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2020年のジャズ・アルバムBEST 3

本日は、【NEWEST ECM】で隔週でECMの新譜をご紹介頂いている音楽ジャーナリスト、原雅明さんのBEST 3をご紹介頂きます。

文:原 雅明



アンブローズ・アキンムシーレ / On The Tender Spot Of Every Calloused Moment (Blue Note)


イマニュエル・ウィルキンス / Omega (Blue Note)


テッド・プア / You Already Know (impulse!)



 トランペット奏者アンブローズ・アキンムシーレの『On The Tender Spot Of Every Calloused Moment』は、2020年に最も強い印象を残したジャズ・アルバムだった。カリフォルニア州オークランド生まれのアフリカ系アメリカ人が、2020年現在の“ブルース”を表現するということに真摯に向き合ったアルバムだ。サム・ハリスのピアノ、ハリシュ・ラガヴァンのベース、ジャスティン・ブラウンのドラムを配したクァルテットによるヘヴィーな演奏からスタートし、アキンムシーレが一人ローズピアノだけをゆっくりと鳴らすラストまで、美しいラインが引かれていく。その中に、ハバナ出身のヘスス・ディアスがヨルバ語で歌うヴァーカル(とパーカッション)や、ジェネヴィーヴ・アルターディが“シニカルな傍観者”のタイトルでリリックも書いた歌が印象的に挿入される。ラップと弦楽四重奏をぶつけた前作『Origami Harvest』は、「相反すると思われるものを併置する」というアクチュアルなコンセプトのとても誠実なアルバムだったが、『On The Tender〜』ほど繰り返し聴くことには至らなかった。
 レコードで購入した『On The Tender〜』(バーニー・グランドマンのカッティングによる重量盤だ)の見開きジャケットには、アーチー・シェップが執筆したライナーノーツが掲載されていた。シェップはここで一つのエピソードを紹介している。ニューヨーク州アッティカ刑務所での暴動をテーマとした『Attica Blues』のリリース40周年を記念した、シェップのアッティカ・ブルース・ビッグバンドの公演にアキンムシーレは招かれた。フランスでの2週間のリハーサルで、自分の演奏がない時もずっとホールの庭でトランペットを吹き続けていたアキンムシーレを見たシェップは、かつてファイブ・スポットでの演奏の休憩時間にもひたすらキッチンに向かってサックスを吹いていたジョン・コルトレーンの姿を重ねた。そして、アキンムシーレの音楽にあるカリスマ的な雰囲気と音楽的な雄弁さを褒め称えた。
 十代前半のアキンムシーレが母親に連れられて初めて観に行ったコンサートは、アート・アンサンブル・オブ・シカゴだったという。それから四半世紀を経て、アキンムシーレはロスコー・ミッチェルの作曲のワークショップに参加して、ステージでも共演をした。『On The Tender〜』では、ロスコー・ミッチェルとアーチー・シェップ、それにロイ・ハーグローヴというアキンムシーレが深い繋がりを感じた先駆者たちを、“ブルース”の名の下に象徴的な存在として浮上させている。その構成も素晴らしかった。

https://www.youtube.com/playlist?list=PLEz_mLoNZMeQlBwuZeoZrbzzBKwHbNVq2

 22歳のサックス奏者イマニュエル・ウィルキンスのデビュー作『Omega』は、Blue Noteがジョエル・ロスに続いて新しい才能を本気で紹介する姿勢を示した作品だった。ジャケットに写ったウィルキンスの形容しがたい表情がこのアルバムについて何よりも物語っていた。アキンムシーレの静かな強い決意以上に、よりストレートにBLMの問題を曲のテーマとしている。そのウィルキンスのジャズは、良い意味で少し混乱もしているのだ。2020年の端正なジャズのイディオムの中に突如オーネット・コールマンの如き不穏当なトーンが登場したり、パルスやディレイが演奏に介入して、時にモダンジャズの歴史を組み替え、崩していく。そのことと整合性のあるアンサンブルとの対比が新鮮でもあった。また、このアルバムをプロデュースしているのが、かつてBlue Noteを支え、いまはそこを離れてファインアートの世界にもコミットしているジェイソン・モランであることも興味深い。モランに続いてBlue Noteと契約したロバート・グラスパーもいまは移籍をしたが、現在のBlue Noteが60年代のようなコアな路線を堅持していることを感じさせたのが、アキンムシーレとウィルキンスの2作、それに今回ベスト3には選出しなかったがジョエル・ロスの新作『Who Are You?』だった。

https://www.youtube.com/playlist?list=PLEz_mLoNZMeSp0H-ydVlhJNu3eAoXk7rt

 クオン・ヴーやアーロン・パークスらと演奏を重ねてニューヨークのジャズ・シーンで活動する一方、インディ・ロックのフィールドでミッチェル・フルームやアンドリュー・バードとも活動してきたドラマー、テッド・プアが、ブレイク・ミルズをプロデューサー、ギタリストに迎えて作ったimpulse! からのソロ・デビュー作『You Already Know』は、ECMのストイックなミニマリズムやJ・ディラのビート、タイム感に影響されてきたジャズを、次に向かわせるポテンシャルを感じたアルバムだった。ミルズのソロ作やプロデュース作に共通する茫漠とした音響空間、スローテンポ、ミニマルだが輪郭はぼやけた、それでいて厚みがある音のデザインによって、ジャズの音響は更新されつつある。これは、Nonesuchが今年紹介したマルチ奏者サム・ゲンデルのアルバム『Satin Doll』でのジャズの解釈とも繋がり、その先でビル・ブリゼールらの演奏するアメリカーナとも接続するジャズだ。

https://www.youtube.com/playlist?list=OLAK5uy_ljkfqgez-6239YFIAqmuk9_M9ti2FG0Cc

 このベスト3の選出には、ユニバーサルのリリース作品という縛りはない。今回、Blue Noteとimpulse! のリリース作を選んだのはただベストに相応しいと思ったからであること、そして、この3作は残念ながら何れも国内盤ではリリースになっていないことも最後に記しておきたい。



【作品情報】
アンブローズ・アキンムシーレ『On The Tender Spot of Every Callosed Moment』

on the tender spot of every calloused moment【CD】 | アンブローズ・アキンムシーレ |
UNIVERSAL MUSIC STORE (https://store.universal-music.co.jp/product/0892619/)

イマニュエル・ウィルキンス『Omega』

Omega【CD】 | イマニュエル・ウィルキンス |
UNIVERSAL MUSIC STORE (https://store.universal-music.co.jp/product/0894797/)

テッド・プア『You Already Know』

https://store.universal-music.co.jp/product/0861784/