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【連載】スタンダード名曲ものがたり 第4回 酒とバラの日々



世の中に数多あるスタンダード・ナンバーから25曲を選りすぐって、その曲の魅力をジャズ評論家の藤本史昭が解説する連載企画(隔週更新)。曲が生まれた背景や、どのように広まっていったかなど、分かりやすくひも解きます。各曲の極めつけの名演もご紹介。これを読めば、お気に入りのスタンダードがきっと見つかるはずです。

文:藤本史昭


【第4回】

酒とバラの日々
The Days Of Wine And Roses
作曲:ヘンリー・マンシーニ
作詞:ジョニー・マーサー
1962年


『酒とバラの日々』は、1962年に公開されたアメリカ映画です。タイトルだけ見ると、幸せいっぱい、これ以上の人生はないじゃないか!と想像してしまうかもしれませんが、実はこれ、アルコール依存症の夫婦がどんどん堕落していくという、きわめてシリアスなストーリー。とりわけ後半は、依存症から立ち直ろうとしては挫折する主人公(ジャック・レモン)の壮絶な闘いが生々しく描かれていて、観ているのが辛くなってくるほどです。

その映画の主題曲として書かれたのがこの曲。優雅で流麗なメロディは、暗い内容とは一見真逆なイメージですが、しかしだからこそ登場人物たちの苦悩を増幅し、観る者の心に深く染み込むことになります。悲惨な物語にあえて美しい音楽をつけるのはよくある手法で、行き過ぎると悪趣味になってしまうのですが、これはそのやり方が功を奏した好例といえるでしょう。作曲したのは、数々の映画音楽をものした名匠、ヘンリー・マンシーニ。この時期のマンシーニはまさに絶好調で、前年『ティファニーで朝食を』のために作曲した〈ムーン・リヴァー〉に続き、本作で2年連続アカデミー歌曲賞を、また63年のグラミーでは最優秀レコード賞他全3部門を受賞することとなりました。

さらにこの曲の良さを倍加させているのが歌詞です。様々な作曲家と組んで数多の名曲を残したジョニー・マーサーの手になるそれは、含蓄があり、特に人生のピークを過ぎつつある人間にとっては切実に響きます。これ、村上春樹さんもお気に入りのようで、『村上ソングズ』という本の中でこう書かれています。「歌詞が磨かれていればいるほど、その美質を損なうことなく、しかも内容に忠実に日本語に翻訳するのは至難のわざになる」。大作家をしてそういわしめる詞の世界を、ぜひじっくりと味わってみてください。


●この名演をチェック!

ジュリー・ロンドン
アルバム『アワ・フェア・レディ』(Liberty)収録


映画女優として名を成しただけあって、その表現力の深さには定評のあるジュリー・ロンドン。ここでも流麗なストリングス&コーラスと好対照をなす抑制された歌唱で、映画の中で示された曲の世界観を見事に描ききっています。

 

 


スカー・ピーターソン
アルバム『プリーズ・リクエスト』(Verve)収録


ピーターソンはその生涯に膨大な数のスタンダード・ナンバーを録音しましたが、その中でももっとも有名なもののひとつがこれ。切れ味抜群、ご機嫌にスウィングするプレイはまさにこの人の真骨頂。胸のすくような酒バラです。