COLUMN/INTERVIEW

【DIGGIN’ THE VINYLS Vol.7】

RAY CHARLES / GENIOUS + SOUL = JAZZ



(文:原田 和典)


インパルス・レーベルは1960年から“仕込まれ”、翌61年2月に産声をあげた。第1回リリースはJ.J.ジョンソン&カイ・ウィンディング『ザ・グレイト・カイ&J.J.』(品番:A-1)、レイ・チャールズ『ジニアス+ソウル=ジャズ』(A-2)、カイ・ウィンディング『ジ・インクレディブル・カイ・ウィンディング・トロンボーン』(A-3)、ギル・エヴァンス『クールからの脱出』(A-4)だった。なかでも本作は発売1か月で15,000枚を売り上げるヒットを記録、シングル・カットされた「ワン・ミント・ジュレップ」もR&Bチャートで首位に輝いた。つまり、スタートしたばかりのインパルスの経済状態を安定させると共に、同レーベルの名を知らしめることにも大きく貢献したひとりこそレイ・チャールズなのである。


レイは59年11月にアトランティックからインパルスの親会社ABCパラマウントに移籍、60年に「ジョージア・オン・マイ・マインド」の大ヒットを放って“時の人”状態となった。この時期のABCは破竹の勢いで、親会社にはレイのほかポール・アンカやロイド・プライスら多数のスターが所属、関連レーベル“チャンセラー”ではファビアンやフランキー・アヴァロンらティーンエイジ・アイドルが入隊中のエルヴィス・プレスリーの座を狙いそうな勢いで瞬間風速的人気を博していた。「流行りもののポップスとは一転、今度はジャズ部門を作ったらどうか。値段はちょっと高めでもいいから、最新の“ステレオフォニック録音”で収録したレコードを分厚い見開きジャケットに入れて、背のデザインも統一して、レコード棚に並べた時に思いっきり“映える”ものにしてはどうか」---------こんな意見が企画会議であがってもまったく不思議はない。


そしてこの2021年、インパルス創立60周年アニヴァーサリーを記念して、『ジニアス+ソウル=ジャズ』が待望のLP復刻とあいなった。オリジナルのアナログ・テープからマスタリングし、180g重量盤ヴァイナルでプレス、さらにStoughton Printing Co.によって高品質のゲートフォールド・スリーヴとチップオン・ジャケットでパッケージ化する“Acoustic Soundsシリーズ”からの登場である。60年12月に行なわれた2つのセッションで構成されており、ひとつは当時のカウント・ベイシー・オーケストラ(いわゆる“新約聖書時代”)から親分ベイシーを除いただけといっても過言ではない顔ぶれ、もうひとつはニューヨークの腕利きの一級ジャズメン兼スタジオ・ミュージシャンが大集合といったところ。当コーナーで以前とりあげた『サラ・ヴォーン&クリフォード・ブラウン』のリズム隊だったジョー・ベンジャミン(ベース)とロイ・ヘインズ(ドラムス)が、ここでも抜群に息の合った連携を届けている。


アレンジはレイとは少年時代からの友人であるクインシー・ジョーンズと、後年、映画『キャバレー』のサウンドトラックでアカデミー賞を獲るラルフ・バーンズが分担。録音は名匠ルディ・ヴァン・ゲルダーの手によるが、ひょっとしたら、59年7月に開設したばかりの新スタジオで行なわれた最も初期のビッグ・バンド・レコーディングにあたるかもしれない。正倉院にインスパイアされて建設された、あの釘一本使われていないスタジオがミュージシャンでいっぱいになり、彼らのさらに前方でレイがオルガンを弾いたり歌ったりしていたのかと想像するだけで、こちらはなんだか気が遠くなってしまう。ミキシング状態は左チャンネルにトランペット&トロンボーン・セクション、右チャンネルにサックス・セクションを大きくふりわけたもの。つまりブラスとサックスの間からレイの歌やオルガンが聴こえてくる。ビッグ・バンドは、たとえばライヴの場合、通常なら向かって左がリズム隊、向かって右が上からトランペット、トロンボーン、サックスの各セクションの並びとなる。なので『ジニアス+ソウル=ジャズ』における音の配置は、そういう意味ではちっともリアルではない。が、破顔一笑せずにはいられないほどダイナミックな“ステレオフォニック感”は横溢している。61年当時、本作に接したひとも、きっとLPを大音量でかけながら、両スピーカーから分かれて飛びかかってくる管楽器の轟音に身もだえしていたに違いないのだ。

ところでレイはこの豪華ジャズ・プロジェクトにただひとりで参加したわけではない。レギュラー・バンドから唯一、トランペッターのフィル・ギルボー(1926年生まれ、2005年死去)を引き連れて録音に臨んだ。レイの許にはいつもジャズに心得のあるミュージシャンが顔を連ねていたが、当時の団員であるハンク・クロフォード、デイヴィッド・ニューマン、マーカス・ベルグレイヴをさしおいてギルボーを選び、しかもソロをたっぷりとらせているのだからレイの彼への途方もない高評価がうかがえる(サド・ジョーンズやジョー・ニューマンですらソロ・パートがないのだ)。多くの録音を残さなかったギルボーの艶やかな音色がしっかり味わえるのは実に嬉しい。彼に関心を持った方は、ぜひ遺族によるフェイスブック(アカウントはPhillip Guilbeau)(20+) Phillip Guilbeau | Facebookもご覧いただきたい。


(作品紹介) 
RAY CHARLES / GENIOUS + SOUL = JAZZ

発売中
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