COLUMN/INTERVIEW

【インタビュー】カンデ・イ・パウロが語る、彼らのこれまでとこれから (前編)


2017年のYouTube動画が1,200万再生を超え世界中で話題となったキーボードのパウロ・カリッソとコントラバス/ボーカルのカンデ・ブアッソによるアルゼンチンのデュオ、カンデ・イ・パウロ。ビリー・アイリッシュを思わせる囁くようなカンデの歌声と、繊細かつ美しいオーガニックなサウンドで急速に支持を集めている。名門デッカ・レコードから待望のデビュー・アルバムをリリースした彼らの音楽には、シンプルでセンチメンタルな響きの中にもある種の優しさを内包した独特の魅力があるが、一体それはどこから来ているのか。まだまだ謎めいた部分も多い彼らだが、今回は自身の口でこれまでの活動や今後の展望についてたっぷりと語ってもらった。本稿では前編として、彼らがどうやってデュオを結成するに至った経緯や、デビュー・アルバムのレコーディングでの思い出などについてを紐解いていく。

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■今回のアルバムとても素晴らしかったです!アルバムについて触れる前に、あなた達2人がどの様にしてグループを組んで活動する様になったのか、日本のファンへ簡単にご紹介をいただけますか?

カンデ・ブアッソ(以下C):私たちは4年間一緒に自分たちだけでやってはいたんだけど、デッカ・レコードとの契約は本当にごくごく自然の流れと言うか偶然だった。私たちが暮らしているこの町がルイス・アルベルト・スピネッタへのオマージュ・コンサートを開催して…

パウロ・カリッソ(以下P):スピネッタはアルゼンチンのとても有名なロック・アーティスト。

C:私たちもスピネッタの大ファンで、それが元で再会したの。一緒に演奏した事もそれまでにあったし、もっと若かった時には彼が私のピアノの先生だったしね。再会した事はクレイジーだったけど、「バロ・タル・ベス」のビデオがバイラルになって、デッカから連絡が来てロンドンに行く事になって、何もかもがクレイジーよね。だって私たちが暮らしているのは、山に囲まれた本当に辺鄙なところで、産業もないところだからね。

(2017年に公開され、2人の再会のきっかけともなった「バロ・タル・ベス」。現在1,300万再生を記録している)

■カンデさんはコントラバスとヴォーカルと言う少し変わったコンビネーションでの演奏スタイルをとられていますが、この様なスタイルとなったきっかけはどの様なものだったのでしょうか?

C:ベースを演奏し始めた時、初めてベースを演奏しながら歌を歌うのを見たのはエスペランサで、彼女がベースのソロを演奏してヴォーカルを組み合わせて両方でインプロビゼーションしていくのを見て、これとってもクレイジーだけど、どうやってるんだろう、って思ったの。指で弦をはじくピチカート演奏もそうだけど、自分はそこに弓でもピチカートをしながら歌っていければと思ってやっているわ。それを加える事は、もうちょっと難しいと言うか、複雑なんだけど、オリジナリティがあるところだと思う。ベースとの出逢いも突然だったんだけど、余りにも強烈だったからもう離れられなくなってしまったの。「バロ・タル・ベス」がバイラルになったのはベースを1年半くらいの事。元々ベースはクラシックから入っていったの。「バロ・タル・ベス」から4年間経ったけれど、この4年はとても素敵なプロセスだった。振り返るとハッとするの、だってそれが全部記録されているからね。

(カンデがヴォーカル/コントラバスのコンビネーションを始めるきっかけとなった、Esperanza Spalding)

■ベースを始めたきっかけは?

C:楽器がむこうからやってきた感じだった。ヴォーカルの技術はそれまで独学だったんだけど、自分のヴォーカルの限界も知っていたし、とても慎重に歌っていた。ベースを勉強し始めた時に、同時にヴォーカル技術も学び始めて、それも役に立ったわ。例えば寒い時に声帯をしっかりウォーム・アップしていないと声が出なかったのが、今はもっと長時間歌えるし、長時間勉強もできるの。だから日々の小さい成長が全てを強くしてくれる。ベースは、クラシックから入っていたけれど、もうジャズ、ポップスは歌っていたから、それもやっていった。私としてはクラシックではない部分でのベース技術を高めて、それをジャズとかに持ち込みたいって思っていたの。

■パウロさんは数年間ブエノスアイレスでミュージシャンとして活動し、その後拠点をサン・フアンに移されたと伺いました。ブエノスアイレスでの活動で得たものは何だったか、そして拠点をサン・フアンに移した理由をお聞かせいただけますか?

P:正直ブエノスアイレスで暮らしたって言うのはなかったんだよね。何時も行ったり来たりだったんだ。確かに学校を出てすぐの19歳の頃、アルゼンチンのブルース・ギター・ヒーローのミゲル・ボタフォゴとやらないかって言うオファーを貰って、その時には引っ越して1年半ブエノスアイレスで暮らした。とても時間をとられる仕事で、毎週ライブがあって常にツアーに出ていた。その後、サン・ファンに戻ったんだけど、若かったしホームシックだったんだよね。ブエノスアイレスって大都会でカオスだし、サン・ファンはとても小さくてまとまっている町だったから…僕としてはそっちの方が好きだったんだ。戻ってきてからも常にブエノスアイレスに行って、むこうでバンドもやっていたし、幸いにも本当に有名なアーティストたちと仕事もさせて貰った。セーサル・フラノヴィとカルロス・リベロとトリオも組んでいたんだよ。カルロス・リベロってパーカッションもベースもやる人で、Spinetta Jadeというバンドでベースを担当していたんだ。そう、だから何時も行ったり来たりして、ブエノスアイレスにしっかり根を下ろすって事はした事はないんだ。数か月行って、戻ってきて、って、ノマド的だったんだ。

(パウロ・カリッソ・トリオによる2017年の演奏。カンデ・イ・パウロとはまた違ったエネルギッシュなサウンドとなっている)

■デッカとの契約はどのように決まったのでしょうか?

P:そう、インスタでメッセージが来て、デッカにプロジェクトを紹介したいからビデオ会議できないか、って。僕たちは嘘だと思ったんだ。だって変だよね、イギリスのレコード会社から突然連絡が来るなんて(笑)かつがれているか、詐欺かって思ったんだ。世の中には結構色々変な事やる人がいるから。で、ビデオ会議をやりたいって言われて応じたら、デッカのお偉いさんが揃っていたんだよね。ロンドンに演奏しに来ないかって言われてロンドンに行ったらそこから全部が始まった。ロンドンではもう少しプロジェクトや、彼らが僕たちについて考えている事なんかを話せてとても良かったね。笑い話なんだけど、何時かレコード会社から連絡が来るとしたらスーツを着て葉巻を口にくわえて「Hey guys!」って言う様な人が現れるんじゃないかって想像していたんだけど、実際はとてもいい感じの人たちで普通っぽい感じだったからホッとしたんだ。

■6月4日にリリースされたデビュー・アルバム『カンデ・イ・パウロ』は、ラリー・クラインプロデュースのもとロサンゼルスでレコーディングされました。初のLA録音だったと思いますが、レコーディングやミュージシャンとのやり取り、ロサンゼルスでの滞在などで印象深いエピソードがあれば教えていただけますか?

P:結構面白い事がたくさんあったよね。街自体からして凄かったし、ハリウッドに行けるなんて…アルゼンチンから見るとハリウッドって映画の世界って言うか、伝説的って言うか…街中を歩いている人とか、その話し方とか…とにかく独特だよね。スタジオで面白かった話としては、到着した時、もの凄くビビって、とっても緊張していたから何とか隠さないと、って思って。ラリーもいて、ダイアナ・クラールと一緒にやっていているギタリストで僕たちが大ファンのアンソニー・ウィルソンもいて。ドラムスはアラニス・モリセットや、僕が大好きなベックなんかともやっているヴィクター・インドリッソだったしね。でも同時にとてもやりやすかった。人間としても本当に楽しくて良い人だったからね。少ししてからスタジオでバスケットの試合をやったんだけど、そこから少し普通になったんだ。

(「バロ・タル・ベス」。映像内でLAでのレコーディング風景を少し垣間見ることが出来る)

C:あとね、毎晩プール・パーティーが開かれていたにもかかわらず、私たちはもうホテルに戻ると毎日疲れ切っていたから一度も参加できなかったの!レコーディングの何日目だったか忘れたけど、ルーズベルト・ホテルで朝起きて窓の外を見ると、多分徹夜でパーティーをしていた人だったんだろうけど、ミッキーマウスとスパイダーマンが殴り合いのケンカをしていて本当に凄くて動画も撮っちゃった。

P:最高だったね。二人ともメッチャクチャ酔っぱらっていて、ミッキーマウスとスパイダーマンが大喧嘩。行きたい気持ちはあったんだけど、一日中働いていたから本当にプールですら行けなかったね。ロスアンゼルスで一番楽しかったのは、ミュージシャンたちとラリーとクリエイティブな作業をしながらスタジオで過ごした時間。もの凄くダイナミックで凝縮されていてスピード感もあって…

C:でも本当に疲れた。

P:確か15日でレコーディングしたんだよね。

C:最終日にはラリーの家に行って…

P:ラリーの家に食事しに行って音楽聴いて…とても強烈な経験で疲れ切っていたけど、特別な経験だったね。聴く人も、魔法の様に生まれたその隠されたエネルギーを感じてくれると思う。クレイジーだったよ。


(後編へ続く)


■リリース情報

カンデ・イ・パウロ デビュー・アルバム『カンデ・イ・パウロ』
2021年6月4日発売 SHM-CD UCCM-1263 ¥2,860(税込)
https://jazz.lnk.to/CandeyPaulo_CPPR

収録曲 ※括弧内はオリジナル・アーティスト
01. トリーティ (レナード・コーエン)
   Treaty
02. サマータイム (ジョージ・ガーシュウィン)
   Summertime
03. リミット・トゥ・ユア・ラヴ (ファイスト)
   Limite En Tu Amor
04. ウォーク・オン・バイ (ディオンヌ・ワーウィック)
   Deja Atras
05. アイ・フォール・イン・ラヴ・トゥー・イージリー (フランク・シナトラ)
   I Fall In Love Too Easily
06. トゥージョ (ロドリーゴ・アマランテ)
   Tuyo
07. 僕は待ち人 (ヴェルヴェット・アンダーグラウンド)
   Estoy Esperandote
08. シュガー・マウンテン (ニール・ヤング)
    Sugar Mountain
09. スリル・イズ・ゴーン (レイ・ヘンダーソン)
   The Thrill Is Gone
10. バロ・タル・ベス (ルイス・アルベルト・スピネッタ)
   Barro Tal Vez
11. プレグンタン・デ・ドンデ・ソイ (アタウアルパ・ユパンキ)
   Preguntan De Donde Soy
12. イントゥ・ホワイト (キャット・スティーヴンス)
   En Blanco Estas
13. 修羅の花 feat. 梶芽衣子 (梶芽衣子) *
   Shura No Hana
*日本盤限定ボーナス・トラック

■カンデ・イ・パウロ リンク情報
ユニバーサル・ミュージック: https://www.universal-music.co.jp/cande-y-paulo/
本国公式HP: https://www.candeypaulo.com/
Twitter: https://twitter.com/candeypaulo
Facebook: https://www.facebook.com/CandeyPaulo