COLUMN/INTERVIEW

【DIGGIN’ THE VINYLS Vol.5】

ART BLAKEY AND THE JAZZ MESSENGERS / MOANIN’



(文:原田 和典)


ブルーノート・レコーズ設立80周年記念の快企画“ブルーノート80ヴァイナル・リイシュー・シリーズ”から2年、今度は“クラシック・ヴァイナル・シリーズ”がスタートした。約50年のキャリアを持つ全ジャンル対応の名マスタリング/カッティング・エンジニア、“ドクター・グル―ヴ”“KPG”ことケヴィン・グレイがジャズ界の財宝というべきブルーノートのオリジナル・マスター・テープから直接マスタリングし、ドイツのオプティマル社で製造された180グラムの盤を使用したすぐれものだ。ケヴィンとブルーノートの関係は、いわゆるBN-LA時代のニュー・レコーディングであるチコ・ハミルトン『チコ・ハミルトン・アンド・ザ・プレイヤーズ』(1976年)から始まっているので、もう45年を数える。「ブルーノートのカタログは、史上最高のジャズ・レコーディングの一部だ」と語るケヴィンの数々のワークスに触れて、“アナログで聴くジャズ”に目覚めたリスナーは世界中にいるはずだ。

そして今回、とびきりのド定番が“クラシック・ヴァイナル・シリーズ”から装いも新たに登場した。アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズが残した不朽の一作『モーニン』(1958年10月30日録音、レコーディング・エンジニアはルディ・ヴァン・ゲルダー)である。ケヴィンは過去、2008年のアナログ・プロダクションズ盤(45回転2枚組)、2012年の“Blue Note プレミアム復刻シリーズ”(日本企画)、2014年の“ザ・デフィニティヴ・ヴァイナル・リイシュー・シリーズ”等に携わっているので『モーニン』復刻のプロフェッショナルといっても過言ではないはずだが、今回は何よりもまずジャケットを見て新鮮な気分になった。初めてセカンド・デザインのそれが採用されているのだ。
 


いままで本作の復刻は、たいていの場合、オリジナル・ジャケット・デザインに則っていた。銅像のようなブレイキーのポートレイトが左側に位置し(ブルーノート社の名カメラマンであるフランシス・ウルフではなく、のちに音楽写真家となるバック・ホーフラーが57年に某ライヴ会場の楽屋で撮った)、右側に“ART BLAKEY AND THE JAZZ MESSENGERS”というバンド名(これがすなわち、このアルバムの原題である)とレコード品番が11行にわたって印刷されているものがオリジナル・デザインだ。だが発売後、A面1曲目「モーニン」が話題となり、クインシー・ジョーンズ、ランバート・ヘンドリックス&ロス、ハービー・マンなど人気ジャズメンが次々とカヴァー。60年代に入るとバディ・ガイや寺内タケシなど、アッと驚くような面々にも取り上げられている。おそらくかなり早いうちから、人々の間でのこのアルバムの通称は“モーニン”だったのでは・・・・・・と類推するのも、“モーニン”を標題にしたほうが新規購入者のためにも親切だろうとブルーノート社が考えたであろうと類推するのもたやすい。とはいえ実際にジャケット・デザインが入れ替わったのはリリースから6~7年後、ブルーノートが約四半世紀のインディペンデント・レーベル歴に終止符を打ち、大手リバティ・レコーズに買収されてからであるようだ。

今回の復刻には、そのセカンド・デザインが使われた。銅像のようなブレイキーのポートレイト、その上部にはしっかり『MOANIN’』という文字が赤く刻まれている。筆者の記憶ではこのデザインによるレコードが新品として市場に流通するのは、1976年に出た東芝EMI盤以来だ。メンバーは御大ブレイキー(ドラムス)、智将ベニー・ゴルソン(テナー・サックス、アレンジ、4曲作曲)、ファンキー大将ボビー・ティモンズ(ピアノ、「モーニン」作曲)、とっぽい20歳リー・モーガン(トランペット)、バンドの錨ジミー・メリット(ベース)という黄金だが半年ほどで終わった短命ラインナップ。左チャンネルにはトランペット、ピアノがどっしり位置し、右チャンネルではサックス、ベースが力強い音を響かせる。ドラムスもいささか右チャンネル寄りか。

ゴルソンのアレンジはあまりにもメリハリに富み、たとえば「モーニン」だけをとっても、冒頭に登場するピアノの無伴奏単音フレーズから、ブレイキーの得意技“ナイアガラ瀑布”(2本のスティックを、スネア・ドラム上で音の粒を揃えたまま超高速で交互に動かす)が炸裂する箇所まで、音量の強弱差は尋常ではない。しかもB面1曲目、ゴルソン渾身のコンチェルト「ドラム・サンダー組曲」(すごいタイトルだ)でのブレイキーはスティックではなくマレットを使い、まるでティンパニを叩くかのごとく、丸く太い大音量を自身のドラム・セットから導き出している。このトーンをいかに型崩れさせることなく再生するかも、アナログ・リスニングの醍醐味であろう。ケヴィンの格調高いマスタリングは、とかくワイルドな部分に隠れがちなジャズ・メッセンジャーズの、統制の取れたアンサンブルやアレンジの面白さをたっぷり味わわせてくれる。

あまりにも有名な作品なので、もうすでに何らかのLPやCDで持っているというファンもかなりいらっしゃるだろう。そういう方にはぜひ、次世代にもこのアルバムの面白さを伝えてほしいと思う。データ音源とはまた異なる味わいの、ぜひ“針がレコード盤の溝を読み取って放つ音の旨み”を老若男女みんなで共有できれば世の中もっと楽しい。アナログ・デビューへの第一歩としても、この“クラシック・ヴァイナル・シリーズ”版『モーニン』は、絶好のテキストになるはずと確信する。


(作品紹介)
ART BLAKEY AND THE JAZZ MESSENGERS / MOANIN’

発売中
https://tower.jp/item/5164377/Moanin'
https://store.universal-music.co.jp/product/0746568/