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【連載】Sampling BLUE NOTE 第8回 Lou Donaldson / It’s Your Thing


“史上最強のジャズ・レーベル”と称されるブルーノート。その一方で、“最もサンプリングされてきたジャズ・レーベル”と言っても過言ではない。特に1970年代のBNLA期に発表されたソウルフルかつファンキーな作品は、1980年代以降ヒップホップやR&Bのアーティストによって数多くサンプリングされた。このコラムは、ジャズだけでなくクラブ・ミュージックにも造詣の深いライターの小川充が、特に有名な20曲を厳選し、その曲の魅力やサンプリングされて生まれた主要トラックを解説する連載企画(隔週更新)。

文:小川 充


【第8回】
Lou Donaldson / It’s Your Thing
ルー・ドナルドソン / イッツ・ユア・シング
AL『ホット・ドッグ』収録




◆サンプリング例
De La Soul / Bitties In The BK Lounge
PIZZICATO FIVE / Bonjour
Nas feat. Amy Winehouse / Cherry Wine


1960年代後半から1970年代前半の<ブルーノート>はソウル・ジャズやジャズ・ファンクのアルバムを多くリリースし、その中でファンクやソウル、リズム・アンド・ブルースの人気曲をいろいろとカヴァーしていた。ビバップの時代から活躍するサックス奏者のルー・ドナルドソンも、当時はソウル・ジャズ系のアルバムを次々とリリースしていた。この頃ではジャズ・ロック路線の『Alligator Boogaloo』やその続編的な『Mr. Shing-A-Ling』(共に1967年)が有名だが、今回紹介するのは『Hot Dog』(1969年)。ドナルドソンの中でもファンキーさは随一のアルバムだ。ジョニー・テイラーの「Who’s Making Love」のカヴァーはじめ、オリジナル曲の「Turtle Walk」や表題曲とファンキーなナンバーが目白押しで、レア・グルーヴの人気アルバムでもある。アフロ・ヘアの黒人女性がホットドッグを片手に微笑むジャケットも最高で、黒人女性のジャケットが多い当時の<ブルーノート>の中でもっとも秀逸な一枚だ。

そして、このアルバムはアイズレー・ブラザーズの「It’s Your Thing」の優れたカヴァーも収録している。アイズレー・ブラザーズは1969年2月16日に「It’s Your Thing」を発表して大ヒットさせ、4月26日にリリースしたアルバム『It’s Our Thing』にも収録して人気を不動にする。『Hot Dog』は4月25日の録音なので、ドナルドソンが旬を逃さずタイムリーにカヴァーしていたかがわかるだろう。「It’s Your Thing」はアメリカ国内外、ジャンルを問わず数多くカヴァーされ、それらカヴァーからもヒットが生まれていく。ドナルドソンの「It’s Your Thing」はオルガンのチャールズ・アーランド、ギターのメルヴィン・スパークス、ドラムスのレオ・ライト(アイドリス・ムハマッドの変名)という当時のソウル・ジャズ~ジャズ・ファンクの最強メンバーが脇を固めた演奏。どっしりとしたリズム・セクションに乗って、オルガンやギターがレゲエにも通じるルーディーな雰囲気を醸し出す。ドナルドソンのアルト・サックスは太く安定感に富む演奏で、一家の大黒柱的な存在感を示している。

Lou Donaldson / It’s Your Thing


この曲のサンプリング例としてはデ・ラ・ソウルの「Bitties in The BK Lounge」(1991年)、ブランド・ヌビアンの「Punks Jump Up To Get Beat Down」(1992年)、ロード・フィネスの「Stop Sweating The Next Man」(1992年)など1990年代前半のヒップホップ黄金期の作品が挙げられるほか、<ストーンズ・スロー>主宰のピーナッツ・バター・ウルフも「Currents」(1994年)で用い、変わり種としてマドンナの「I’d Rather Be Your Lover」(1994年)、ピチカート・ファイヴの「Bonjour」(1994年)などがある。ブランド・ヌビアンやロード・フィネスは王道ヒップホップだが、デ・ラ・ソウルの「Bitties In The BK Lounge」は『セサミ・ストリート』のようなTVマペット・ショーを模したパートがあり、フランス語講座を模したピチカート・ファイヴの「Bonjour」もそれにインスパイアされたされたのではないだろうか。残念ながらどの曲もドナルドソンのサックス・フレーズではなく、イントロのムハマッドのドラム・ブレイクとスパークスのギター・リフをサンプリングしているが、それはビートを作るというサンプリングの特性によるものだろう。そして、ナズがエイミー・ワインハウスをフィーチャーした「Cherry Wine」(2012年)も忘れ難い一曲だ。エイミーと交流の深かったナズが、2011年の彼女の死の翌年にお蔵入りとなっていた昔の録音から引っ張り出してきた曲で、レトロでロマンティックなムードが「It’s Your Thing」のビートにもうまく結びついている。

De La Soul / Bitties In The BK Lounge



PIZZICATO FIVE / Bonjour



Nas feat. Amy Winehouse / Cherry Wine



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