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【連載】Sampling BLUE NOTE 第2回 Donald Byrd / Wind Parade



“史上最強のジャズ・レーベル”と称されるブルーノート。その一方で、“最もサンプリングされてきたジャズ・レーベル”と言っても過言ではない。特に1970年代のBNLA期に発表されたソウルフルかつファンキーな作品は、1980年代以降ヒップホップやR&Bのアーティストによって数多くサンプリングされた。このコラムは、ジャズだけでなくクラブ・ミュージックにも造詣の深いライターの小川充が、特に有名な20曲を厳選し、その曲の魅力やサンプリングされて生まれた主要トラックを解説する連載企画(隔週更新)。

文:小川 充


【第2回】

Donald Byrd / Wind Parade
ドナルド・バード「ウィンド・パレード」
AL『プレイシズ・アンド・スペイシズ』収録



◆サンプリング例
Wale / Thank God


第1回に続きドナルド・バードの『Places And Spaces』(1975年)から。前回紹介の「Dominoes」、サンプリング・ソースのバイブル的なコンピの『Ultimate Breaks & Beats』にも収録された「Change (Makes You Want To Hustle)」を筆頭に、「You And The Music」「Night Whistler」に表題曲の「Places And Spaces」、ザ・テンプテーションズをカヴァーした「Just My Imagination」と名曲揃いで、それぞれサンプリングにも引っ張りだこなのだが、こうしたアルバムの中でもっとも美しい曲が「Wind Parade」である。

アルバム・ジャケットの飛行機の写真は、ラスヴェガスでパイロット免許を持つバードが操縦する小型飛行機にプロデューサーのマイゼル兄弟が乗ったときに撮影したものだ。遊び仲間でもあった彼らにとって、それは本当に楽しく素晴らしいひとときで、そうした体験の中でアルバム制作に関するアイデアも次々生まれて『Places And Spaces』は誕生した。「Wind Parade」はまさにそんな空の旅がモチーフとなった曲で、バードやマイゼル兄弟にとってもアルバム中でもっとも好きで大切な曲のひとつだったという。キラキラと美しいフェンダーローズやストリングス、浮遊感に満ちた女性コーラスを従えながら、バードのトランペットが哀愁のフレーズを奏でていく。マイゼル兄弟の都会的なメロウネスを代表する1曲であり、バードにとってもそれまでなかった新生面を見せる作品となった。

Donald Byrd / Wind Parade



そんな「Wind Parade」は『Places And Spaces』の中でもフェイヴァリットに挙げる人が多く、もっともたくさんサンプリングされている。およそ30曲近くの作品でサンプリングされていて、ざっと挙げると2パックの「Definition Of A Thug Nigga」、ブラック・ムーンの「Buck Em Down」、オーガナイズド・コンフュージョンの「Stray Bullet」などがある。これらは1990年代の曲だが、2000年代ではO.C.の「The Inventor」、KRSワン&マーレイ・マールの「Over 30」、カレンシーの「Mandatory」などがあり、2010年代もモニカの「So Gone」の“9th Wonder Remix”やジ・アルケミストの「Bloodhounds」など、あらゆる年代に渡って愛されてきている。サンプリング・ソースも時代によって流行廃りがあるのだが、「Wind Parade」はまさしく不朽の名曲というわけである。比較的近年のサンプリング例であるワーレイの「Thank God」(2017年)は、全面的に「Wind Parade」を使用したトラックというより、ほぼ「Wind Parade」をバックにワーレイがラップと歌を聴かせるといった具合。ほとんど手を加える必要がないということだろうか、それだけ「Wind Parade」という曲の完成度の高さを物語る。

Wale / Thank God



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