PICK UP

【連載】Sampling BLUE NOTE 第6回 Bobby Hutcherson / Montara


“史上最強のジャズ・レーベル”と称されるブルーノート。その一方で、“最もサンプリングされてきたジャズ・レーベル”と言っても過言ではない。特に1970年代のBNLA期に発表されたソウルフルかつファンキーな作品は、1980年代以降ヒップホップやR&Bのアーティストによって数多くサンプリングされた。このコラムは、ジャズだけでなくクラブ・ミュージックにも造詣の深いライターの小川充が、特に有名な20曲を厳選し、その曲の魅力やサンプリングされて生まれた主要トラックを解説する連載企画(隔週更新)。

文:小川 充


【第6回】
Bobby Hutcherson / Montara
ボビー・ハッチャーソン / モンタラ
AL『モンタラ』収録




◆サンプリング例
スチャダラパー / サマージャム ’95
SALU / 鵠沼フィッシュ
Brian Green feat. Black Eyed Peas / That's Right


ヒップホップなどクラブ・ミュージックの人気サンプリング・ソースとなったことで、本家のアルバムの評価がそれ以前とは一変してしまった作品がある。ボビー・ハッチャーソンの『Montara』(1975年)はその代表作だ。1960年代半ばに頭角を表わしたハッチャーソンは、ハービー・ハンコック、アンドリュー・ヒル、ウェイン・ショーター、ジョー・ヘンダーソンなどと共に<ブルーノート>の新主流派を代表するヴィブラフォン奏者。『Dialogue』(1965年)や『Components』(1966年)などは高い評価を得て、「Little B’s Poem」や「Effi」など後世に残る名曲を生み出している。1970年代以降も新しいチャレンジを行うが、<リバティ>や<LA>時代の作品の評判は以前に比べてあまり芳しくなかった。『Now!』(1970年)のようなニュー・ソウルに接近した作品は、逆にジャズの本流から外れてしまったと敬遠されたからだ。

そうした観点でいくと、『Montara』はウィリー・ボボ、エディ・カノ、ボビー・マトスといったラテン系のミュージシャンが多数参加するラテン・ジャズ集で、ティト・プエンテ作でサンタナもカヴァーした「Oye Como Va」、エディ・パルミエリら多くのラテン・ミュージシャンが演奏する古典「La Malanga」などを取り上げている。ハッチャーソンはヴィブラフォンとマリンバを演奏するが、それらはもともとラテンと親和性が高い楽器である。遡ればハッチャーソンが参加したデューク・ピアソンの『The Phantom』(1968年)もラテン・ジャズをやっていて、『Montara』はそれを受け継ぐような内容だ。ある意味で生まれるべくして生まれたアルバムであるが、ジャズのメインストリームではラテン・ジャズは一段ランクの低い扱いで、当時の評論家たちからほとんど黙殺されるような状況だった。

サンプリングの場合はそうした評論家や世間の評判などは関係のないことで、ただ単に気持ちいい曲か、良いヴァイヴズを持っているかがポイントとなる。表題曲の「Montara」はメネリーク、ロイヤル・フラッシュ、フレディ・クルーガー、ザ・ゲーム、ブラック・スペードらがサンプリングし、ハッチャーソンの涼しげなヴァイブとマリンバの音色が気持ちいいグルーヴを生み出した。さらに、ザ・ルーツが<ブルーノート>のリミックス・プロジェクト『The New Groove』(1996年)で「Montara」そのものをリミックスし、マッドリブが『Shade Of Blue』(2003年)でカヴァーするなど、『Montara』は一躍中古盤店の人気アルバムとなった。昨年の『Blue Note Re:imagined 2020』でもブルー・ラブ・ビーツがカヴァーしている。

Bobby Hutcherson / Montara


日本でもっとも有名なサンプリング例はスチャダラパーの「サマージャム ’95」(1995年)だろう。夏の暑く気だるい雰囲気のリリックがヴァイブとマリンバに結びついた名曲で、後にSALUが「鵠沼フィッシュ」(2012年)でサンプリングした際のインスピレーションにもなっている。「サマージャム ’95」の影響力は今なお続いており、鎮座DOPENESSと環ROYとU-zhaanのユニットや、バーチャルYouTuberユニットのKMNZが楽曲そのものをカヴァーしている。また「ビバリーヒルズ青春白書」の俳優としても知られるブライアン・グリーンの「ザッツ・ライト」(1996年)では、プロデューサーのウィル・アイ・アムが「Montara」と関西弁のガールズ・トークを絡ませるという離れ業をやっていたが、「サマージャム ’95」への一種のアンサー・ソング的なものと言えるだろう。

スチャダラパー / サマージャム ’95


SALU / 鵠沼フィッシュ


Brian Green feat. Black Eyed Peas / That's Right



関連記事
udiscovermusic.jp
ブルーノートとヒップホップの関係:最高峰のジャズ・レーベルは、いかにして最先端の音を受け入れ形成し続けているか
https://www.udiscovermusic.jp/stories/blue-note-and-hip-hop-influence