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シャバカ・ハッチングス率いるサンズ・オブ・ケメットが新アルバム『ブラック・トゥ・ザ・フューチャー』をリリース “キング”シャバカを創り上げた音楽ルーツとは

文:土佐有明

 南ロンドンの音楽が面白い。そんな声が日本にもたらされたのは、2017年あたりからだろうか。具体的にはキング・クルールを筆頭に、トム・ミッシュ、ロイル・カーナー、ジェイミー・アイザックといったミュージシャンが立て続けに良作をリリースし、ゆるやかなシーンを形成。そして、ジャズの名門・インパルスから新作『ブラック・トゥ・ザ・フューチャー』をリリースした4人組、サンブ・オブケメット(以下、サンズ)もそうしたアクトのひとつだ。サックス奏者で中心人物のシャバカ・ハッチングス(以下シャバカ)に話を訊くことができたので、彼の発言を引用しながら論を進めよう。

 


©Udoma Janssen


 サンズがユニークな音楽性を誇っているのは、特異な編成によるところが大きい。サックス、チューバ、ドラム×2。チューバはベースの役割を担い、2台のドラムが肉感的なグルーヴを生み出していく。彼らの最大の持ち味は、ジャズを中軸としながらも、レゲエやソカ、アフロビート、ヒップホップ等々を投入した闇鍋的なサウンド。シャバカによれば、南ロンドンには移民が多く住んでおり、アフリカ系やカリブ系、アジア系のコミュニティが形成されていたことが、結果的に多国籍でジャンル横断的な音楽を生んだという。
 また、南ロンドンはダブステップ発祥の地であり、グライムやラップ・ミュージックが盛んだったことも追い風となったのだろう。「普通は特定のジャンルに自分のアイデンティティを求めることが多いけれど、サンズやその周りのミュージシャンはいい意味でひとつのルーツにこだわることがない。カメレオンのように様々な音楽を作れるんだ」とシャバカは言う。
 そんなサンズの新作『ブラック・トゥ・ザ・フューチャー』だが、ヴォーカリスト、詩人、ラッパーが参加し、独自のヴォイスを聴かせているのが鮮烈。最初と最後の曲はブラック・ライヴズ・マタ―に触発されてできた曲だという。なお、レコーディングは2019年の9月、コロナウイルスが猛威を振るい始める直前だったそう。それが結果的に功を奏することになった、とシャバカは言う。
 「コロナ禍でロックダウンされたことで、録音した演奏を聴き直す時間がたっぷりあったので、アルバムのストラクチャーをじっくり考え直して、編集する時間があった。色々な楽器を加える作業もロックダウン中にできたんだ。そのことによってより緻密で精度の高いアルバムになったと思うよ」

 


©Udoma Janssen


 なお、南ロンドンの音楽シーンに影響を与えているのが、91年に設立されたNPOのトゥモローズ・ウォリアーズだ。無償でジャズを教えるこの教育機関を通じて、多くのミュージシャンが自由に音楽に触れてきた。昨年来日したエズラ・コレクティヴにインタビューした際も「ジャズを教わっていた人が教える側にもまわったりする。循環的で相互扶助的な機関が出来上がりつつあるんだ」と話していた。シャバカもまたこの機関で多くを学んだという。
 「トゥモローズ・ウォリアーズは年上のミュージシャンから音楽を学べる環境があって、色々なアドバイスをもらった。そして、相互扶助的というのはまさにその通りだと思う。老若男女、白人黒人、階級などに関係なく、音楽をシェアすることができたんだ。あと、僕は6歳から16歳まで西インド諸島の国であるバルバドスにいたから、レゲエやソカが身近にあって、自然にそれらを吸収することができた」

 また、シャバカのキャリアの中でも貴重な体験だったのが、サン・ラ・アーケストラに参加したことだという。アーケストラの最高指導者だったサン・ラは93年に亡くなっているが、その後はサックス奏者のマーシャル・アレンを中心に活動を続け、昨年、21年ぶりとなる新アルバム『Swirling』をリリースしている。アーケストラで学んだこともたくさんあったとシャバカは言う。
 「最初にアーケストラの一員としてステージに立ったあとに、おまえは頭で考えすぎだ、とにかくプレイしろとマーシャルに言われた。もし何か間違えたらおれが教えるから、とにかく好きなようにやれと。今でも煮詰まるとその言葉に立ち返る。ライヴ後に自分の演奏を振り返って考えることはあっても、ステージに立っている時はそういうことを一切考えない。演奏している時はその時のアクションだけを考えるんだ。その教えは今も活きているよ」

 


©UdomaJanssen


 シャバカはシャバカ・アンド・ジ・アンセスターズなど、別ユニットでもアルバムを発表している、シーンの牽引者的な存在。南ロンドンで活躍するアクトの音源をコンパイルした2017年の『We Out Here』では音楽ディレクターを務めている。なお、同作はジャイルス・ピーターソンのレーベル=ブラウンズウッドからリリースされた。今思うとあのアルバムが南ロンドンのシーンの発火点となったようにも思える。シャバカらが形成してきたシーンから今後どんな才能が生み出され、名盤が届けられるか、注視したいところだ。


サンズ・オブ・ケメット『ブラック・トゥ・ザ・フューチャー』

好評発売中
品番:UCCI-1049 (SHM-CD)   
価格:2,860円(税込み)

1, フィールド・ニーガス / Field Negus
2. ピック・アップ・ユア・バーニング・クロス / Pick Up Your Burning Cross
3. シンク・オブ・ホーム / Think Of Home
4. ハッスル / Hustle
5. フォー・ザ・カルチャー / For The Culture
6. トゥ・ネヴァー・フォーゲット・ザ・ソース / To Never Forget The Source
7. イン・リメンブランス・オブ・ゾーズ・フォーレン / In Remembrance Of Those Fallen
8. レット・ザ・サークル・ビー・アンブロークン / Let The Circle Be Unbroken
9. エンヴィジョン・ユアセルフ・レヴィテーティング / Envision Yourself Levitating
10. スルーアウト・ザ・マッドネス、ステイ・ストロング / Throughout The Madness, Stay Strong
11. ブラック / Black

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