ソース』(Concord)です。このアルバムはサウンドのユニークさとソロの力が拮抗しており、個人のソロを重視するベテラン・マニアのみなさんにも現代ジャズの魅力を伝えられる推奨盤です。
 加えてこのアルバムは、さまざまな地域の音楽的要素が融合したUKシーンの特殊性も浮き彫りにしているように思います。というのも、ロンドン生まれながら彼女にはカリブ地域の血筋が流れており、それが典型的に表れたトラックが《クンビアが私を呼んでいる~フィーチャリング、ラ・ぺルラ》でしょう。この曲はガルシアが訪れたカリブ海に面したコロンビア共和国の伝統音楽を演奏する女性トリオ「ラ・ペルラ」がフィーチャーされており、彼女たちの哀感の籠ったコーラスにヌバイアのテナーが絡むたいへん魅力的な演奏になっています。




 そしてレゲエを取り入れたタイトル曲《ソース》でも女性コーラスをバックにヌバイアの快調なソロが展開され、こうしたサウンドとソロが小気味よく融合した彼女の音楽は、ヴォーカル、コーラスを多用したカマシ・ワシントンとの並行関係を感じさせます。





【作品情報】
イマニュエル・ウィルキンス『Omega』

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ヌバイア・ガルシア『ソース』

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