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「魔法の絨毯に乗って演奏できる」 ジャズ・サックスの匠、チャールス・ロイドがビル・フリゼールなど信頼する仲間と創り上げた新作『トーン・ポエット』に込めた思い

文:佐藤英輔

 


©Dorothy Darr



 ただ今、82歳。現在ジャズをジャズたらしめる魔法を意気盛んに表出している最たるレジェンドが、サックス/フルート奏者のチャールス・ロイドだと言える。ECMを経て、現在ブルーノートから複数のフォーマットによるアルバムを鋭意リリースしている彼の新作は、ザ・マーヴェルスによるもの。前作『8: キンドレッド・スピリッツ』(2020年)はジェラルド・クレイトン(ピアノ)やジュリアン・ラージ(ギター)らを擁するキンドレット・スピリッツによるライヴ・アルバムだった。2019年9月の来日時に取材した際、ロイドは自分のプロジェクト群についてこんなふうに説明してくれた。
 「次はキンドレッド・スピリッツのアルバムだけど、ザ・マーヴェルスとかがなくなったわけではないんだ。ニュー・カルテット(ピアノのジェイソン・モラン、ダブル・ベースのルーベン・ロジャース、ドラムのエリック・ハーランドがその構成員。そのリズム隊は、ザ・マーヴェルスやキンドレッド・スピリッツと共通する)とか、(ECM時代の)サンガムとか、それらフォーメイションはそのまま残っている。だって、どれも自分の子供みたいなものだからね、それぞれにこれからも表現させてあげたい」

 ザ・マーヴェルスの大きな要点は、エレクトリック・ギターのビル・フリゼールとペダル・スティール・ギターのグレッグ・レイズ、2人の弦楽器奏者を擁するピアノレスのクインテットであること。実はメンフィスに住んでいた子供の頃、彼はペダル・スティールを弾く白人の友達がいて、2人でよく演奏しあっており、ロイドはペダル・スティールに肯定的な心持ちを持っている。そして、そのことを知るフリゼールがいいペダル・スティール奏者がいるからと紹介してくれたのがレイズだった。彼はカントリーやロックのレコーディングに引っ張りだこの実力者だが、一度一緒にやってみたら魔法が起きて、その単位はザ・マーヴェルスと名付けられたのだった。
 そのフリゼールとレイズの絡みは興味深くも、まこと魅力的と言うしかない。これまで、ザ・マーヴェルスは『アイ・ロング・トゥー・シー・ユー』(2016年)と『ヴァニッシュド・ガーデンズ』(2018年)をリリース。続く同3作目となる本作リリースを前に、彼はサンタバーバラの自宅でズーム取材に応じてくれた。以下、引用する発言はそのおりに取ったものである。

 



 ペダル・スティールというカントリーと直につながる楽器を有効に用いているためか、ザ・マーヴェルスによるアルバムは、もう一つのアメリカの風景をふんわり浮かび上がらせるところがある。それを認めると、ザ・マーヴェルスはロイドにとっての“アメリカーナ”表現を具現するバンドであるようにも思えてしまう。
 「それについては、よく分からないな。僕は音楽を愛し、音楽を演奏しているだけ。僕の音楽は決して一つの岸辺でダンスをしているものではなく、いろんな岸辺でダンスしているものである。狭い一つの所ではなく、もっと広い、ユニヴァーサルな道に僕は立っている。だからグレッグとビルが一緒になっていろんなものを持ち込めるし、それをリズム隊がしっかりと支えてくれる。すごく余裕というか、スペースがあるんだ。ある種、自分にとってみれば“魔法の絨毯”に乗って演奏できるような、そんな気分になれる」
 魔法の絨毯に乗って演奏しているようなフィーリングは、新作『トーン・ポエム』で増しているのは間違いない。それは、過去のアルバムはノラ・ジョーンズやウィリー・ネルソン、ルシンダ・ウィリアムスら人気シンガーを迎えたヴォーカル曲を入れていたところ、今作はクインテットのみによる全インストゥルメンタルで勝負していることは大きいだろう。今回ゲスト歌手を入れていないことについて、「僕たちもまた、楽器を持つ素晴らしいシンガーなんだ。シンガーを入れてやるのも好きだけど、今作に関して言えば、自分たちというシンガーで十分だった」と、彼は説明した。

 ロイドが「どの楽曲も人間性を謳歌する曲」と語る収録曲は自作曲に加えて、オーネット・コールマンやセロニアス・モンクら先達のジャズ曲、さらに名シンガー・ソングライターだったレナード・コーエンの曲も彼は取り上げている。
 「オーネットやセロニアス・モンクもそうだし、僕が感動を受ける人たちというのは、優れた考える人たちなんだ。そして、彼らは世界を変えた。僕も若い時分に世界を変えたくて、ニューヨークで一生懸命頑張ったけど(そのころ、1960年代下半期のバンドにはキース・ジャレットやジャック・ディジョネットがいた)、残念ながら世界を変えることができなかった。世界を変えられないのなら、自分を変えようと思ったんだ。自分を変えることで、世界を変えることができる自分になれるかもしれないとね」

 



 『トーン・ポエム』にはロイド作品にECM時代から関わっている、サウンド・エンジニアのジョー・ハーリーが変わらず関与している。長年の親友でもあるハーリーにロイドは、<トーン・ポエット>という賞賛の言葉を与えた。近年ブルーノートはハーリーの新マスタリングによる過去名作の特別ヴァイナル・シリーズを<トーン・ポエット>と名付け、それは好評を得ている。今作は、そのシリーズに入る初の新録作品となる。
 「今回『トーン・ポエム』と名付けたアルバムを作ったので、レーベルのほうから<トーン・ポエット>シリーズに入れてもいいかなと打診してきたので、もちろんと答えた。レコーディング中というのは普通の人間ではなくなるもので、どうしても音楽と自分の間にあるいろんなものを取り除きたくなる。それって、ダイレクトな会話をしたいという気持ちの表れだね。そして、その気持ちを彼は尊重してくれる。ジョー・ハーリーが関与するのは、エレクトロニックな部分での作業となるわけだが、それを人間的なものになるように気遣ってくれるんだ」
 今作の録音はコロナ禍となる前に録音された。だが、ロイドは「とくにこのコロナ禍の時期にハートとスピリットを癒してくれる音楽が作れたと思う。その達成感で、今は感謝だ」とも、語ってくれた。


関連記事「“チャ―ルス・ロイド・レトロスペクティヴ“といった趣のニュー・アルバム『8: Kindred Spirits』(映像付きライヴ作品)」
https://bluenote-club.com/diary/323177


■リリース詳細
チャールス・ロイド 『トーン・ポエム』

2021年3月12日リリース
価格:¥2,860 税込 (SHM-CD) 
品番:UCCQ-1133
https://jazz.lnk.to/CharlesLloyd_TPPR

【収録曲】
01 ピース /  Peace
02 ランブリン /  Ramblin’
03 アンセム /  Anthem
04 ディズマル・スワンプ / Dismal Swamp
05 トーン・ポエム / Tone Poem
06 モンクス・ムード / Monk's Mood
07 アイ・アモール / Ay Amor (Live)
08 レディ・ガボール / Lady Gabor
09 プレイヤー / Prayer
10 イン・マイ・ルーム / In My Room *ボーナス・トラック

■関連リンク
公式HP: https://www.universal-music.co.jp/charles-lloyd/
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