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【連載】スタンダード名曲ものがたり 第6回 ハウ・ハイ・ザ・ムーン


世の中に数多あるスタンダード・ナンバーから25曲を選りすぐって、その曲の魅力をジャズ評論家の藤本史昭が解説する連載企画(隔週更新)。曲が生まれた背景や、どのように広まっていったかなど、分かりやすくひも解きます。各曲の極めつけの名演もご紹介。これを読めば、お気に入りのスタンダードがきっと見つかるはずです。

文:藤本史昭


【第6回】
ハウ・ハイ・ザ・ムーン
How High The Moon
作曲:モーガン・ルイス
作詞:ナンシー・ハミルトン
1940年


モーガン・ルイスは、1930年代から50年代にかけてブロードウェイ・ミュージカルに多くの音楽を提供した作曲家/音楽監督/振付師ですが、残念なことに長く歌い継がれる曲を書き残すことはできませんでした。そんな彼の作品の中で唯一スタンダード・ソングとなったのが〈ハウ・ハイ・ザ・ムーン〉です。

この曲は1940年のレビュー『Two For The Show』の挿入歌として書かれたもので、最初に舞台で歌ったのはフランセス・カムストックとアルフレッド・ドレイクでしたが、初演とほぼ同時にベニー・グッドマン楽団がヘレン・フォレストをフィーチャーして録音。その後スタン・ケントン楽団&ジューン・クリスティ、ギタリストのレス・ポールとそのパートナーだったメリー・フォードのレコードがヒットし、世に広く知られるようになりました。

しかし〈ハウ・ハイ・ザ・ムーン〉がスタンダードとして定着したのは、なんといってもビバッパーたちが好んで演奏するようになってからでしょう。この曲は当時としては転調を多く含むコード進行が斬新で、それゆえに腕自慢のジャズマンが自分の技を見せるのに格好の素材でした。その結果、〈ハウ・ハイ・ザ・ムーン〉のコード進行だけを拝借した曲が次々に作られるようになったのです。もっとも有名なのはチャーリー・パーカーの〈オーニソロジー〉ですが、それ以外にもコールマン・ホーキンスの〈ビーンズ・アット・ザ・メット〉、レニー・トリスターノの〈レニー-バード〉、マイルス・デイヴィスの〈ソーラー〉、ジョン・コルトレーンの〈サテライト〉、ジミー・ジュフリーの〈ブライト・ムーン〉などはこの曲が元になっていて、そのことが逆説的に〈ハウ・ハイ・ザ・ムーン〉という曲の存在をジャズ・ファンに印象づけることになったのです。

モーガンは、俗にいう一発屋だったのかもしれませんが、その“一発”は永遠の命を宿し、今でも音楽ファンを楽しませてくれています。


●この名演をチェック!

エラ・フィッツジェラルド
アルバム『マック・ザ・ナイフ~エラ・イン・ベルリン』(Verve)収録

エラはキャリアの初期からこの曲を何度も録音していますが、決定版はこれでしょう。〈オーニソロジー〉をはじめ様々な曲を盛り込みながら繰り広げられるスキャットは壮絶無比。ジャズ・ヴォーカルのファースト・レディの実力を見せつけてくれます。



ジョー・パス
アルバム『ヴァーチュオーゾ』(Pablo)収録


名手ジョー・パスがギター1本で臨んだ異色の〈ハウ・ハイ・ザ・ムーン〉。アルバム・タイトルの『ヴァーチュオーゾ』とは達人という意味ですが、その名にふさわしい超絶プレイに、あいた口がふさがらなくなること間違いなしです。